(1)問題
次の文章を読んで、問一~問三に答えなさい。
むかしむかし,あるところに,ひとりの少女が住んでいました.お父さんもお母さんも死んでしまって,食べ物も住む家もなくなり,シャツとスカートとひときれのパンだけが,少女に残されました.
少女がパンを持って原っぱをとぼとぼ歩いていくと,貧しい男がやってきました.その男は少女に「手に持っているパンを私におくれ.おなかがぺこぺこなんだ.」と言いました.かわいそうに思った少女は,その男にパンをあげました.
少女がまたとぼとぼ歩いていくと,はくスカートのない女の子が,少女のはいているスカートを欲しがりました.かわいそうに思った少女は,はいていたスカートをその女の子にあげました.
夜になり,少女が森にさしかかると,そこに着るシャツのない男の子がいて,言いました.「着ているシャツをぼくにください.寒くて死にそうなんです.」少女は少し迷いましたが,その子があまり寒そうなので,着ていたシャツをぬいで,男の子にあげました.
少女が寒さにこごえながらうずくまっていると,どうしたことでしょう.空からたくさんの星が降ってきて,それがぜんぶ,ぴかぴかの銀貨になったのです.そして,気がつくと,少女はぴかぴかに輝く新品のシャツとスカートを身につけていました.
●2番目のお話
むかし,ある別のところに,別の少女が住んでいました.その少女は最初の少女のことを聞いて知っていたので,そんなふうになりたいな,と思っていました.
幸か不幸か,お父さんもお母さんも早く亡くなり,思い通りの貧しい少女になることができたので,さっそく原っぱに出て行って,腹ぺこの男や,はくスカートのない女の子や,着るシャツのない男の子を,探しました.
運のいいことに,腹ぺこの男の子もスカートのない女の子もシャツのない男の子もすぐに見つかったので,少女は自分の持っていたすべてのものを,気前よくあげまくりました.そんなつまらないものよりも,星の銀貨が欲しくて欲しくてたまらなかったからです.
少女はうずくまり,いまかいまかと待っていると,思ったとおり,空から星が降ってきて,銀貨に変わりました.少女は満たされた気持ちになりました.ほんとうに価値があるのは,パンや衣服ではなく星の銀貨であることを始めから知っていたからです.
●最後のお話
また別のところに,また別の少女が住んでいました.その少女は最初の少女のことも2番目の少女のことも聞いて知っていて,なんだか嫌な子たちだな,と思っていました.
そのうち,お父さんもお母さんも早く亡くなり,なんとまえの2人の少女たちと同じ境遇になってしまいました.でも少女は「わたしはあの子たちとはちがう.星の銀貨なんかいらない.」と決心して,原っぱに出て行きました.
少女は,腹ぺこの男に会っても,スカートのない女の子に会っても,シャツのない男の子に会っても,同情せずに,その都度,こう言いました.「わたしもわたしの苦しみに自分でたえるから,あなたもあなたの苦しみに自分でたえてね.わたし,あなたに会わなかったことにするわ.だから,あなたもわたしに会わなかったことにしてね.」少女は,みんなが自分の運命を受け入れることを望み,自分も自分の運命をそのまま受け入れたのです.
少女が寒さに凍えながら,うずくまっていても,星たちは空高く輝いていました.「これでいいわ.これが私の人生なんだもの.何度でもこういう人生をおくりたい・・・」とつぶやいて,少女は死んでいきました.夜空の星たちは,遠くから,その少女を照らしつづけていました.
●あの世での少女たちの会話
最後の少女が,ほかの2人にこう言いました.
「あなたたち,もし星が降ってこなかったら,自分の人生を肯定できなかったでしょうね.人生を恨んだでしょうね.私はちがうわ.星の銀貨なんかなくたって,この人生それ自体を受け入れ,肯定することができるわ.あなたたちなんて,星の銀貨っていう,人生そのものの中にない,虚無によって救われているんだもの.気持ち悪い.幽霊みたい.」
最初の少女がそれに反論して言いました.
「あなたも,あの子と同じ.星の銀貨のことがちっともわかっていない.星はね,気の毒な人たちにパンやシャツやスカートを差し出したら,そのときわたしのこころの中で降っていたのよ.後から降ってきたんじゃない・・・」
最後の少女がその反論に応えて言いました.
「そんなこと,知ってるわよ.あの子だって,その見えない銀貨が欲しかったのよ.あの子もあなたも,やっぱり,ほんとうに欲しいのは銀貨なんでしょ? わたしはそれが嫌なの.わたしはね,その銀貨がどんなものだとしても,そういうものだけは欲しくないのよ.わたし,そういうものを欲しがる人が,いちばん汚い人だと思うわ.あなたたちって,不潔よ.」
すると,今まで黙っていた2番目の少女が口を開きました.
「わたしは始めから,ただ銀貨が欲しかっただけ.この世でも,あの世でも,それがほんとうに使える銀貨なら,どんな種類の銀貨だって,わたしはかまわない.あなたたちって,なんか変.どこか似ている・・・」
最初の少女と最後の少女は顔を見合わせ,最初の少女はその少女を気の毒に思い,最後の少女はその少女から眼をそむけました.
(出典:永井均『「『星の銀貨』の主題による3つの変奏」』)
問一 童話『星の銀貨』の主題を「□□をめぐる物語」と表す場合に、□□に入る適切な語句を漢字二字で答えなさい。
問二 三人の少女の「星の銀貨」についての考え方の違いがわかるように、二○○字以内でまとめなさい。
問三 三人の少女とも異なる考え方をする「第四の少女」を自分で設定して、その少女視点の文章を四○○字以内で作成しなさい。
(2)考え方
問題を考える際のヒントを書きます。
3つの切り口にから考えるのです。
第一の切り口 他者に対する歓待の論点。
少女がなぜ他者にパンとスカートとズボンとを渡したのか。その理由を考察してください。
普通に考えても高評価は与えられません。
普通は少女の優しさや思いやりで説明する答案が大半でしょう。
ここでは穿(うが)って他者に対する恐怖から渡したと考える観点になります。
ただ、この観点だと、「星の銀貨」の説明が困難になるという問題点があります。
そこをクリアーしたうえで、問3はズバリ、少女がパンとスカートとズボンを他者に強奪されたというストーリーを書くのです。
その場合、「星の銀貨」は降ってきたでしょうか。
降ってきた場合、第四の物語では「星の銀貨」の意味は第一~第三の物語と同じでしょうか。違うでしょうか。
第二の切り口 これは問一の正解から導かれる論点です。
こちらもやはり他者問題が関係します。
正解を考えてもらいたいので、問一の答えは伏せますが、精神的なものと物質的なものとの視点を対比して考えます。
精神的なものを優位に置くのであれば「人はパンのみに生くるのみにあらず」という聖書の教えを念頭において、「星の銀貨」を神の救いと捉える視点になります。
少女がなぜ他者に施しを与えた理由を宗教的に解釈し、少女も聖者という視点で物語をつくる方向性になります。
この物語では、降ってきたものが、「星の銀貨」ではなく、宗教的な救いに直結するものとするほうがいいでしょう。
第三の切り口 これは経済的な視点で考えるものです。
人の経済行為を「贈与」と「交換」で考えるモースの贈与論をベースに置きます。
第一の物語は「贈与」、第二の物語は「交換」、第三の物語は「贈与や交換」が等価交換に基づくものではないことに対する否定の意味を持ちます。
そうなると、第四の物語は完全な等価交換の物語を考えます。
パンとスカートとズボンに対する完全な等価交換の物語を考えた場合、何かが降ってくると思いますか?
このようにこの問題、特に問三は自由に物語を創作するのではなく、作者の意図に込められた哲学的、宗教的、経済的意味を読み取って、厳密にロジックで固めたうえで、そのロジックに合う物語を創ってゆくのが本筋です。
ちなみに参考文の筆者永井均は日本大学文理学部哲学科教授で哲学者、倫理学者です。
(3)解答例
※市販の赤本の解答と比べてみてください。どちらが優れているか、ご判断ください。
問一
利他
●別解
贈与
問二
両親に先立たれ食べ物も家もない少女が乞われるまま持ち物全てを相手に与えると空から降ってきた星が銀貨になり少女は新品の衣服を手に入れた。2番目の少女はこれを知り星の銀貨が欲しいと思い相手を探して自分の物全てを相手に与えると空から降った星が銀貨に変わり満たされた気持ちになった。3番目の少女は二人の少女のことも知り不快に思い物がない相手に会っても同情せず互いに運命を受け入れて苦しみにたえることを望んだ。
(200字)
問三
解答例①
むかしあるところに第四の少女が住んでいました.その少女は他の3人の少女の話はしりませんでした。お父さんもお母さんも早くに亡くなり,食べ物も住む家もなくなり,シャツとスカートとひときれのパンだけが,少女に残されました.少女が原っぱを歩いていると,そこに着るシャツのない男の子や貧しい男,はくスカートのない女の子が少女に物を乞いましたが,少女は同情心を起こすことなく,誰にも何も与えませんでした。すると,怒った三人が少女をさんざんに痛めつけて持ち物全てを奪い取りました。その後少女は再び食べ物や着る物を手に入れましたが,今度は暴力を振るわれて奪い取られることを恐れた少女は原っぱに食べ物や着る物をそっと置いてきました。すると,次の日に少女が原っぱに行ってみると,食べ物や着る物は無くなっていて,代わりにぴかぴかの銀貨が置かれていたのです。このことをきっかけにして商業と呼ばれる経済行為が始まったのでした。(400字)
解答例②
むかしあるところに第四の少女が住んでいました.両親に先立たれ食べ物も家もない少女は会う人に乞われるまま自分の持ち物全てを相手に差しだしました. このとき空から星は降ってこず,少女には銀貨も新品のシャツもスカートも手に入れることはできませんでした。そのとき空から声が聞こえました。「貧しい人々は、幸いである。飢える人々は、幸いである。憐れみ深い人々、心の清い人々は、幸いである」。その声を聴くと、少女の空腹は癒され、満たされてゆきました。服を着ていなくても,寒さで震えることもなく,身も心も暖かでした。一番目と二番目の少女のようにこの少女は銀貨を欲しくはありませんでした。三番目の少女がこの少女に言いました。それであなたは天国に行けると思っているの、その天国こそ「見えない銀貨」なのよ。この言葉に少女は反論しました。天国は空の上にあるんじゃない。いま、私が満たされた気持ちでいる、この場所こそが天国なのよ。(400字)
解答例③
むかしあるところに第四の少女が住んでいました.この少女は3人の少女の話を知っていました。そして少女も彼女たちと同じ境遇になってしまいました。第四の少女は本当の銀貨にせよ見えない銀貨にせよ、お金に執着する人はいちばん汚く不潔だと思っていました。少女がパンを持って原っぱを歩いていくと,貧しい男がやってきて「手に持っているパンを私におくれ」と言われたので男のズボンと引き換えにパンを渡しました。さらに行くと,はくスカートのない女の子が少女のはいているスカートを欲しがりました.少女は女の子のパンと引き換えスカートをその女の子にあげました.さらに行くと着るシャツのない女の子がいて,少女の着ているシャツをせがみました。少女は女の子のスカートをもらう代わりに着ていたシャツをぬいで女の子にあげました.銀貨などいらない.お金がなくても皆が融通しあって、なんとかその場をしのぐことができる。少女はそう強く思いました。(400字)
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