親の介護リスクを考えるとき、つい「介護が必要になるかどうか」ばかりに目が向きがちです。でも実際には、その前に見ておいた方がいいことがあります。
それは、家族の中で、最初に動くのは誰になりやすいかということです。
特に、親と離れて暮らしているひとりっ子、あるいは長男長女として親から頼られやすい立場の人は、介護が始まった瞬間に、仕事へのダメージを受けやすいことがあります。
介護は、家族全員に平等に降ってくるわけではありません。
最初の連絡、最初の駆けつけ、最初の判断が、どうしても一人に集まりやすい。その役割を引き受けやすい人ほど、雇用のリスクや介護離職のリスクが高まりやすいのです。
「離れて暮らす親」が増えている時代になっている
内閣府の令和7年版高齢社会白書では、65歳以上の一人暮らしは男女ともに増加しており、令和2年時点で、65歳以上人口に占める割合は『男性15.0%、女性22.1%』でした。将来推計でもさらに上昇が見込まれています。つまり、親が高齢になっても、子どもと同居しているとは限らない時代が、もう当たり前になっているのです
この状況では、親が一人で暮らしていて、子どもは別の地域で働いている、という組み合わせは珍しくありません。
だから、介護の問題は「近くにいる家族が何とかする話」ではなく、遠距離のまま最初に対応を迫られる話として考えた方が現実的です。
介護の担い手の中心は、実際に50代へ集中している
総務省の令和3年社会生活基本調査では、ふだん家族を介護している人は653万4千人で、年齢階級別では50~59歳が最も多いとされています。さらに、60歳以上で介護者全体の約半数を占めています。
つまり、親の介護は「もっと年上の人の話」ではなく、まさに45歳以降から50代にかけて現実味を帯びる問題です。
また、令和4年就業構造基本調査では、介護をしている人は628.8万人、そのうち有業者は364.6万人で、介護をしている人の58.0%が働いています。
つまり、親の介護はすでに「仕事を終えた後の話」ではなく、働いている最中に起きることとして考えなければいけません。
ひとりっ子・長男長女が苦しくなりやすいのは、「最初の矢面」に立ちやすいから
ここで大事なのは、ひとりっ子だから必ず大変、長男長女だから必ず介護する、と言いたいわけではないということです。
ただ実際には、家族の中で「とりあえずこの人に連絡しよう」「最初に動くのはこの人だろう」という役割が、一人に集中しやすいことがあります。
ひとりっ子なら、そもそも相談相手や役割分担の相手がいません。
長男長女なら、兄弟姉妹がいても、親や親族から“代表”のように見られやすいことがあります。
しかも親と離れて暮らしている場合、その人は仕事を持ったまま、現地対応も担うことになりやすい。
この構図が、本当にきつい
介護が始まると、仕事に起きやすいのは「突然の小さな崩れ」の連続
親の介護は、いきなり退職から始まるとは限りません。
むしろ多いのは、もっと手前の小さな崩れです。
たとえば、
平日の昼間に病院から電話が来る。
転倒や入院で、急きょ仕事を早退する。
週末は実家へ行き、月曜は疲れたまま出勤する。
ケアマネジャーとの面談や退院調整で、平日に休みを入れる。
兄弟姉妹がいても、結局、自分が段取り役になる。
こうしたことが重なると、最初に削られるのは、給料そのものより先に
時間の余裕
集中力
職場での信頼の積み上げ
です。
残業がしにくくなる。
急な出張を断る。
責任の重い仕事を引き受けにくくなる。
評価に関わる仕事から少しずつ外れやすくなる。
そして、それが続くと、昇進、異動、役割、収入にまで波及していくことがあります。
しかも、親の年齢が75歳を超える頃に一段と現実化しやすい
厚生労働省資料では、要介護認定率は75~79歳で11.5%、85歳以上で57.7%とされています。
つまり、親が70歳のときはまだ元気に見えても、5年後に75歳を超える頃から、介護リスクは一段上がりやすくなります。
ここで思い出していただきたいのが、この連載で何度もお伝えしている
親70歳・子45歳という目安です。
親70歳・子45歳なら、5年後には親75歳・子50歳です。
親は介護リスクが上がり始め、子ども世代は仕事の責任が重く、家計も老後準備も気になる時期に入ります。
ひとりっ子や長男長女、しかも遠距離という条件が重なると、このタイミングで一気に仕事が揺れやすくなるのです。
たとえば、こんなことが起きます
たとえば48歳の長女。
親は地方で一人暮らし。
兄弟はいるけれど遠方か、あるいは日常的には動きにくい。
そのため、病院からの連絡も、役所の手続きも、介護サービスの相談も、最初に自分へ来る。
最初は「少し大変だな」くらいでも、
数か月たつと、
有休が親対応で消える、
残業が減る、
職場で急な仕事を頼まれにくくなる、
上司や同僚に気を遣い続けて疲れる、
という状態になりやすい。
ひとりっ子なら、これを分担する相手がいません。
長男長女なら、周囲から「あなたが中心でしょ」と見られやすい。
だから、介護そのものより先に、働き方が崩れ始めることがあるのです。
だから、終活は「親が弱ってから」では遅れやすい
ここが一番お伝えしたいところです。
従来の感覚では、
親がもっと高齢になってから、
介護が見えてから、
終活を考えればいい、
と思われがちでした。
でも、ひとりっ子や長男長女、遠距離の子どもにとっては、その感覚では遅れやすいのです。
なぜなら、介護が見えた時にはもう、自分が最初に動く側になっている可能性が高いからです。
だから必要なのは、親がまだ元気なうちに、
誰が最初に動くか?
何を共有しておくか?
お金や書類や連絡先をどう整理しておくか?
を少しずつ進めておくことです。
終活は、葬儀や相続の話から始める必要はありません。
むしろ、こうした初動の混乱を減らす準備こそ、ひとりっ子・長男長女・遠距離の人には大切です。
今やっておきたいことは3つ
1.自分が「最初に呼ばれやすい立場か」を確認する
ひとりっ子、長男長女、実家の近くに兄弟がいない。
この条件があるなら、介護リスクは『自分ごと』として考えた方が安全です。
2.親の情報を、元気なうちに少しずつ整理する
通院先、薬、保険証、緊急連絡先、重要書類の場所。
これだけでも、最初の混乱はかなり減ります。
3.家族の中で「最初に誰が何をするか」だけでも決めておく
完璧な役割分担でなくて大丈夫です。
ただ、入院時の連絡役、現地対応役、情報共有の窓口だけでも決まっていると、仕事へのダメージは小さくしやすくなります。
まとめ
ひとりっ子、長男長女、そして親と離れて暮らしている人ほど、親の介護が始まったときに、最初の負担が集中しやすいという現実があります。
しかも今は、高齢者の一人暮らしが増え、介護の担い手の中心は50代にあり、
働きながら親を支える人が非常に多い時代です。
だからこそ、「介護が始まってから考える」ではなく、自分が最初に動く立場なら、親が元気なうちから備えるへと感覚を変える必要があります。
親の介護準備に少しでも不安を感じた方へ。
親が元気ないまだからこそ、親に何を・どの順番で・どう話せばよいかを一緒に整理しまましょう。