(2)天動説から地動説への「コペルニクス的転回」:神学・哲学・科学
③「客観的法則の発見」という「パラダイム・シフト」
神の「完全性」「全知全能性」にこだわったスコラ神学の矛盾~「信仰的実存」(初期教会次代)から理性主義的傾向が強まっていき(ハルナック「福音のヘレニズム化」)、「三位一体論」「キリスト論」論争でその傾向が決定的になった上で(「公会議」による「ニカイア・コンスタンティノポリス信条」「カルケドン信条」の決定→「正統」と「異端」の分岐点になりました)、「信仰と理性の調和」(中世スコラ神学)に至りました。こうした「神中心的理性主義」(本質的には「神」の名を掲げた「人間中心主義」です)は「良心」「直観」「常識」「愛」「情緒」といったものを圧するほどの力を持ち、これは中世カトリック時代のみならず、プロテスタント以後も再三現われたのです(魔女狩り、ファンダメンタリズムなど)。
三位一体論~父なる神・子なるイエス・聖霊は一体であるという考え。アタナシウス派が唱え、325年のニカイア公会議で正統な教義と認められました。これに疑義を唱えたアリウス派は異端とされ、ローマ帝国周辺のゲルマン民族に布教していきました。三位一体説には、イエス自身がゲッセマネの祈りで神に痛切祈祷を捧げているように、「神が自分自身に祈るのか」といった問題や、神が十字架につくという「天父受苦説」といった問題がありますが、これは「罪人を救えるのは全知全能である神のみ」という贖罪論的要請から生まれたもので、イエス自身の言説にあるものではありません。ニカイア公会議で採択され、コンスタンティノポリス公会議で修正されたものをニカイア・コンスタンティノポリス信条と言います。これによってイエス=神という図式が確立され、さらにイエスにおいて神性と人性はどのように統合されているのかというキリスト論の問題が起こり、カルケドン公会議において、イエスにおいて神性と人性は一体不可分というカルケドン信条が採択されました。ちなみに、エフェソス公会議でもキリスト論が問題となり、イエスにおける神性と人性を分離し、マリアを「神の母」ではなく、「人の母」としたネストリウス派が異端とされたので、ネストリウス派はシリアから東方に伝わり、唐代中国に至って景教(秦教)と呼ばれるようになり、大秦景教流行中国碑(大秦=ローマ)に記録されているように、祆教(けんきょう、ゾロアスター教、拝火教)、摩尼教(マニ教、明教)と共に西方伝来の三夷教として栄えます。かくして、このニカイア・コンスタンティノポリス信条とカルケドン信条を受け入れるものが正統、疑義をさしはさむのが異端とされてきました。キリスト教における正統か異端かは、実はイエスの言説に合致するかどうかではなく、宗教会議で神学的に決定されてきたのです。
「理性的自律」を中核にすえた近世・近代哲学~ヒューマニズムが神と人を「分離」し、人間を「自立」させました。これは「神」の名・飾りも取り払った「人間中心的理性主義」と言ってもよいでしょう。ティリッヒは中世を「他律」の時代、近代を「自律」の時代と位置付けています。
神学・哲学を脱却した近代科学~神からも人からも独立した宇宙・自然の「客観的法則」の発見がテーマとなりました。神中心の神学とも、人間の主観とも無関係な、物自体の客観的法則(自然法則。再現性・予測性があり、実験や観察によって「仮説」が検証出来ます)を追求する「自然中心的理性主義」=「自然科学」が成立しました。これは「社会科学」(「社会中心的理性主義」)にも応用され、「社会的事実」(フェー・ソシアール。デュルケームによる)の探究・解明が進められたのです。
コペルニクス~ポーランドの天文学者、『天球の回転について』。中世を通じて、アリストテレス、プトレマイオスの天動説がキリスト教の宇宙観になっていたのに対し、ピタゴラス派の主張を受けて地動説を完成させました。
ガリレイ~イタリアの数学者・物理学者、『天文対話』。宇宙や自然を「第二の聖書」と考え、仮説を実験によって実証し、数学的に論証することで近代科学の方法を創始し、宗教と科学を分離します。天文学・力学分野で実験をもとに慣性の法則や自由落下の法則(落体の法則)を発見し、近代物理学の基礎を築きました。また、『天文対話』で地動説を支持しましたが、宗教裁判にかけられて自説を撤回しました。
ケプラー~ドイツの天文学者。ティコ=ブラーエの天体観測によって得られた精密な観測値に基づき、惑星が楕円軌道を描くという法則を発見して、伝統的な宇宙観に変更を迫りました。
ケプラーの3法則~①第一法則(楕円軌道の法則)~惑星は太陽を1焦点とする楕円軌道を描く。
②第二法則(面積速度の一定の法則)~惑星と太陽を結ぶ直線は等しい時間に等しい面積を描く。
③第三法則(調和の法則)~任意の2惑星の公転周期の2乗は太陽からの平均距離の3乗に比例する。
ニュートン~イギリスの数学者・物理学者・天文学者、『プリンピキア(自然哲学の数学的諸原理)』。地上から天体までのあらゆる自然現象の運動を統一的に説明し得る根本原理(運動の法則、万有引力の法則)を発見することで古典力学を確立し、近代的な自然哲学を構築、機械論的自然観(⇔目的論的自然観)に道を開きました。
ニュートンの運動の3法則~①運動の第一法則(慣性の法則)~物体に外部から力が働かない時、またはいくつかの力が働いてもそれらの力がつりあっている時は、止まっている物体はいつまでも静止を続け、動いている物体は等速直線運動を続ける。
②運動の第二法則(運動方程式)~物体に力が働くと、力の向きに、力の大きさに比例した速度の変化である加速度を生じる。
③運動の第三法則(作用反作用の法則)~物体Aから物体Bに力を働かせると、物体Bから物体Aに、同じ作用線上で、大きさが等しく、向きが反対の力が働く。
目的論的自然観~自然界の現象は一定の法則によって規定されているという見方。
機械論的自然観~自然を機械のような存在としてとらえ、自然界の事象を物理的な因果関係のみによって説明する見方。デカルトの物心二元論やニュートンの力学はこの立場に立ち、ここから自然の支配・利用が進みました。
【参考文献】
『コペルニクス革命 科学思想史序説』(トーマス・クーン、講談社学術文庫)
『科学者とキリスト教 ガリレイから現代まで』(渡辺正雄、講談社BLUE BACKS)
『近代科学を超えて』(村上陽一郎、講談社学術文庫)
『キリスト教思想史入門』(金子晴勇、日本基督教団出版局)