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皆さん、歯の健康は食事にどんな影響を与えると思いますか? 実は、歯の本数が減ると、かたいものが食べにくくなるなど、食事が偏ってしまい、必要な栄養が十分に摂れなくなる可能性があると言われています。
日本の研究で、糖尿病やがん、心臓病、脳卒中といった大きな病気をしたことのない中高年の日本人を対象に、歯の本数と食事の栄養や食べ物の摂取量にどんな関連があるかを詳しく調べたものがあります。
この調査には8912人が参加し、自己申告による歯の本数や、食習慣、生活習慣などが調査されました。その結果、歯の本数と食事内容の間に関連が見つかり、男女で少し違いが見られました。
男性の場合、歯の本数が少ない人ほど、ビタミンDや、魚に多く含まれるn-3 HUFAという種類の脂肪、そして魚介類全体の摂取量が少ない傾向がありました。
魚介類の中には、しっかり噛む必要があるため、歯が少ないと食べるのが難しくなるのかもしれません。
女性の場合は、歯の本数が多い人ほどパンをよく食べていることが分かりました。
さらに、歯の本数が多い女性は、パンだけでなく、野菜(緑黄色野菜)、きのこ、海藻、乳製品など、様々な食品や、それに含まれる栄養素(タンパク質、脂質、カリウム、カルシウム、カロテン、ビタミンB2、SFAなど)を多く摂っている関連が見られました。
女性は男性に比べて料理の工夫をしたり、歯の喪失による心理的な影響が少なかったりすることが、このような違いに関係している可能性が考えられています。この研究は一度の時点での調査であるため、「歯が減ったから食事が変わった」のか、あるいは「特定の食事が歯の健康に影響した結果、歯が減った」のかといった原因と結果を明確にすることはできません。
しかし、歯の本数が日々の食事内容や栄養状態と関連があることを示唆しています。今回の調査結果は、お口の健康、つまり歯を健康に保つことが、栄養バランスの良い食事を続ける上でとても重要であることを改めて教えてくれます。 将来の健康のためにも、毎日の歯磨きと、定期的な歯科健診を大切にしましょう。
論文タイトル:Association of Number of Teeth Present With Nutrient Intake and Food Group Consumption.
研究目的
この研究は、歯の本数が少ないことが、食べ物を噛む能力(咀嚼能力)を低下させ、それが食べる食品の種類を制限し、最終的に栄養摂取や栄養状態に影響を与えるという考えに基づいています。
これまでにも歯と栄養摂取・食品消費に関する研究は多く行われてきましたが、研究対象が高齢者に偏っていたり、特定の集団(退役軍人、医療従事者など)に限定されていたりしました。
また、糖尿病やがんなどの病気がある人は、食事療法を行っているなどで食習慣が異なる可能性があるため、歯の本数と食事の関連を純粋に評価するためには、これらの病気の既往がない人を対象とすることが重要と考えられました。
そこで、この研究の目的は、日本の主要な4つの病気(糖尿病、がん、心臓病、脳卒中)にかかったことのない日本人の中高年(35歳から69歳)を対象に、歯の本数と栄養摂取、および食品グループの消費量にどのような関連があるかを明らかにすることでした。
方法
この研究は、ある一時点のデータを調査する横断研究として実施されました。 日本の大規模な研究であるJapan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) studyのベースライン調査データが使用されました。
特に、静岡県と愛知県大幸地区の参加者のデータが分析対象となりました。対象者は、主要4疾患(糖尿病、がん、心臓病、脳卒中)の既往がない8912人(男性4139人、女性4773人)でした。参加者の平均年齢は51.7±9.5歳でした。調査は自己記入式のアンケートを用いて行われました。
アンケートでは、現在の歯の本数、病歴、学歴、就労状況、食習慣、喫煙歴、運動習慣などが尋ねられました。 食事については、簡易食物摂取頻度調査票(FFQ)という方法を用いて、過去1年間に約50種類の食品や飲料をどのくらいの頻度で摂取したかを調査しました。
このデータをもとに、25種類の主要な栄養素と19種類の食品グループの1日あたりの摂取量が計算されました。
栄養素および食品グループの摂取量は、総エネルギー摂取量1000kcalあたりに換算して分析されました。歯の本数は、分析のために「0本」「1~19本」「20~27本」「28~32本」の4つのグループに分類されました。
歯の本数と栄養摂取・食品グループ消費の関連を調べるにあたり、年齢、地域、総エネルギー摂取量、喫煙歴、BMI(肥満度を示す体格指数)、身体活動量、就労状況、学歴といった、結果に影響を与える可能性のある様々な要因(共変量)の影響を取り除く(調整する)統計手法(共分散分析や傾向検定)が用いられました。
分析は男女別に実施されました。また、歯の本数を連続的な数値として、より詳細な関連を調べる重回帰分析も行われました。
結果
解析対象となった8912人のうち、最も多かったのは歯が20~27本のグループでした。歯の本数が少ない人ほど、年齢が高く、喫煙者が多く、学歴が低い傾向があり、就労している人の割合が低い傾向が見られました。
歯の本数と食事内容の関連を調べた主な結果は以下の通りです。
<男性>
歯の本数が少ない人ほど、ビタミンD、n-3 HUFA(魚介類に多く含まれる健康に良いとされる脂肪酸の一種)、そして魚介類全体の摂取量が少ない傾向が見られました(統計的に有意な負の関連)。これは、魚介類の中にはしっかりと噛む必要があるものが多いため、歯が少ないと食べるのが難しくなることを反映している可能性があります。
歯の本数を連続変数として分析した場合、歯の本数が多いほど緑茶の摂取量が多いという関連も見られました。
<女性>
歯の本数が多い人ほど、パンの摂取量が多い傾向が見られました(統計的に有意な正の関連)。
歯の本数を連続変数として分析した場合、歯の本数が多い女性では、タンパク質、脂質、カリウム、カルシウム、カロテン、ビタミンB2、飽和脂肪酸(SFA)といった様々な栄養素や、パン、菓子類、乳製品、緑黄色野菜、きのこ、海藻など、より多様な食品グループの摂取量が多いという関連が見られました。これは、女性は男性に比べて料理の工夫をしたり、歯が失われたことによる心理的な影響が少なかったりする可能性が考えられます。
この研究では、歯の本数が減ることで、柔らかいパン(フランスパンやトーストのような硬いパンは除く) や、噛み応えのある緑黄色野菜、きのこ、海藻、そしてカルシウムやタンパク質が豊富な乳製品 といった特定の食品の摂取が影響を受ける可能性が示唆されました。
また、魚介類からのビタミンDやn-3 HUFAの摂取量にも関連が見られました。
結論
この研究結果から、主要な4つの病気にかかったことのない日本人成人において、歯の本数は良好でない栄養状態と関連していることが示唆されました。
歯の本数が少ないことは、特に男性においてビタミンDや魚介類などの摂取量の低下と関連し、女性においてはより多様な食品や栄養素の摂取量と関連が見られました。
ただし、この研究は一度の調査時点のデータを用いた横断研究であるため、「歯が減ったことが食事内容を変えたのか」、それとも「特定の食習慣が歯の健康に影響して歯が減ったのか」といった原因と結果の関係を明確にすることはできません。
また、歯の本数が少ない人が義歯(入れ歯)やブリッジ、インプラントを使用しているかどうかの情報は含まれていないという限界もあります。
しかし、これらの結果は、お口の健康、特に歯を健康な状態で保つことが、栄養バランスの取れた食事を続ける上で非常に重要であることを改めて示しています。
将来の健康を維持するためにも、日々の適切な歯磨きと、歯科医師による定期的な歯科健診が大切であるということが示唆されます。
引用論文
Association of Number of Teeth Present With Nutrient Intake and Food Group Consumption.Asaeda M, Nishimura R, Suma S, Tsukamoto M, Kadomatsu Y, Kubo Y, Okada R, Nagayoshi M, Tamura T, Hishida A, Takeuchi K, Goto C, Imaeda N, Wakai K, Arimoto N, Maehara T, Naito M.J Oral Rehabil. 2025 May 19. doi: 10.1111/joor.14011. Online ahead of print.P