「『共同主観的秩序』が変わる事態」日本大学法学部校友選抜2021年

「『共同主観的秩序』が変わる事態」日本大学法学部校友選抜2021年

記事
学び

(1)問題



問題 次の課題文を読み、以下の問に答えなさい。
① 私が超人的努力をして自分の個人的欲望を想像上の秩序から解放することに成功したとしても、それは私ただ1人のことでしかない。想像上の秩序を変えるためには、何百万という見ず知らずの人を説得し、彼らに協力して貰わなければならない。なぜなら、想像上の秩序は、私自身の想像の中に存在する主観的秩序ではなく、膨大な数の人々が共有する想像の中に存在する、共同主観的秩序だからだ。

② これを理解するためには、「客観的」「主観的」「共同主観的」の違いを理解する必要がある。「客観的」な現象は、人間の意識や信念とは別個に存在する。たとえば、放射能は神話ではない。放射線放射は、人類が発見するよりもはるか前から起こっていたし、人々がその存在を信じていないときにさえ危険だ。放射能の発見者の1人であるマリー·キュリーは、長年にわたって放射性物質を研究している間、放射性物質が自分の体を害しうることを知らなかった。彼女は放射能で自分か死にうるとは思っていなかったが、それでも放射性物質への曝露が引き起こした再生不良性貧血で亡くなった。

③ 「主観的」なものは、単一の個人の意識や信念に依存して存在している。本人が信念を変えれば、その主観的なものも消えたり変わったりしてしまう。自分以外の人には目にも見えず、耳にも聞こえない、想像上の友達の存在を信じている子供は大勢いる。その想像上の友達は、子供の主観的意識の中にのみ存在する。そして、子供が成長して、想像上の友達の存在を信じなくなると、その友達は消え失せる。

④ 「共同主観的」なものは、多くの個人の主観的意識を結ぶコミュニケーション·ネットワークの中に存在する。たとえ一個人が信念を変えても、あるいは、死にさえしても、ほとんど影響はない。だが、もしそのネットワークに含まれる人の大半が死んだり、信念を変えたりしたら、共同主観的現象は変化したり消えたりする。共同主観的現象は、悪意のある詐欺でも、取るに足りない見せかけでもない。放射能のような物理的現象とは違った形で存在するが、それでも世の中には非常に大きい影響を与えうる。歴史を動かす重大な要因の多くは、法律、貨幣、神々、国民といった、共同主観的なものだ。たとえばプジョーは、プジョーのCEOの想像上の友達ではない。この会社は、何億という人が共有する想像の中に存在している。CEOが同社の存在を信じているのは、取締役会も、同社の法律家たちも、近くのオフィスの秘書たちも、銀行の窓口係たちも、証券取引所の株式仲買人たちも、フランスからオーストラリアまで世界各地の自動車販売業者たちも、その存在を信じているからだ。もしCEOだけが突然プジョーの存在を信じるのをやめたら、彼はたちまち最寄りの精神科病院に入れられ、誰か別の人が後釜に座ることだろう。

⑤ 同様に、ドルや人権、アメリカ合衆国も、何十億という人が共有する想像の中に存在しており、誰であれ1人の人間がその存在を脅かすことはありえない。仮に私だけがドルや人権やアメリカ合衆国の存在を信じるのをやめても、どうということはない。これらの想像上の秩序は共同主観的なので、それらを変えるためには、何十年億人もの人の意識を同時に変えなくてはならない。これは生易しいことではない。これほど大規模な変化は、政党、イデオロギーに基づく運動、カルト宗教といった、複雑な組織の助けがあって初めて達成できる。だが、そのような複雑な組織を確立するためには、説得によって、多くの見知らぬ人どうしを協力させる必要がある。そしてこれは、それらの人々が何らかの神話を共有して信じているときにしか起こらない。したがって、既存の想像上の秩序を変えるためには、まず、それに代わる想像上の秩序を信じなくてはならないのだ。

⑥ たとえば、プジョーを消滅させるには、フランスの法制度のような、より強力なものを想像する必要がある。フランスの法制度を消滅させるには、フランスという国家のような、さらに強力なものを想像する必要がある。そして、その国家さえ消滅させたければ、なおいっそう強力なものを想像しなければならない。

⑦ 想像上の秩序から逃れる方法はない。監獄の壁を打ち壊して自由に向かって脱出したとき、じつは私たちはより大きな監獄の、より広大な運動場に走り込んでいるわけだ。
出典:ユヴァル·ノア·ハラリ『サピエンス全史』
問 二重下線部でいわれている「共同主観的秩序」とは何かを説明し、その秩序が変わるようなことはどのような場合に起こりうるのか、具体例を挙げて論じてください。(600字以内)


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(2)解答例



 共同主観的なものは多くの個人の主観的意識を結ぶコミュニケーション·ネットワークの中に存在する。歴史を動かす重大な要因の多くは、法律、貨幣、神々、国民といった、共同主観的なものである。これは主観的なので、それらを変えるためには、何十年億人もの人の意識を同時に変えなくてはならないので、世界的の多くの人々を巻き込む事態、戦争や大恐慌といったカタストロフによって旧来の共同主観的な想像上の秩序が改変される場合に起こりうる。
 第二次世界大戦前の世界では列強は大恐慌を機にブロック経済の下でアジア・アフリカ等の植民地から資源や労働力等を搾取する人権軽視の共同主観的な考えが支配していた。これは自国が大恐慌から生き延びるために当然なこととされ、日本やドイツも例外ではなく、戦争による植民地の拡大を国民は歓喜を持って迎えた。
しかし日本は戦争で敗れ、戦後、民主主義に基づく基本的人権の尊重や平和主義という共同主観的な理念が日本国憲法の下で国民に共有されることで、戦後80年経た今も戦争のない平和な社会を日本は構築している。これは共同観的なものによるところが大きい。(600字)


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