はじめに:「何を作ればいいのか」から分からない、が普通です
オンライン講座、スクール、コンサルティング、会員制サービス。自分の知識やスキルを商品にして売るとき、避けて通れないのが書面の整備です。ところが、いざ作ろうとすると、最初の一歩でつまずきます。作るべきなのは「契約書」なのか、「利用規約」なのか。それとも両方なのか。
検索すると、契約書の作り方を解説する記事と、利用規約の作り方を解説する記事は、それぞれたくさん見つかります。ただ、「自分のビジネスにはどちらが必要なのか」を判断させてくれる記事は、意外と少ない。実際のご相談でも、この入り口の整理がないまま、契約書と規約の内容がひとつの書面に混ざってしまっているケースを、よくお見かけします。
この記事では、契約書と利用規約の性質の違いから、自分のサービスにはどちらが要るのかの判断基準、両方を組み合わせる場合の住み分け、そして高額サービスで分割払いを受ける場合の法律上の注意点までを、順番に解説します。
契約書とは:特定の相手との合意を「固定」する書面
まず、契約書の性質から整理します。
契約書は、特定の相手との個別の合意を記録する書面です。誰が、何を、いくらで、いつ提供するのか。当事者の名前が入り、相手ごとに内容が変わりえます。署名や記名押印、電子契約であれば電子署名によって、「この相手と、この条件で合意した」という証拠になります。
契約書のいちばんの特徴は、固定されていることです。一度交わした内容を変えるには、相手との合意が必要で、どちらかが勝手に書き換えることはできません。この固定力があるからこそ、金額や支払い条件のような、後から動かされては困る事項の置き場所に向いています。
向いているのは、高額・長期間・個別性の高い取引です。数十万円のコンサルティング契約、期間の長いスクール、相手によって条件を変えるサービス。取引の重みに対して、合意の証拠もしっかり残したい場面です。
利用規約とは:全員に共通のルールを「育てる」書面
利用規約は、サービスの利用者全員に同じように適用されるルールです。
当事者の名前は入りません。アカウントの管理、禁止行為、サービスの停止、免責、といった共通ルールを定めて、申し込みの際に「規約に同意する」という形で受け入れてもらいます。一人ひとりと交渉して決めるものではなく、運営側が用意した内容に、利用者が同意して乗る形です。
規約のいちばんの特徴は、改定できることです。サービスを運営していると、想定していなかった事態が必ず起きます。迷惑行為の新しいパターン、システムの変更、運用ルールの見直し。そのたびに利用者全員と個別に合意し直すのは現実的ではないので、あらかじめ変更の手続きを定めておけば、合理的な範囲の変更を所定の周知で行える。民法の定型約款という仕組みが、この運用を支えています。
向いているのは、同じ内容のサービスを多数の相手に提供する場面です。月額制のサービス、教材の販売、コミュニティの運営。一人ずつ契約書を交わしていたら回らない規模のビジネスで、力を発揮します。
どちらを作るか:三つの質問で判断する
自分のサービスにどちらが要るのかは、次の三つの質問で、おおよそ判断できます。
第一に、取引の条件は、相手によって変わるか。金額、支払い方法、期間、提供内容が全員同じなら規約だけで回る可能性があり、人によって変わるなら契約書が要ります。
第二に、相手の数はどのくらいか。年に数件の高額契約なら、一件ずつ契約書を交わす手間は問題になりません。月に何十件も申し込みがあるなら、全件で契約書を交わす運用は現実的でなくなっていきます。
第三に、ルールを後から変える必要があるか。コミュニティの運営ルールやサービスの利用方法など、運用しながら直していく類いのルールが多いなら、改定できる規約の仕組みが必要です。
この三つに答えていくと、多くのビジネスは三つの型のどれかに落ちます。低額・大量・条件均一なら、規約だけ。高額・少数・個別性が高いなら、契約書だけ。そして、高額だが申し込みは継続的にあり、共通ルールも必要——多くのオンライン講座やスクールがここに当てはまります——なら、契約書と規約の両方を使う型です。
身近な例を当てはめてみます。数千円のテンプレートや教材のダウンロード販売なら、規約(と特商法表記)だけで足ります。年に数件しか受けない法人向けの顧問契約やコンサルティングなら、案件ごとの契約書だけで回り、規約は要りません。月額制のオンラインサロンは、条件が全員同じなら規約だけでも作れますが、プランが分かれて個別性が出てくると契約書的な書面が欲しくなります。数十万円の講座を毎月販売し、教材とコミュニティとサポートが付くサービスは、典型的な両方型です。自分のビジネスがどの型なのかを最初に決めると、その後の書面づくりに迷いがなくなります。
両方使う場合の住み分け:個別の条件は契約書、共通のルールは規約
両方を使う場合に大事なのが、どの内容をどちらの書面に置くかという住み分けです。基準はひとつで足ります。その条文の内容は、利用者によって変わるか。
変わるものは契約書へ。受講料・利用料の金額。一括か分割かの支払い方法と、分割の場合の回数・各回の金額。サービスの開始日と契約期間。返金や中途解約の金銭的な条件。
変わらないものは規約へ。アカウントとパスワードの管理。教材やコンテンツの転載・共有の禁止と、知的財産権の帰属。他の利用者への勧誘や誹謗中傷といった禁止行為。システム保守や障害によるサービス停止と免責。規約の変更手続き。
迷いやすいのは、両方にまたがる事項です。たとえば返金は、金額の条件は契約書に置き、申請の手続きは規約に書く、という形で二枚をつなぎます。解除も、支払いの不履行を理由にするものは契約書側、利用ルール違反を理由にする利用停止や除名は規約側、と理由によって置き場所が変わります。
逆に、いちばん避けたいのは、二種類の内容をひとつの書面に混ぜることです。書面全体に署名をもらうと、規約として柔軟に改定したかった部分まで個別の合意として固定され、ルールひとつ直すのに全員の同意が必要になります。かといって変更条項で全体を改定できる作りにすると、金額のような固定すべき合意まで一方的に動かせるように読めてしまう。混ぜた書面は、固定の良さも改定の良さも失います。
規約の同意は「取り方」で効力が変わる
利用規約を使う場合、内容と同じくらい大事なのが、同意の取り方です。規約は契約書と違って署名をもらわないため、「同意した」という事実の作り方が、効力を左右します。
最低限そろえたいのは、次の状態です。申し込みの前に、規約の全文を確認できること。リンクの置き場所が分かりにくかったり、決済後にしか読めなかったりする導線は避けます。そして、同意のチェックボックスなど、利用者の能動的な動作を挟むこと。「申し込んだら自動的に同意したものとみなす」とだけ書いて、規約の存在を示さない形は、いざというとき「そんなルールは知らなかった」という主張を許します。
加えて、いつ、どの版の規約に同意したのかが、後から分かる記録を残しておくこと。申し込みフォームの送信記録や決済の日時と、その時点で掲示していた規約の版を突き合わせられるようにしておけば足ります。どれだけ良い規約を書いても、同意の事実を示せなければ使えないので、ここは内容と同じ優先度で整えてください。
規約を変更するときの手続き
規約の強みは改定できることだと書きましたが、自由に変えられるという意味ではありません。
民法の定型約款のルールでは、変更が利用者の利益になる場合や、契約の目的に反せず合理的といえる場合に、所定の手続きで変更できるとされています。手続きの中身は、変更後の内容と効力発生時期を定めて、ウェブサイトへの掲示などで事前に周知することです。規約自体に、変更がありうること、変更時の周知方法、効力発生のタイミングを定めた条項を置いておきます。
実務で気をつけたいのは、利用者に不利益の大きい変更です。料金の値上げ、提供内容の縮小、解約条件の厳格化。この種の変更は、規約の変更条項があるからといって気軽に通せるものではなく、丁寧な事前告知と、場合によっては経過措置(既存利用者には旧条件を一定期間維持するなど)が求められます。変更できるかどうかの法律論より先に、「どう伝えるか」で信頼が決まる場面です。
高額サービスで分割払いを受けるなら:法律が決めている記載事項
ここからは、高額サービスならではの論点です。数十万円の講座やコンサルティングでは、分割払いへの対応が申し込みやすさに直結するため、分割を受け付ける事業者が多くいます。ただし、後払い・分割払いの取引には、割賦販売法という法律の規制が関わってくる場合があります。
自社で分割を管理するのか、カード会社や決済会社を通すのかといった仕組みによって適用の形は変わりますが、高額・長期の分割を受けるなら、この法律がある前提で書面を整えておくのが安全です。具体的には、分割払いを選んだ顧客との契約書に、次の事項が明記されている状態を作ります。
分割払いの総額。各回の支払額。支払いの時期と回数。支払いの方法。サービスの提供時期。そして、契約の解除に関する事項。
一括払いなら「いくらを、いつ払うか」で済むところが、分割では六項目になります。支払いが将来にわたって続く取引なので、その全体像を、サインの時点で書面に示しておくことが求められるわけです。一括用の契約書をそのまま分割の顧客に流用する運用は、この点でつまずきます。分割の人には、分割用の記載がそろった契約書(または支払条件の別紙)を用意してください。
なお、分割の総額や各回の金額は顧客の選ぶ回数で変わるため、金額欄を記入式にしたフォーマットを作っておくと、申し込みのたびに自分で埋めて運用できます。その場合、金額や日付の欄は埋めて使ってよい部分、法律に合わせて作った解除や催告の条文は変えない部分、という区別を守ることが、フォーマット運用を破綻させないコツです。
支払いが止まったとき:「即解除」とは書けない
分割払いの契約書で、もうひとつ知っておくべきルールがあります。顧客の支払いが止まった場合の手順です。
事業者の本音としては、支払いが止まったら直ちに契約を解除して、残金を一括請求したいところです。ただ、割賦販売の規制が及ぶ取引では、支払いの遅れを理由に解除や残金の一括請求をする前に、20日以上の相当な期間を定めて、書面で支払いを催告することが求められます。「支払いが遅れたら直ちに解除できる」と契約書に書いても、法律のルールが優先するため、その条文は機能しません。
実務的な書き方は、法律の手順に沿わせることです。支払いが遅れたら、期間を定めて書面で催告する。期間内に支払いがなければ、解除と残金の一括請求ができる。あわせて、滞納中はサービスの提供を一時停止できるという条文も置いておくと、支払いが止まったままサービスだけ進んでいく状態を防げます。残金の一括請求を可能にする期限の利益喪失の条項も、この催告の手順と矛盾しない形で組み込みます。
「事業者向けのサービスだから」で安心しない
高額講座やコンサルティングでは、「受講者は事業の目的で申し込むこと」という条件を置いて、事業者向けの商品として販売する形がよく取られます。事業者間の取引であれば、クーリングオフや消費者契約法といった消費者保護のルールは、基本的には適用されないからです。
ただし、ここには注意が必要です。契約書に「事業者として申し込む」と書いてあれば相手が事業者になる、というものではありません。適用の有無は書面の形式ではなく実態で判断されます。開業前の会社員が「これから起業するため」に申し込んだ場合、その人が事業者にあたるかは際どい判断になりますし、高額サービスをめぐる紛争では、まさにこの点が争われます。
書面の作り方としては、事業者向けの建て付けを維持しつつ、「消費者契約法の規定が適用される場合は同法による」という趣旨の一文を置いて、消費者保護ルールが及ぶ可能性を正面から認めておく形が、結局は粘り強い守りになります。あわせて、申し込み時に事業の内容や利用目的を確認する欄を設けて記録を残しておくと、事業者向けという整理に実体が伴います。「一切返金しない」「消費者法は適用されない」と言い切る書面は、強そうに見えて、争いの場では書面全体の信用を下げる方向に働きます。
「無期限」「永久」のプランは、書き方に注意する
高額サービスでは、期間の定めのある通常プランに加えて、期限なくコンテンツやサポートを利用できる上位プランを設ける例があります。このとき、契約書の期間の欄に「永久とする」と書くのは、おすすめできません。
「永久」と書くと、その約束には終わりがなくなります。事業の形は数年で変わるものですし、サービスをたたむ判断をする日が来る可能性も、ゼロではありません。そのとき、期限のない約束を記した書面は、そのまま紛争の根拠になりえます。書き方としては、「契約期間を定めない」と整理したうえで、サービス内容の変更や提供終了の手続き(事前の通知など)を規約側に置いておく形が安全です。
あわせて、何を無期限にするのかも具体的に決めておきます。買い切りの料金で個別対応まで際限なく続ける設計は、利用者が積み上がるにつれて運営を圧迫し、サービス全体の質を下げる原因になります。期限を付けない部分(教材の視聴など、提供コストが増えにくいもの)と、枠を付ける部分(個別のサポートや質問対応)を分けて書いておけば、長期のプランでも約束を守り続けられます。
コミュニティ付きサービスなら、規約に「治安」の条文を
オンラインコミュニティを伴うサービスでは、規約にもう一群、入れておくべき条文があります。利用者どうしの関係を整えるルールです。
具体的には、アカウントの共有や第三者に利用させる行為の禁止。教材・コンテンツの転載や配布の禁止。他の利用者への営業・勧誘行為(別の商材やネットワークビジネスへの誘い込みを含む)の禁止。誹謗中傷の禁止。そして、違反があった場合の利用停止・除名の手続きです。
とくに利用者への勧誘禁止は、コミュニティ型サービスでは外せません。会員どうしの距離が近い場では、別の商売の売り込み先を探して参加してくる人が、残念ながら一定の確率で現れます。それを規約を根拠に止められるかどうかは、コミュニティの居心地、ひいてはサービスの評判を左右します。運営が必要に応じて投稿内容を確認できる旨も定めておくと、対応するときの足場になります。
返金保証を付けるなら:期限・金額・窓口の三点を特定する
申し込みの後押しとして、一定期間内なら返金に応じる保証制度を設ける事業者も多くいます。制度を設けること自体はよい設計ですが、書面に落とすときは三点を特定してください。
期限。決済日から起算して何日以内か。起算点は販売ページの記載とも揃えます。金額。全額か、決済手数料を差し引くのか。窓口。どこに、どの方法で申請するのか。運営が管理する特定の連絡先を明記し、一本に絞ります。
返金をめぐる行き違いの多くは、「申請したはずだ」「届いていない」という窓口の散らかりから始まります。窓口を特定し、申請があった時点でサービスの提供を止められること、返金の完了で契約が終了することまで書いておけば、保証制度がトラブルの種になることはほとんどありません。
販売ページ・特商法表記との整合を取る
オンラインで販売する場合、顧客の目に触れる書面は、契約書と規約だけではありません。販売ページの説明、決済画面の表示、そして特定商取引法に基づく表記。これらが何層にも重なります。
層と層のあいだに食い違いがあると、それ自体が紛争の入り口になります。販売ページには「いつでも解約可能」とあるのに契約書に中途解約の定めがない。特商法表記の返金条件と規約の返金条件が違う。決済画面の金額と契約書の分割総額が合わない。読み比べた顧客は自分に有利な記載を根拠にしますし、争いの場では消費者に有利な解釈が選ばれやすくなります。
書面を作ったり直したりしたときは、金額、期間、解約条件、返金条件の四点について、すべての層で記載が一致しているかを確認してください。それから、同意を取る順番も重要です。規約への同意と契約書の締結が先、決済が後。お金を受け取った後で初めて条件を見せる、という順番になっていると、「払う前には知らされていなかった」という主張に正面から反論できなくなります。
契約書側は、電子契約で結ぶのが現実的
両方型のビジネスで、契約書をどう取り交わすかにも触れておきます。
オンラインのサービスでは、顧客は全国にいます。紙の契約書を郵送して、署名して返送してもらう運用は、申し込みから開始までを間延びさせ、せっかくの申し込みの熱を冷まします。現実的なのは電子契約で、電子署名による契約は日本法のもとで有効に成立します。契約書の結びの文言も、「本書2通を作成し記名押印のうえ各1通を保有する」という紙前提の形から、「電磁的記録を作成し、双方が電子署名を行う」という形に直しておきます。
電子で結ぶ場合に忘れずにやっておきたいのが、控えの交付です。締結した契約書のPDFを必ず相手に渡し、いつでも読み返せる状態にしておきます。利用の途中で条件を確かめたくなったとき、手元に書面がない顧客は記憶で補おうとし、記憶は自分に都合よく補正されます。すぐ確認できる控えがあるだけで、この種の行き違いはかなり減らせます。
書面は作って終わりではない:版の管理と定期的な見直し
最後に、書面のメンテナンスの話です。
契約書をフォーマット化して自分で運用していると、書面は静かに増殖していきます。少しずつ文言を直したり、プランごとに派生版を作ったりするうちに、どの顧客とどの版で契約したのかが分からなくなる。これを防ぐには、書面の末尾に版数と日付を入れて、改定のたびに更新する習慣をつけておくことです。誰がどの版で契約したかを辿れるようにしておくと、条文を改善したときに、新旧どちらの条件が適用されるのかで混乱しません。
それから、年に一度くらいは、書面一式を見直す機会を持つことをおすすめします。サービスの内容は変わっていくのに、書面だけが開業時のまま、というのはよくあることです。提供内容と条文がずれていないか。販売ページと金額・条件が一致しているか。法律の改正に置いていかれていないか。商売の棚卸しと一緒に、書面も棚卸しをしてください。
まとめ:書面の構造は、ビジネスの構造に合わせる
整理します。契約書は、特定の相手との合意を固定する書面。利用規約は、全員共通のルールを育てる書面。どちらが要るかは、条件の個別性・相手の数・ルール変更の必要性で判断し、高額のオンライン講座やスクールでは両方を組み合わせる型が標準的です。住み分けの基準は「その内容は人によって変わるか」のひとつだけ。分割払いを受けるなら法定の記載事項と催告の手順を組み込み、事業者向けの建て付けに頼り切らず、販売ページから特商法表記までの整合を取る。
書面の整備は、売上を直接増やす仕事ではありません。ただ、高額サービスの販売では、書面の整いがそのまま事業者の信用に見えます。取引条件が明確で、法律のルールを踏まえた書面を渡せることは、価格に見合う仕事をする事業者だという、目に見える証明になります。手元の書面が「契約書なのか規約なのか分からない一枚」になっている方は、この記事の住み分けを物差しに、一度仕分けてみてください。
本記事は、サービス販売における契約書・利用規約に関する一般的な考え方の解説です。割賦販売法や消費者契約法の適用の有無、条項の有効性は、取引の仕組みや個別の事情によって判断が変わりますので、実際の作成にあたっては個別の検討をおすすめします。契約書・利用規約の作成・確認のご依頼は、出品中のサービスからお気軽にどうぞ。