「もしかして自分も騙されているのでは…」という不安
「企画書さえ磨けば、商業出版は実現しますよ」
「今は0円で出版できます」
「出版社の仕組み?だいたい分かっています」
こんな言葉を目にしたとき、どこかで違和感を覚えながらも、「本当にそうならうれしい」と思ってしまう。
本を出したい人ほど、そうした言葉に心が揺れるのではないでしょうか。
今週は「自称・出版の仕組みを知っている人に騙されてはいけない」というテーマで書いていますが、ちょうどタイムリーな記事が2月23日付のYahoo!ニュースに掲載されました。
★重版 怖い と複数検索してください
『「重版こわい」の謎…うれしいはずの重版出来が中小出版社を悩ませている金銭的カラクリ』
この記事を読んで、「やっぱりそうだよな」と思いました。
しかし同時に、「この構造を知らずに“出版を語る人”があまりに多い」とも感じました。
「重版出来」を知らない人が、出版を語る
記事で触れられている「重版出来(じゅうはんしゅったい/じゅうはんでき)」という言葉。
重版が刷り上がった、という意味です。
私はどちらで呼んでもいいと思っていますが、そもそもこの言葉の存在自体を知らない人が、「出版の仕組みを知っている」と発信している現実があります。
私は講談社に新卒で入社し、30年以上この業界で編集をしてきました。
企画会議にも出席し、実際に「採択される企画」と「落ちる企画」の両方を見てきました。
初版3000部という設定も、この記事と同じ。
これは現実的な数字です。
ですが、出版の現場を知らない人は、
「重版=儲かる」
「売れれば出版社はハッピー」
と単純に語ります。
現実はそんなに甘くありません。
大手出版社と中小出版社の“決定的な違い”
例えば、私が在籍していた講談社は昨年度、過去最高益を出しました。
しかし、その中身はどうか。
電子書籍、IPビジネス、海外展開。
もはや「本を作る会社」というより「コンテンツ商社」に近いビジネスモデルです。
新卒採用は東大・京大卒が中心。
「編集がしたい」というより、コンテンツビジネスに関わりたいという志向の人材が多いと聞きます。
一方で中小出版社はどうか。
いまだに紙の売上に依存せざるを得ない会社も多い。
日本の出版社の6割以上が赤字とも言われています。
今回のニュースは、その厳しい実態を示すものです。
「重版がかかれば安心」
どころの話ではありません。
それでも勝っている出版社はある
とはいえ、悲観ばかりではありません。
創業5〜6年、社員6〜7人という少数精鋭で、業界に名を轟かせている出版社もあります。
彼らは感情ではなく、戦略で動いている。
冷静に市場を見て、堅実に売れる本を作る。
情熱と計算の両立です。
出版社というのは、ひと括りにはできません。
規模、思想、戦略、資金体力。
そのすべてが違います。
この現実を知らずに、
「0円で商業出版できます」
「企画書を磨けば必ず通ります」
と言えるはずがないのです。
本気で本を出したい人へ
私は、自称・出版を知っている人を攻撃したいわけではありません。
ただ、真剣に出版を目指している人が、誤った情報で時間やお金を失ってほしくないのです。
出版は夢のある世界です。
しかし同時に、極めて現実的なビジネスでもあります。
構造を知らずに戦うのは、地図を持たずに登山するようなものです。
この記事をきっかけに、
「誰の言葉を信じるのか」
一度立ち止まって考えてみてください。
出版は、情報戦です。
そして、信頼の世界です。
だからこそ、私は現場の現実を、これからも書いていきます。