― シリーズ「心が限界を超えたとき」―
佳奈は、介護職としての日々を送る中で、心も体も限界に近づいていた。
毎日、朝8時から夜22時まで。
月初には、請求業務のために夜中の3時や5時まで働くこともあった。
人手が足りない困難な利用者の担当は、ほとんど佳奈の手に集中した。
同僚たちは「無理」と避ける仕事も、彼女だけが引き受けていた。
事務所では孤立し、同僚には「冷酷、冷淡」と言われることもあった。
その言葉を、どこかで誇らしく感じる自分にも気づいた。
でも心の奥底では、疲弊していた。
トイレに駆け込み、涙と涎が止まらない日もあった。
勝手に泣きながら、その瞬間
右側から、いるはずのない男の声が聞こえた。
何を話していたかは覚えていない。
でも、確かに、聞こえた。
佳奈は、自分でも説明できない現象に、心の奥で小さな光を見た気がした。
「生きろ」と、誰かが語りかけているように感じた。
心も体も限界に達していた佳奈にとって、
この「声」は、休むことや立ち止まることの許可のようにも思えた。
無理を続ければ、自分が崩壊し、薬に頼らざるを得ない状態になる
そう、直感的に理解したのだ。
佳奈はそこで初めて、自分を守るために立ち止まる勇気を意識する。
「ここにいては、いけない」
心の底からそう思った瞬間だった。