「あの教材は、私が作ったので持って帰ります」——講師にそう言われて、オンライン塾の講師との業務委託契約書を見直した話

「あの教材は、私が作ったので持って帰ります」——講師にそう言われて、オンライン塾の講師との業務委託契約書を見直した話

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法律・税務・士業全般

■辞めていく講師から、ある日こう言われたら、どうしますか。


「あの教材、私が作ったものなので。これからはうちでは使わないでください」
塾の看板になっていた人気教材。生徒からの評判もよかった。それが、講師ひとりの退職で、使えなくなるかもしれない——。
実は、これは「ありえない言いがかり」ではありません。契約書の書き方しだいで、本当に起こりうる話です。そして多くのオンライン塾が、この落とし穴に気づかないまま、ひな形の契約書で講師と契約を結んでいます。
この記事では、オンライン塾が講師と業務委託契約を結ぶときに、後で「しまった」とならないための確認ポイントを、行政書士の視点でお話しします。むずかしい言葉は使いません。「契約って苦手で…」という方こそ、読んでみてください。

■ まず、いちばん大事なこと:教材の権利は「最初は講師のもの」


さきほどの「教材を持って帰る」話。なぜ起こるのか。
それは、講師が作った教材やテキストの著作権が、作った時点では、まず「作った講師のもの」になるからです。雇っている社員が仕事で作る場合とは、扱いが違うのです。
だから契約書に「成果物の著作権は塾に帰属する」と書いてあっても、実は足りないことがあります。正しくは、「講師が塾に著作権を譲渡する」という形にしておく必要があります。さらに、「著作者人格権を行使しない」という一文も添えておく。ここまでそろって、ようやく塾は安心して教材を使い続けられます。
ひな形をそのまま使っていると、ここがすっぽり抜けていることが、本当に多いんです。

■ 「同業禁止」と書いても、業務委託では効きにくい


もうひとつ、よくある勘違いを。
「辞めたあと◯年は、同じような塾をやらないこと」。こうした競業避止の条文、ひな形によく入っています。ところが、これは業務委託ではあまり効きません。
競業避止がもともと想定しているのは「雇っている従業員」です。業務委託の相手は、独立した事業者。だから「同業をやるな」とまで縛るのは難しく、極端にいえば、辞めた講師がすぐ隣で塾を始めても、それ自体は止めにくいのです。
「契約書に書いたから安心」と思っていると、いざというときに当てが外れます。
ではどうするか。「同業をやるな」ではなく、「やってほしくない具体的なこと」を禁止事項として並べます。
・この契約で知った生徒・保護者と、塾を通さず直接やり取りしない
・塾を飛ばして、塾のお客様と直接商売をしない
・業務で知ったノウハウや講座名を、そのまま真似て使わない
そして、破ったときの違約金・損害賠償をセットにしておく。業務委託では、こちらのほうがずっと現実的に効きます。

■ その契約書、「実は雇用です」と言われませんか


ここも見落としがちです。
契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも、中身や働き方が雇用に近ければ、「これは実際には雇用だ」と判断されることがあります。名前ではなく、中身で見られるのです。
たとえば、ひな形に「甲と乙が共同で作業し、分担する」と書いてあって、実際にも塾長が毎回こと細かに指示している。ここまでくると、見た目は業務委託でも、中身は「雇われて働いている人」と変わりません。
もし「実態は雇用だった」と整理されると、社会保険や残業代など、想定していなかった負担が一気に出てくることもあります。「業務委託のつもりが、未払い残業代を請求された」というのは、めずらしい話ではないのです。
契約書では、「共同で作業する」のような表現を避け、「必要な情報を共有し、受託者として誠実に対応する」といった書き方に整えておくのが安全です。

■ 生徒・保護者の情報を守る「守秘義務」は、辞めたあとも


塾の講師は、生徒の名前や成績、保護者の連絡先という、とても繊細な情報に触れます。これを「契約が終わったら自由」では困りますよね。
守秘義務は、契約が終わったあとも続くようにしておく。ここを「契約期間中だけ」にしてしまうと、辞めたとたんに歯止めがなくなります。情報がいちばん危ういのは、むしろ関係が終わったあとなのに、です。
生徒・保護者の個人情報のように、何年たっても守られるべき情報もあります。「3年たったら漏らしてよい」というものではないはずです。

■ お金まわりも、先に決めておくと揉めません


オンライン塾でとくに行き違いが起きやすいのが、お金と働き方です。
・報酬は「何に対して」払うか:授業1コマいくら、研修中は別単価、打ち合わせや事務作業は時間あたりいくら、と分けておくと「授業以外はタダ働き」という不満が出にくくなります。
・振替・キャンセル:前日までの振替は対応、当日キャンセルは予定分の報酬が発生、などのルールを先に。
・通信費・機材:自宅・自前の回線で授業をするオンライン塾では、誰が費用を持つのかを決めておく。
・契約期間と途中解約:「やめるときは◯か月前までに連絡」。生徒の引き継ぎの時間も要るので、少し余裕を。
どれも小さなことに見えて、決めていないと毎月じわじわ不満がたまっていきます。

■ 「フリーランス新法」にも、ひと目を


個人の講師に仕事をお願いするときは、いわゆる「フリーランス新法」も関わってきます。業務内容や報酬、支払期日をはっきり示すこと、報酬は成果物を受け取ってから原則60日以内に払うこと、などのルールです。「個人にちょっとお願いするだけ」でも対象になることがあるので、契約書を整えるタイミングで、あわせて確認しておきたい点です。

■ まとめ:ひな形は「出発点」、自分の塾に合わせて整える


契約書のひな形は、あくまで出発点です。同じ「業務委託契約書」でも、塾なのか、デザインなのか、配信なのかで、気をつける場所はまるで変わります。
とくにオンライン塾では、
・教材などの権利を、きちんと譲り受けられているか
・「同業禁止」より、具体的な禁止事項+違約金になっているか
・働き方が「雇用」に見えていないか
・守秘義務が、辞めたあとも続くか
・報酬・振替・費用・期間が、はっきり決まっているか
このあたりを押さえるだけで、結んだあとの安心感がまるで違ってきます。契約書は、うまくいっている間は眠っています。出番が来るのは、たいてい何かあったとき。だからこそ、結ぶ前のひと手間が、後の自分を助けてくれます。


ー この記事について ー
私たちアトラス行政書士法人には、行政書士法にもとづく守秘義務があり、実際のご相談・ご依頼の内容を公開することはありません。本記事は、業務委託契約書の作成でよく扱う論点を組み合わせた一般的な解説であり、特定の案件や依頼者を描いたものではありません。契約書の書き方や最適な進め方は、事業の内容や個別の事情によって変わります。実際の作成にあたっては、個別の確認をおすすめします。




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