第41話では、親に終活の話を切り出す時は、
「終活しよう」と正面から言うよりも、
「もし何かあった時に私が慌てないように、少しだけ教えておいてほしいことがあるんだけど」
というように、急な入院や家族の安心を入口にすると話しやすい、とお伝えしました。
それでも、親が話したがらないことはあります。
「そんな話はしたくない。」
「まだ早い。」
「縁起でもない。」
「自分のことは自分でやる」
「子どもに心配してもらう必要はない。」
こう言われると、子ども側は困ってしまいます。
「このままで本当に大丈夫なのだろうか?」
「何かあった時、結局私たちが困るのに...。」
そう思うほど、何とか説得したくなります。
しかし、ここで大切なのは、「親を説得することをゴールにしないこと」です。
終活や介護準備は、親を言い負かして進めるものではありません。
親の気持ちを尊重しながら、家族としてできる準備を少しずつ増やしていく。
そのくらいの距離感の方が、結果的にうまく進むことがあります。
「話したくない」には理由がある
親が終活や介護の話を避ける時、
「危機感がない。」
「頑固だ。」
と思ってしまうかもしれません。
でも、その背景にはさまざまな気持ちがあります。
自分の老いを認めたくない。
認知症や介護を想像するのが怖い。
子どもに迷惑をかけたくない。
財産のことを聞かれるのが嫌だ。
自分の生活に口を出されたくない。
死について考えるのが怖い。
まだ自分で何でもできるという自負がある。
こうした気持ちは、決して珍しいものではありません。
だから、「必要なんだから話そう。」と押してしまうと、親はさらに防御的になります。
まずは、「話したくない気持ちにも理由がある。」と理解することから始めた方がよいと思います。
「今すぐ全部決めよう」としない
親が話したがらない時に一番避けたいのが、「今日こそ全部聞こう。」とすることです。
銀行。
保険。
施設。
延命治療。
葬儀。
お墓。
遺言。
これを一度に聞かれたら、親でなくても疲れます。
そこで、テーマを小さくします。
今日は病院のことだけ。
次は薬のこと。
その次は保険証券の場所。
また別の日に、緊急連絡先。
一回の会話で一つ分かれば十分です。
終活は、一度の家族会議で完成させるものではありません。
「何回もの普通の会話の中で、少しずつ情報を集めていくもの」と考えた方が、親も子どもも楽になります。
「終活」ではなく、目の前の困りごとから入る
終活という言葉そのものに抵抗がある親もいます。
その場合は、無理に使う必要はありません。
たとえば、
「最近、階段大変じゃない?」
「病院に行くの、前より大変じゃない?」
「薬、増えてない?」
「車をやめたら買い物はどうする?」
「保険証券ってどこに置いてある?」
こうした話から始めます。
親が、「最近、病院まで行くのがしんどくなってきた。」と言ったら、
「じゃあ、もし私が付き添う時のために病院の名前だけ教えて」
と続けられます。
親の困りごとに寄り添う形であれば、終活という言葉を使わなくても準備は進みます。
第三者の話を借りると話しやすい
親子だからこそ、話しにくいことがあります。
そんな時は、第三者の話をきっかけにする方法もあります。
「知り合いのお母さんが急に入院して、保険がどこか分からなくて大変だったんだって」
「最近、友達のお父さんが免許を返したら買い物に困ったらしいよ」
「テレビで、元気なうちに大事な書類の場所だけ家族で共有しておくといいって言っていたよ」
このように、「“あなたの問題”ではなく、“よくある話”として入る」と、親の警戒心が少し下がることがあります。
特に、「あなたもやった方がいい。」ではなく、「うちだったらどうする?」
と一緒に考える形にすると、会話になりやすくなります。
医師や地域包括支援センターなど第三者を頼る
親が子どもの話は聞かなくても、医師や専門職の話なら受け入れることがあります。
たとえば、
かかりつけ医。
地域包括支援センター。
ケアマネジャー。
自治体の相談窓口。
ファイナンシャルプランナー。
司法書士や弁護士。
こうした第三者から、「今のうちに整理しておいた方がいいですよ!」と言われると、親の受け止め方が変わることがあります。
特に介護や健康面で心配がある場合には、「子どもが心配しているから」ではなく、「専門家から一度話を聞いてみない?」という形にすると進みやすいことがあります。
家族だけで全部解決しようとしないことも大切です。
親が拒否しても、子ども側でできる準備はある
親が話してくれないからといって、すべての準備を止める必要はありません。
子ども側だけでもできることがあります。
親が住んでいる地域の地域包括支援センターを調べる。
かかりつけ医を把握する。
実家までの移動時間や交通手段を確認する。
兄弟間で連絡方法を決めておく。
自分の会社の介護休業や介護休暇制度を確認する。
介護が始まった場合の家計への影響を考えておく。
施設や介護サービスについて基礎知識を持つ。
こうした準備は、親の了承がなくてもできます。
つまり、「親が動かないから、家族も何もできない。」というわけではありません。
家族側だけでも準備を進めておくことで、いざという時の混乱を減らせます。
郵便物や書類から分かることもある
親の同意のもとで実家の書類整理をする機会があれば、そこから分かることもあります。
保険会社からの郵便物。
病院の診察券。
年金関係の書類。
公共料金の請求書。
介護保険関係の通知。
こうしたものから、
「どんなサービスを使っているのか?」
「どこの病院へ通っているのか?」
を確認できる場合があります。
ただし、「家族だからといって、親の郵便物や金融情報を勝手に見ることが当然に許されるわけではありません。」
親のプライバシーは尊重する必要があります。
「一緒に整理しよう。」
「急な時に困るから、この書類だけ見てもいい?」
と確認しながら進めることが大切です。
一番大切な情報から優先する
親が少ししか話してくれない場合には、優先順位をつけます。
私は、まず次のような情報から確認するのがよいと思います。
第一に、緊急連絡先。
第二に、かかりつけ医と服薬情報。
第三に、健康保険証や重要書類の保管場所。
第四に、利用している銀行や保険会社の名前。
第五に、緊急時に誰へ連絡してほしいか?
この程度でも、突然の入院や介護の初動はかなり変わります。
いきなり財産の全額や相続の希望まで聞く必要はありません。
「命と生活に直結する情報から先に確認する」という順番が大切です。
「まだ早い」は、永遠に話さないという意味ではない
親から、「まだ早い。」と言われた時、子どもは、「もうこの話はできない。」と思ってしまうことがあります。
でも、「まだ早い。」は、「今日は話したくない。」という意味かもしれません。
数か月後。
知人が入院した時。
自分が病院へ行った時。
友人が施設へ入った時。
テレビで終活の特集を見た時。
親の気持ちが変わるきっかけはいろいろあります。
一度断られたからといって、完全に諦める必要はありません。
ただし、何度も同じ話を繰り返し、親を追い詰めないことも重要です。
兄弟姉妹がいるなら、勝手に代表者を決めない
親が話したがらない時、責任感の強い長男や長女が一人で何とかしようとすることがあります。
でも、介護が始まった後に、
「そんな話は聞いていない。」
「勝手に決めた。」
と言われると、家族関係が悪くなる可能性があります。
親が話してくれないという状況自体を、「今はこういう状態だよ。」
と兄弟間で共有しておきましょう。
そして、
誰が親に話しかけやすいのか?
誰なら親が話を聞くのか?
どのタイミングがよいのか?
を相談します。
父親は長男には話さないけれど、娘には話す。
母親は子どもには話さないけれど、妹には相談する。
ということもあります。
親との相性も考えながら、「話しやすい人が橋渡し役になる。」という方法もあります。
話したがらない親ほど「選択肢」を奪わない
ここで大切なことがあります。
子どもが心配するあまり、
「もう危ないから施設に入ろう。」
「車の免許は返納して。」
「通帳を私が管理する。」
と先回りして決めてしまうと、親はさらに反発することがあります。
終活や介護準備の目的は、親の選択肢を奪うことではありません。
むしろ、「親が自分で選べるうちに、選択肢を増やしておくこと」です。
「施設に入る?」
ではなく、
「もし家で暮らすのが大変になったら、どんなところなら暮らしてみてもいい?」
「車をやめる?」
ではなく、
「もし運転しなくなったら、買い物はどうしたい?」
こうした聞き方の方が、親自身が考えやすくなります。
「親の意思」と「家族の限界」は両方大切
ただし、親の希望を尊重することと、家族がすべてを引き受けることは別です。
親が、「絶対に家から出たくない」と言っていても、
夜中も見守りが必要。
毎日の通院が必要。
家族が仕事を続けられない。
介護者の体調が悪化している。
という状態になれば、家族だけでは支えきれないことがあります。
その時は、
「お父さんの希望は家で暮らすことだと分かっている。でも、今のままだと私たちだけでは支え続けられない。一緒に別の方法を考えたい。」
と伝える必要があります。
終活や介護は、親の希望100%でも、家族の都合100%でもありません。
「親の希望と、家族が続けられる現実の両方を見る。」ことが大切です。
今やっておきたいことは3つ
一つ目は、親が話したくない理由を想像してみることです。
怖いのか?
面倒なのか?
財産を聞かれるのが嫌なのか?
まだ自分は元気だと思っているのか?
理由によって、切り口を変えます。
二つ目は、親が話してくれなくても、家族側でできる準備を進めることです。
地域包括支援センター。
会社の介護制度。
兄弟間の連絡。
介護費用。
こうしたことは先に調べておけます。
三つ目は、一度で解決しようとしないことです。
今日は一つ。
また別の日に一つ。
時間をかけて、少しずつ情報と希望を共有していきます。
話してくれなくても、準備はゼロにしなくていい
親が話したがらない時、どう進めればよいのか?
答えは、「無理に説得しない。でも、何もしないままにもしておかない。」
ということだと思います。
親には親の気持ちがあります。
老いを認めたくない。
死について考えたくない。
子どもに迷惑をかけたくない。
自分のことは最後まで自分で決めたい。
その気持ちを尊重しながら、
一つだけ聞く。
別の話題から入る。
第三者を頼る。
家族側の準備を進める。
時間を置いてまた話す。
それで構いません。
終活は、「全部話せたら成功」ではありません。
親が一つでも希望を話してくれた。
保険証券の場所が分かった。
病院が分かった。
緊急連絡先を共有できた。
それだけでも、確実に前へ進んでいます。
大切なのは、「親を動かすことではなく、家族全体として少しずつ備えを増やしていくこと。」
そして、親が自分で決められる時間を、できるだけ大切にすることです。
第43話では、「兄弟姉妹との温度差がある時、どう整理するか?」というテーマで、
「自分は心配しているのに、兄はまだ大丈夫と言う」
「介護の話をしたいのに、妹が関わろうとしない」
といった、兄弟間の認識のズレをどう整理していくかを考えていきます。
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