※これは過去に書いたTRPGのシナリオを読み物として再構成し、
ポートフォリオとして公開する記事です。
異なる文体・世界観を用いた構成の例としての公開なため、
ゲームシステム部分の文章は割愛しております。
遡因之筋(導入)
発端を話すのであれば今より百六十八年前。頼光が酒呑を討ったその時であろう。
しかし因縁とは、当人の預かり知らぬものより生ずることもある。故にあるいは其れよりも更に昔より始まっていたのかもしれぬ。
だが鵺に覆われ、魔境と化した都にとって今重要なことは、堕ちし英霊である頼光と、羅生門に棲まう鬼である茨木童子が遂に相見え
てしまったことであろう。
数多の因縁渦巻くこの地において、弱き人々が恐れていた邂逅の一つ。それがこの両名によるものであった。
茨木童子はまだいい。彼女は今では鬼にして良識者だ。決して清い存在ではないが、出来うる限り戦争は避けようとするし、その庇護のもとにある人間も多い。
問題は頼光である。彼奴は見つけてしまったのだ。己が英霊たる由来を。そしてあの時唯一殺しそこねた妖怪を。
執拗に茨木童子を付け狙い、悪党も善良な者も斬った。人も妖怪も関係なく、斬って、斬って、斬った。鬼に与する人間など鬼以下である。
これは救世なのだ。人の尊厳を妖怪どもから取り返すための聖戦である。
媚びるでなく、毅然と穏便に事を済ませることは武力や恐怖をもって解決することよりも難しい。このような世では。
そしてそのような者が腹を決めた時ほど恐ろしいものもない。やはり、このような世では特に。
茨木童子も腹を決めた。決めてしまったのだ。自分だけではなく、己が勢力にとっても頼光は放っておけぬ敵であると。
鬼のくせに力を振るわず、小賢しい妖怪だと謗りを受ける身なれど、あの日の屈辱を忘れたことはない。
——これより一時、千丈ヶ獄の鬼と相成らん
道標(ハンドアウト)
甲
初期因縁:茨木童子(恩義)
初期喪失:居場所
推奨分限:
目的:源頼光を倒す
あなたは何者かの陰謀によってかつての地位を失った。
家も財も失い、路頭に迷った時に助けてくれたのが茨木童子であった。
これまでの人生では考えられなかったような仕事を与えられた。
はっきり言えば汚れ仕事であったが、妙に馴染んだ。才覚もあったのかもしれない。
生き方はまるっきり変わってしまったが、今の生活も悪くない。なにせ温かい飯が食えるのだから。
ただの気まぐれで、犬猫を拾うように救われたことは分かっているが、それでも恩は恩だ。
彼女の傷の肩代わりくらいはしてみせよう。
乙
初期因縁:源頼光(利用)
初期喪失:恋人
推奨分限:
目的:茨木童子を倒す
あなたは復讐者だ。妖怪に恋人、あるいは想い人を殺されたためである。
全ての妖怪が悪ではないなどという説法はもはや耳に入らない。
どうせ奴らは人の血に塗れた手で、打算でもって救うだけだ。
最近は彼の鬼と頼光が事を構えようとしているらしい。化物と化物。
なればせめて妖怪を一匹でも殺す方の化物に乗るべきであろう。
茨木童子を殺す機会はそうそう巡ってこない。組織の頭を潰してしまえば後はどうでもなるだろう……
丙
初期因縁:是害坊(悪友)
初期喪失:真の力
推奨分限:
目的:この戦争における都への被害を抑える
あなたは朝廷に仕える身である。
是害坊より「茨木童子と源頼光が事を起こす。此れは避けがたき事態である」との報告を受け、避けられぬのであればせめて周囲への被害を抑えよとの命を受けた。
いつもこのような役回りで嘆息するばかりだが、今回は事が事だけに是害坊も手伝わされるという。
あまり頼りにはならないやつだが、今回は猫の手も借りたいほどだ。
仮にも天狗なのだから猫よりはマシだと思って、その力を貸してもらうことにしよう。
丁
初期因縁:茨木童子(欲望)
初期喪失:敬う心
推奨分限:
目的:「童子切安綱」または「神変鬼毒の杯」のどちらかを盗む、あるいは奪いとる
あなたは泥棒である。泥棒とは言ってもケチなこそ泥とはわけが違う。
妖辻によって、偉人、神、大妖が入り乱れるこの都。それはつまり彼等の道具や武具も持ち込まれるということだ。
伝説に謳われた至宝の数々。欲しい。欲しいのだ。
もちろん彼等の持ち物を奪うからには命の危険もあるだろう。
だがそんなことはあの品々の前ではどうでもいいことだ。あるいは落とした命を拾い上げることすら出来る道具もあるかもしれない。
人生とは見方で変わる。今の惨状を嘆くよりも、手に入れられるもののことを考えるべきだ。
演題之幕開け
夜の朱雀大路。
爛々と輝く眼で睨む人ならざる武士と、
その長身を気風の良い着物と焔の如き怒気で包む鬼。
各々手勢を引き連れているが、そのどちらも半死半生の有様であった。
まともに立っているのは先の頼光と茨木童子、他にはたった数名のみである。
其れもそのはず。先程まで兵戈槍攘(へいかそうじょう)を繰り広げていたのだ。
だが互いに相手を侮っていた。それ故の死屍累々。
頼光は去る。
茨木童子に無策で挑むなど愚の骨頂。再び駒を揃えるのだ。
それは鬼の娘も同じこと。
次こそは貴様を討つと、互いに言葉を交わさずに伝えあうのだった。