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相手が喜ばしい内容を話しているときも同じです。たとえば、カウンセリングにやってきては、毎回、「仕事がつらい」「やり甲斐がない」などと訴える男性がいるとしましょう。その人が、今度、学生時代の部活の友達と久しぶりに集まるのが楽しみだという話をします。こういう場面で、「ああ、それは楽しみだよね」などと言えば、この話は、それ以上、あまり発展しないかもしれません。でももしそこで、「へえ、部活の友達と会うことが、あなたにとって、どうしてそんなに楽しみなことなの?」「よく分からないんだけど、部活の友達と会うことは、あなたにとってどういう意味があるの?」などと疑問を投げかけていけば、どうでしょうか。「学生時代、僕は部活仲間と一緒につらい練習を乗り越えてきたんです」「仲間と一緒なら、どんなつらいことでも頑張れる気がするんです」などと力説し始めるかもしれません。さらには、そこでまだ分かったことにしないで、「へえ、そうなの?どんなふうに?」と尋ねていけば、相手はもっと熱く語り始めることでしょう。
物分かりが悪い態度は、相手に語らせるのに役立ちます。あまり物分かりのよい聴き方をすると、相手は語る必要がなくなってしまいます。このことは、結局は相手が大事なことを語る機会を奪っているのです。
「物分かりが悪い態度」と同じように、相手に語らせる技術として、「聞こえないふり」があります。たとえば、飲酒による問題がある人と面接をしていて、「お酒とのつきあい方だけど、あなたはどうしたいのかな?」と尋ねた場面で、相手が頼りない声で「まあ、やめたいですね」と言ったとします。そこで面接官はちゃんと発言を聴き取っていても、まるで聞こえなかったかのように振る舞い、あえて「えっ?」と尋ね返すのです。そうすると相手は「お酒をやめたいです」と、もう一度、はっきり言う機会が与えられます。この言葉はとても大切な言葉なので、はっきりと言って欲しいからです。相手に言って欲しい言葉、相手がそう言うことによって前に進めると思う言葉は、繰り返しはっきり言ってもらうことが有用です。だから聞こえないふりをして「えっ?」と聞き返すのです。
ちなみに、これに続く面接者の言葉は「そうなの?お酒をやめたいの?どうしてそう思うの?」です。物分かりが悪い態度を取って、相手にその理由を力説する機会を与えるのです。
引用元:杉原保史
『プロカウンセラーの面接の技術』
(創元社,2023年)
09 相手に語らせる P49