夜の世界で働いていると、
本当にいろんなお客様がいらっしゃいます。
にぎやかに笑って話す人もいれば、
黙ってお酒を飲んで帰っていく人もいます。
でも、どんなお客様でも共通しているのは、
「なにかの理由があって、ここに来てくれた」ってこと。
それが何かは、本人しかわかりません。
だけど、こちら側はそれを無理に引き出すつもりもないんです。
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たまに、仏頂面で入ってきて「ビール」とだけ言うお客様もいます。
はい、なんかあったのね〜。
その「ビール」という一言が、
「ちょっと聞いてよ〜」と同じ意味を持っていたりします。
でも、始めは何を話すでもなく、ただ座っているだけ。
……でも、それでいいんです。
そこから、舞台を少しずつ整えていくのが私たちの役割。
私たちは、たわいもない話をぽつぽつと投げかけていきます。
天気の話、テレビの話、ごはんの話。
なんでもないような会話を重ねながら、
お客様の心がやわらかくなるのを、そっと待ちます。
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「もう、いいかな」
そう思える瞬間がくるまで、急かさず、ただ近くにいる。
ただし、この“たわいもなさ”には全力です。
なんせ……舞台装置は人力なので。漕がなきゃ止まる!
特にウチはカラオケとかの“逃げ場”が無いので、
毎回、真っ向勝負的な感じになります。
ウチはそんな店。
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ちなみに、
「ママじゃないと話さない」というお客様もいれば、
ふとした店子との会話の中で、
ぽろっと本音がこぼれる方もいます。
でも、それはどっちでもよくて。
大事なのは、お客様が“自分のタイミング”で
心をひらけるようにすること。
お店全体で、ひとつの舞台装置みたいに整えていく。
私たちは、主役であるお客様が話しやすいように、
その場を繋ぎ、温めていく。
あとは向いてる方向の違いだけです。
カメラ目線かどうか、みたいな話。
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そんな日々を、ゲイバーのカウンター越しに過ごしています。
そして、思うんです。
話したい時は、キレイに整えない方が良い。
「別に話したいことがあるわけじゃないんだけど……」
そんな気持ちでも、ぜんぜん構わないんです。
だって、たわいもない話の中にこそ、
今の自分がほんとは気づいてほしいことが
そっと隠れていること――けっこうあります。
本音って、少しずつ手繰り寄せた先にあるものだから。
-気が向いたら、ふらっと話してみませんか?-
話すことに理由なんて、いりません。
笑える話でも、くだらない愚痴でも、
ただ黙って一緒に時間を過ごすのでもOK。
私はこの場所で、
あなたの「そのまま」をそのまま受け取れる存在でいたいと思っています。
「今日さ、こんなことがあってさ」
そんな一言から、きっと物語は動き出します。
今夜じゃなくても、思い立った時で大丈夫。思い出したら、ここに来てください。