「AIに頼んだら、見た目は完璧な業務アプリが数十分でできた。これなら開発を外注しなくてもいいのでは」。最近、そう考える経営者・担当者の方が増えています。生成AIでアプリを作るツールが身近になり、プログラミング経験がなくても「とりあえず作ってみる」ことができるようになったからです。
私は中小企業向けのAI・DX支援を仕事にしています。この疑問に答えるため、自社で実際に手を動かして検証しました。結論を先に言うと、「見た目の完成」と「業務に載る」は最初から別の問題でした。これは使った人の失敗ではなく、いまのAIアプリ生成ツールが構造的に持っているギャップです。発注や内製を判断する前に、ぜひ知っておいてください。
検証:技術指定なしで「勤怠管理アプリを作って」と頼んだ
検証に使ったのは、GoogleのAIエージェント開発ツール「Antigravity」のデスクトップ版です。条件はあえてシンプルにしました。技術的な指定を一切せず、「勤怠管理アプリを作ってほしい」とだけ依頼する。非エンジニアの方が実際に依頼するときの状況を再現するためです。自分が知らないことを、依頼文に書けるはずがないからです。
結果は正直、驚きました。AIは自分で技術構成を選び、途中でビルドエラーが出ても自分で原因を突き止めて修正し、最後まで完走。数十分で、市販品と見分けがつかない見た目の勤怠管理アプリが動いていました。
問題は、この先でした。
業務システムとして致命的な3つの欠落
生成されたアプリの中身を調べると、データはブラウザの中(localStorageという仕組み)だけに保存する形でした。ざっくり言えば「そのブラウザが自分のパソコンの中に持つ小さなメモ帳」です。整理すると、3つが欠けていました。
1. データが自分の端末に閉じている。同僚のパソコンで開いてもデータは空で、勤怠管理なのに共有できない
2. 認証(ログイン)がない。誰が使っているか区別できず、権限管理もできない
3. ブラウザの履歴を削除すると、データごと消える。バックアップもない
一瞬で分かる見分け方
誰でもできる確認方法があります。同じパソコンでシークレットウィンドウ(プライベートウィンドウ)を開き、そのアプリにアクセスしてみてください。データが空なら、そのアプリのデータは端末に閉じています。複数人で使う業務には、そのままでは載りません。
もうひとつの勘違いは「動いた=公開された」です。AIが見せてくれた動くアプリは、手元の開発用サーバー上のもの。パソコンを閉じれば止まり、社外からは見えません。「動いた」と「会社のみんなが使える」の間には、大きな距離があります。なお、この分野のツールは進化が非常に速いので、最新の仕様は各公式情報でご確認ください。
なぜこうなるのか
これはAIの手抜きではありません。一行の依頼に対して、いちばん早く動くものを見せるには、サーバーもデータベースも使わずブラウザ内で完結させるのが合理的だからです。依頼文に書かれていない共有・認証・保存を、AIは「必要ない」と解釈しただけです。
そして難しいのは、非エンジニアの方が「データはどこに置くか」「権限は何段階か」「バックアップはどの頻度か」を仕様として言語化するのは、正直、専門の領域だということです。
それでも試作ツールとしては非常に優秀
では無意味かというと、逆です。動く試作品が数十分でできると、「欲しいもの」が具体的になります。触っているうちに「このボタンは大きくないと押し間違える」「一覧は部署でまとめたい」という言葉が次々出てきます。発注前に自分で試作しておくと、開発会社との会話が仕様レベルで噛み合い、依頼する側の武器になります。
おすすめの順番はこうです。
1. AIで試作して、実際に触る
2. 触りながら「欲しいもの」を言語化する
3. データ基盤・認証・運用を設計して、業務に載せる(ここが専門家の出番)
Google Workspaceをお使いの会社なら、業務に載せる段階では「GAS+スプレッドシート」やAppSheetのように、共有・権限・保存が最初から備わっている基盤の上に組むほうが堅実なケースが多い、というのが私の実感です。
発注を検討する方へ
AIで作った試作品は、捨てる必要はありません。それを持って相談すれば、要件が明確なぶん見積りも精度が上がります。逆に発注先を選ぶ際は、見た目のデモだけでなく「データの置き場所・権限・バックアップ・運用」をきちんと説明してくれる相手かどうかを確認してください。そこが、業務に載るかどうかの分かれ目です。
「AIで自作してみたが、業務に載るか分からない」という段階のご相談は、出品サービス『業務の自動化どこからやるべきか診断します』で承っています。試作物を拝見し、業務で使える形に何が足りないかを一緒に整理します。プロフィールの出品一覧からご覧ください。