🌸花びらの向こう側

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🌸花びらの向こう側

 歩道のアスファルトが見えなかった。

 桜の花びらが重なり合って、薄い桃色の地面をつくっている。乾きかけた花びらの端が反り上がって、風が吹くたびに何枚かがめくれる。その下にまた花びらがあって、さらにその下にも。何層にもなった四月の残骸が、加穂留の足元でかさりと鳴った。

 レンガの花壇を越えた向こう側に、紫色の小さな花と、白い星のような花が咲いていた。名前は知らない。知らないけれど、桜が降りきった後の花壇でまっすぐ上を向いて咲いているのが、なんだか泣きたいくらい眩しかった。

 この花壇の前だ。一年前、誠と最後に話をしたのは。

 あのときも四月で、桜はまだ枝に残っていた。

 二人はベンチに座っていた。隣り合って、でも手は繋いでいなかった。もう何ヶ月もそうだった。繋がないことに理由があるわけじゃない。ただ、どちらからも手が出なくなっていた。

 加穂留が「パリに行くことにした」と言ったとき、誠は膝の上の缶カフェオレを両手で包んだまま、何も言わなかった。四月なのにその日は妙に肌寒くて、誠の指が缶の温度を探しているように見えた。

 「すごいじゃん」

 五秒か、十秒か。それだけの沈黙のあとに出てきたのが、その四文字だった。いつもの声だった。嬉しいのか、悲しいのか、何も考えていないのか。同じトーン、同じ温度。加穂留の耳に、その声はぬるい水みたいに入ってきて、どこにも引っかからずに流れていった。

 引き止めてほしかったのかと言われたら、たぶん違う。

 ただ、あの缶を持つ指が少しでも震えていたら。声がほんのわずかでもかすれていたら。自分はこの人の体のどこかに、ちゃんと居たのだと思えた。確認したかっただけだ。自分の形をした窪みが、誠の中にあるかどうか。

 でも誠は、缶カフェオレを飲み干して、空き缶をきれいに潰して、ゴミ箱に捨てた。いつもと同じ動作で。

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とある近所の木々の花びらが散り積もっていました。

雰囲気が素敵によかったので、どうぞご覧ください。

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