ありがとうの約束
ある村に「ありがとう」しか いわない おじいさんがいました。
そうじをしながら村びとに「きれいにさせてくれてありがとう」
とれた野菜をおとなりさんにあげて「もらってくれてありがとう」
出かける前にふってきた雨にまで「ふってくれてありがとう」
どんなときにでも「ありがとう」といいます。
りんごの木の下で出会った 若いおじいさんとおばあさんは 「ありがとう」ということばでむすばれました。
みちばたに落としたりんごをひろって おたがい「ありがとう」といったのがきっかけ。
「どんなときでも、“ありがとう”といいましょう」
この誓いをわすれないように 庭に一本のりんごの苗木をうえ 「ありがとうの木」となづけました。
「ありがとうの約束」は、ふたりだけのきまり。感謝するときやしあわせなときだけではありません。
あらしがつづく夜は、「いっしょにいてくれてありがとう」 こどもが泣きやまないときでも「元気でいてくれてありがとう」 ふたりでケンカをしたときは「本音をいってくれてありがとう」
どんなときも「ありがとうの種」を見つけ おじいさんとおばあさんになるまで ずっとまもられてきました。
そんなおじいさんのことを、だれもが “ありがとうのおじいさん”とよぶようになりました。
そんなある日、いたずら好きのこどもたちが こんなことをいいだしました。「“ありがとうのおじいさん”は どんなことをやったら ありがとうをいわないのかなぁ」
ぼうしをとってみたり 用がないのにドアをノックしたり ホウキをかくしてみたり・・・
しかし、おじいさんは「ありがとう」というだけです。 こどもたちは、どうしてもちがうことをいわせたくなり 「ぜったいに、ありがとうをいわせないでみせる!」と、もっとひどいことを考えました。
こどもたちは おじいさんが出かけているあいだに 家の庭にかってにはいって りんごがなっている木のえだを いくつも折ってしまいました。
そこにおじいさんが かえってきました。 おじいさんは木の前で立ちすくんでいます。そして、ゆっくりとおじいさんはこどもたちに近づいてきました。
「ありがとう」
そして おじいさんは、てっぺんのほうの折られたえだを見て話しはじめました。「この木をうえたときに おばあさんに一番上になったりんごを毎年とってあげると約束してたんだが、だんだんのぼれなくなってしまった。
おばあさんは亡くなってしまって 約束がはたせずじまいだったけれど ずっと気になっていたんだ。だけど、こうやってみんなのおかげでとることができた。
ありがとう」
こどもたちは 下をむいています。 そしてだれかがいいました。「ごめんなさい」 いいながら泣きだしてしまいました。
おじいさんは、やさしくこういいました。
「ごめんなさいじゃなくて、“ありがとう“っていってごらん なんだかちょっと笑顔になるだろう?」
おじいさんはりんごを差しだし
「これからは、どんなときも “「ありがとう」って言う約束”を おじいさんとしてくれるかな」
そして、おじいさんとこどもたちは 庭に一本のあたらしいりんごの苗木をうえました。
おじいさんとこどもたちは笑顔でいいました。
『ありがとう』
※この作者は、あとがきで
ぼくは自分の娘に「ありがとう」ということばの大切さをつたえたくて、この絵本をつくろうと思いました。
娘が大きくなったときの世界が「ありがとう」であふれていることを願いながら・・・・
この絵本の中で、「どんなときでも 『ありがとうの種』を見つけ・・・
とありますが、あなたは、どんなときでも『喜びの種・感謝の種』を見つけることができますか。
そのような余裕を持って生きたいですね。