(1)問題
次の文章を読み,「継続することの意味」についてあなたの考えを論じなさい。
① 日記はどんなふうに書いてもOKだ。ちょっと書いて気にいらなかったら,ちがうものを書けばよい。書き直しもできる。追加・訂正もできる。まちがった字だって,どんどん書ける。どこからも文句は来ない。おとがめもない。「正しい日本語」にしばられる必要はないのだ。
② 汚れていても,蜀っていても,荒れていても,ことばがあればそれでいい。日記は自由の世界である。なれないうちは,かたちにこだわらないことだと思う。よく元旦からつけるという人がいるが,だいたい途中でしおれてしまう。「今年は,今年こそは」とばかり思っているので,力がはいってしまうのだ。
③ はじめてつける人は,二月一七日とか,六月二日とか,いつでもいいが,なんでこんな日からスタートするの? と思われるくらいの日でもいい。途中からというのは気持ちが悪いように思うが,そのほうがリラックスしてつづくものである。曜日も,日曜や月曜よりも水曜,金曜からとかがいいかもしれない。これも同じ理由である。
④ 最初のうちは,こまかくつけるつもりで,文字が小さい。そのうちに,「また日記か」などと思い,だんだんてあらになる。文字も大きくなる。そのうちに,日記帳なり大学ノートの誌面がだらけてきて。「もうやめようか」ということになる。だからはじめは,少しあらっぽい字で書きはじめ,そのうちに細かい宇にしていくと,「これはつづけよう」という気持ちになれるかもしれない。
⑤ 「□□へ行った」「〇〇をした」というのが日記の基本的文体だ。また印象や感情をあらわすときは,「△△だった」「××と思った」のようになる。
⑥ 日記は,リラックスしている状態で書くので「とても楽しかった」「たいへんおいしかった」などがどうしても多くなる。どんなふうに楽しかったか,おいしかったかを書く必要はない。気持ちさえあらわれれば厳密でなくていい。おおざっぱでいい。そのほうが書いているときの疲れがとれるのである。無理をして表現を工夫したりしたら日記をつけることで疲れてしまう。最初はおおざっぱにつけていくことだと思う。
⑦ 人間は疲れると,文章のなかに「とても」とか「たいへん」とか「非常に」とか「いちばん」とか「ものすごく」などが多くなるのである。ぼくなども,疲れたときの原稿は,あとから一目でわかる。「とても」系統がどんどん飛び出すのである。「とてもすばらしい文章だ」とか「深い感動をおぼえた」などになる。それは疲れていたり,寝不足で頭が回らないときだ。コンデイションが悪いときである。なんとか早く切り上げたいので,はっきりしたことばを使ってしまうのだ。そんなときの文章はまず,いいものにならない。きめの粗いものになり,説得力がない。
(荒川洋治『日記をつける』岩波現代文庫)
※題名欄には題名を記入すること。※字数八〇〇字
(2)解答例
小学校のときに出された宿題のなかでも、作文は私にとって一番の苦行だった。書くことが何も浮かんでこず、半ベソをかきながら原稿用紙に向かったことを覚えている。当然、書き言葉は話し言葉とは別物で、普段何も考えなくても友人とおしゃべりができるのに、いざ文章をかくとなると、書き出しから言葉に詰まってしまう。作文や小論文というのは、内容や表現において独特の様式を備えており、こうした非日常の行為は日常の意識から離れて、チャンネルを切り替えるために姿勢を正し、気持ちを集中させることが肝要となる。これは武芸の鍛錬に似ている。
たとえば剣道では、いきなり試合に出て相手と戦うことはしない。初めは素振りから入る。このような地道な毎日の稽古の連続があって、試合本番で強敵に1本入れることが叶う。素振りといっても単に竹刀を振り下ろすだけの単純なものではない。剣道にはかたがあって初心者はこのかたが身につくまで師範から何回も繰り返し指導を受ける。
文章では、剣道のかたに当たるものが段落構成である。起承転結の4段落構成で書くように指導を受けてもなかなかかた通りに書けない。しかし、何度も書いては消しを繰り返し、推敲を重ねて完成答案に近づくまで粘り強く書き続ける。こうした継続を経たのち、意識しなくても自然に起承転結がついた文章を書くことができるようになる。ちょうど剣道のかたが自然に身につくように、さまになった文章を書いている自分に驚かされるのだ。この段階になったら怖いものはない。無敵を誇る宮本武蔵のように、どんな強敵、どんなテーマが自分の前に立ちふさがったとしても、自然に身に付いた動きであっという間に倒す、書くことができる。
この文章もようやく最終段落を迎えている。これも私が今まで小論文を継続してきた結果だ。大学に入っても竹刀をペンに持ち替えて、素振りを怠らずに続けたい。(793字)
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