「当たり前」が突然なくなる瞬間
昨日まで、そこにあったものが、今日はいない。
理由も説明もなく、ただ「ない」という事実だけが残る。
そんな経験、ありませんか。
がっかりする、というより、胸の奥がじわっと冷える。
心配と、寂しさと、少しの後悔。
「もっとちゃんと感謝していればよかった」と。
私は今、その気持ちのまま、近所のお弁当屋のシャッターの前に立っています。
起業一年目の私を支えてくれた、ワンコインの味
2024年10月、30年以上勤めた出版社を辞め、合同会社を立ち上げました。
ひとり出版社としてのスタート。
正直、会社にしがみつく癖が抜けきらず、先の見えない不安ばかりでした。
生活で大きく変わったのは、余計な出費をしないという習慣。
「いつどうなるかわからない」
そのビクビクした気持ちを落ち着かせるために、財布の紐を固くしたのです。
そんな私の強い味方が、近所のランチ限定のお弁当屋でした。
牛タンカレーも、ガパオライスも、全部500円。
今どき、信じられない価格です。
ご夫婦で切り盛りしていて、
「いつもありがとうございます」
その一言を交わすだけの短い時間が、なぜか心をなごませてくれました。
ある日突然、閉じたままのシャッター
ところが、ある日を境に、前触れもなく営業が止まりました。
1日、2日…そして1週間。
シャッターは閉じたままです。
心配になりました。
同時に、喪失感が押し寄せてきました。
「何を食べようかな」と考えたとき、
真っ先に思い浮かぶ店が、もうそこにない。
これは単なる飲食店の話ではありません。
信用が、突然、消えてしまった感覚なのです。
短いやり取りでも、人は信用を積み上げている
お弁当を買う時間は、ほんの数分。
それでも私は、その店に「信頼」を感じていました。
安いからではない。
便利だからでもない。
「あの人の店」だったからです。
この感覚こそ、生成AI時代に人間が担う仕事の核心ではないか。
私はそう思うようになりました。
生成AIにできないことは、感情の記憶を残すこと
生成AIは速い。正確で、便利です。
でも、
「顔が浮かぶ」
「声が思い出される」
「いなくなって心配になる」
そんな感情の記憶までは、代替できません。
「あの人に頼みたい」
「あの店に行きたい」
この指名される状態は、人と人との触れ合いからしか生まれない。
諸行無常。それでも、だからこそ
同時に、この出来事は教えてくれました。
いつまでも同じ状態は続かないということ。
店も、人も、関係性も、永遠ではない。
諸行無常です。
だからこそ、
今ある関係を大切にする。
感謝を言葉にする。
自分という存在を、相手の記憶に残す。
「あなただから」と言われる場所へ
生成AIに勝つ方法があるとすれば、
それは技術ではなく、関係性です。
「あの人と仕事がしたい」
「あの人に相談したい」
そう思われる自分でいること。
そして、そういう人と出会い、つながること。
ワンコインのお弁当屋が教えてくれたのは、
ビジネスの本質であり、
人としての在り方でした。
シャッターの前で立ち尽くしながら、
私は今日も、そのことを考えています。