中国発の大規模言語モデル（LLM）開発企業 DeepSeek は、近年急成長を遂げ、特にオープンソース分野で注目を集めています。しかし、一部では「DeepSeekは危ないのではないか？」という懸念の声もあります。現時点ではDeepSeekが「危ない」と断言できる情報はありませんが、いくつかのリスク要因が考えられます。そこで、本記事ではDeepSeekの現状とリスク要因を詳しく分析し、今後の展望について考察します。
1. DeepSeekとは？
DeepSeekは、中国のスタートアップ企業で、主に大規模言語モデル（LLM）を開発しています。
代表的なプロダクトには以下があります。
• DeepSeek Chat：中国版ChatGPTに相当するAIチャットボット
• DeepSeek Coder：コード生成に特化したモデル
• DeepSeek LLMシリーズ：オープンソースの大規模言語モデル（7B/67Bパラメータなど）
特に DeepSeek-V2 67B は、オープンソースLLMの中でも比較的高い性能を発揮しており、研究者やエンジニアの間で注目されています。
DeepSeekは、中国国内で ByteDance（抖音/TikTokの親会社）やAlibaba、Baiduなどの大手IT企業 と競争しつつ、オープンソース戦略を武器に世界市場への進出を狙っています。
2. DeepSeekが直面する主なリスク要因
DeepSeekの成長には大きな可能性がある一方で、以下のようなリスクが存在します。
(1) 資金調達の不確実性
DeepSeekは現在、外部からの資金調達を積極的に行っていません。しかし、LLMの開発には 膨大な計算資源と高額なハードウェア投資 が必要です。
一般的に、大規模AIモデルのトレーニングには 数十億円～数百億円規模のコスト がかかるため、競合の大企業と比較するとDeepSeekの財務基盤が弱い可能性があります。
競争相手の状況：
• ByteDance：強力な資金力を持ち、すでに大規模なAI開発を進めている
• Alibaba（阿里巴巴）：クラウド事業を活かし、独自のLLM「通義千問」を開発
• Baidu（百度）：検索エンジンと連携したAI「文心一言」を展開
• Tencent（騰訊）：WeChatやゲーム事業とAI技術を融合
こうした企業と比較すると、DeepSeekは 資金面で圧倒的に不利 です。資金調達なしで今後も開発を続けられるのか、あるいはどこかの企業に買収されるのかが注目されます。
(2) 半導体規制の影響
米国政府は、中国企業に対して NVIDIAの最新AIチップ（A100、H100など）を輸出禁止 しています。DeepSeekのような中国のAI企業は、こうした高性能チップなしでAIモデルをトレーニングする必要があります。
現在、中国国内ではNVIDIAの代替として以下のチップが使用されています：
• NVIDIA A800 / H800（規制対象外のダウングレード版）
• Huawei Ascend（中国企業Huawei製のAIチップ）
• AlibabaやBaiduの独自チップ
しかし、性能面では 米国の最新チップに劣る ため、DeepSeekが最先端のAIを開発し続けるのは困難になる可能性があります。
(3) 収益化の課題
DeepSeekは「技術革新を優先し、商業化は急がない」としていますが、持続的な成長のためには収益を確保する必要があります。
現在、多くのAI企業は APIサービスやクラウドソリューションを提供することで収益を上げている ため、DeepSeekもいずれは商業化に踏み切る必要があるでしょう。
競争相手のビジネスモデル：
• OpenAI → ChatGPTのサブスクリプション＆API提供（Microsoftと提携）
• Anthropic → Claude AIのAPI販売（Amazonと提携）
• Google DeepMind → Gemini AIをGoogle Cloudに統合
• Mistral AI → オープンソースモデルを提供しつつ、企業向けサービスで収益化
DeepSeekは、まだ明確な収益モデルを持っていないため、このまま開発を続けるだけでは持続不可能 になる可能性があります。
(4) オープンソース戦略のリスク
DeepSeekは オープンソースLLMを提供する数少ない中国企業 ですが、オープンソースの問題点として以下のリスクがあります。
1. 他社に技術を流用されやすい
• 例：MetaのLlama 2もオープンソースですが、他社がカスタマイズしやすいため、直接的な利益につながりにくい
2. 政府規制の影響
• 中国政府はAIに対して厳しい規制を行っており、特にLLMが政治的に敏感なトピックを扱う際には制約を受ける可能性がある
3. 維持コストが高い
• 無料で提供するオープンソースモデルは、維持・アップデートのコストがかかるため、長期的に見て持続可能か不明
オープンソース戦略はエンジニアや研究者からの評価は高いものの、事業として成功する保証はない ため、DeepSeekの成長戦略としてはリスクが伴います。
3. まとめ：DeepSeekは本当に「危ない」のか？
結論として、DeepSeekがすぐに消滅するわけではありませんが、今後の成長には以下の3つの課題が鍵となります。
1. 資金調達の戦略
• 今後も自己資金で開発を続けるのか、それとも外部投資を受けるのか
2. 半導体規制をどう克服するか
• 中国国内のチップで高性能なAIを維持できるか
3. 収益モデルを確立できるか
• 研究開発だけでなく、実際にビジネスとして成功できるか
これらの問題をクリアできなければ、DeepSeekは競争に敗れ、衰退していく可能性があります。今後の動向に注目が集まるでしょう。
