業務委託契約書を作成する際、発注者と受注者では、重視すべき契約条件が異なります。
例えば、成果物の著作権について考えてみましょう。
発注者としては、制作を依頼した成果物を自由に利用したいと考える場合があります。
一方、受注者としては、制作に利用した既存のプログラムやノウハウを、今後の業務でも利用できるようにしておきたいと考えるでしょう。
また、損害賠償についても、発注者は損害が発生した場合の補償を重視する一方、受注者は過大な賠償責任を負わないようにしたいと考える場合があります。
このように、同じ契約条項であっても、発注者と受注者では利害が異なることがあります。
そのため、業務委託契約書を作成する際には、自社が発注者なのか受注者なのかを踏まえ、取引内容に合った契約条件を検討することが重要です。
前編では、業務範囲、報酬・支払条件、検収、仕様変更・追加業務について解説しました。
後編では、次の3つの条項について、発注者側・受注者側それぞれの立場から解説します。
著作権に関する条項
損害賠償に関する条項
中途解約に関する条項
5.著作権に関する条項|成果物の権利は誰に帰属するのか
Webサイト制作、システム開発、デザイン制作、記事制作などの業務委託契約では、著作権の帰属が重要な問題になります。
成果物を発注したからといって、その著作権が当然に発注者へ移転するわけではありません。
著作権の帰属や利用条件については、契約内容に応じた整理が必要です。
発注者側が確認したいポイント
発注者としては、制作を依頼した成果物を、事業上必要な範囲で利用できるようにすることが重要です。
例えば、Webサイト制作を委託した場合、次のような利用を想定することがあります。
Webサイトを公開する
掲載内容を変更する
デザインを修正する
別の制作会社に改修を依頼する
制作物を広告や販促に利用する
しかし、契約書で著作権の帰属や利用許諾の範囲が明確になっていなければ、これらの利用について問題が生じる可能性があります。
そのため、発注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
成果物の著作権の帰属
著作権を移転する場合の時期
著作権法第27条・第28条の権利の取扱い
著作者人格権の不行使
成果物の改変や第三者への改修委託
第三者素材の利用条件
特に、著作権を発注者に移転する場合には、著作権法第27条・第28条の権利についても明確に定めることが重要です。
また、著作者人格権は譲渡できないため、必要に応じて不行使に関する条項を設けることが考えられます。
受注者側が確認したいポイント
一方、受注者としては、成果物の制作に利用した既存のプログラムやテンプレート、ノウハウなどを保護することが重要です。
例えば、Webサイト制作会社が、以前から保有しているプログラムを利用してWebサイトを制作する場合です。
契約書に「成果物に関する著作権はすべて発注者に帰属する」とだけ記載されていると、既存プログラムの取扱いについて認識の違いが生じる可能性があります。
そのため、受注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
新たに制作する成果物と既存著作物の区別
既存プログラムやテンプレートの権利帰属
発注者に認める利用許諾の範囲
第三者素材のライセンス条件
制作実績としての公開の可否
著作権移転の時期
例えば、受注者が以前から保有しているプログラムについては、著作権を受注者に留保し、発注者に必要な利用を許諾する方法が考えられます。
実務上のポイント
著作権条項では、単に「著作権は発注者に帰属する」「著作権は受注者に帰属する」と定めるだけでは不十分な場合があります。
成果物の内容や利用目的に応じて、権利の帰属と利用範囲を具体的に整理することが重要です。
発注者は「成果物を必要な範囲で利用できるか」、受注者は「既存の知的財産やノウハウを保護できるか」という視点で確認しましょう。
6.損害賠償に関する条項|責任の範囲と上限をどう定めるのか
業務委託契約では、契約違反や業務上の問題によって損害が発生する場合があります。
例えば、次のようなケースです。
システム開発の遅延によって事業開始が遅れた
制作物に不具合があり、修正費用が発生した
秘密情報が漏えいした
受注者の業務上のミスによって発注者に損害が生じた
こうした場合に備えて、損害賠償条項を定めておくことが重要です。
発注者側が確認したいポイント
発注者としては、受注者の契約違反などによって損害が発生した場合に、適切な賠償を受けられるようにすることが重要です。
例えば、システム開発を委託したところ、受注者の責めに帰すべき事由によって重大な不具合が発生し、発注者に損害が生じた場合です。
このような場合、損害賠償の範囲や上限がどのように定められているかによって、発注者が請求できる範囲に影響が生じる可能性があります。
そのため、発注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
損害賠償責任が発生する条件
賠償の対象となる損害の範囲
損害賠償の上限
重大な契約違反があった場合の取扱い
秘密保持義務違反などの例外
特に、損害賠償の上限が委託料と同額に設定されている場合には、その上限が取引上のリスクに照らして適切かを検討する必要があります。
受注者側が確認したいポイント
一方、受注者としては、受け取る委託料に比べて過大な損害賠償責任を負わないようにすることが重要です。
例えば、委託料が50万円の業務であっても、契約書に損害賠償の上限が設けられていなければ、事案によっては委託料を大きく上回る損害賠償請求が問題となる可能性があります。
そのため、受注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
損害賠償の上限額
賠償対象となる損害の範囲
逸失利益などの取扱い
第三者に起因する損害の取扱い
発注者側の事情によって生じた損害の取扱い
例えば、損害賠償の上限を「本契約に基づき発注者が受注者に支払った委託料の総額」とする方法が考えられます。
ただし、継続的な契約や複数の個別契約がある場合には、上限額の算定対象をより具体的に定める必要があります。
また、故意又は重過失による損害などについて、上限の適用を除外するかどうかも検討事項になります。
損害賠償条項は一方的に定めればよいわけではない
損害賠償条項は、発注者と受注者の双方にとって重要です。
発注者にとっては、損害が発生した場合の適切な補償が必要です。
一方、受注者にとっては、契約金額に見合わない過大な責任を負わないことが重要です。
そのため、契約書では、業務内容、取引金額、想定される損害などを踏まえ、責任の範囲や上限を検討する必要があります。
なお、損害賠償責任の制限条項については、具体的な内容や適用法令、公序良俗などとの関係で、その効力が問題となる場合があります。
実務上のポイント
発注者は「損害が発生した場合に適切な補償を受けられるか」、受注者は「過大な賠償責任を負わないか」という視点で確認しましょう。
7.中途解約に関する条項|契約を途中で終了させる場合の条件
業務委託契約では、契約期間の途中で契約を終了させる必要が生じることがあります。
例えば、発注者の事業方針の変更や、受注者の事業上の事情などによって、契約の継続が難しくなる場合です。
こうした場合に備えて、中途解約条項を定めておくことが重要です。
発注者側が確認したいポイント
発注者としては、事業上の必要性に応じて、契約を途中で終了できる仕組みを設けておきたいと考える場合があります。
例えば、広告運用業務委託契約を締結していたところ、発注者の事業方針が変更され、広告運用を停止する必要が生じた場合です。
このような場合、契約期間が残っていることを理由に契約を終了できないと、不要になった業務について報酬の支払いが続く可能性があります。
そのため、発注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
中途解約の可否
解約の予告期間
解約通知の方法
解約時の報酬精算
解約に伴う費用負担
契約終了時の引継ぎ
ただし、中途解約を認める場合であっても、既に発生した報酬や費用、損害賠償などの問題が生じることがあります。
受注者側が確認したいポイント
一方、受注者としては、突然契約を終了されることによる損失を防ぐ必要があります。
例えば、6か月間の業務委託契約を締結し、受注者が人員を確保していたところ、契約開始から1か月後に発注者から契約終了を通知された場合です。
受注者は、業務に必要な人員や設備を確保するため、既に費用を負担している可能性があります。
そのため、受注者としては、次のような事項を確認することが重要です。
解約の予告期間
既に実施した業務の報酬
発生済みの費用
キャンセルできない外注費などの取扱い
契約終了時の成果物の引渡し
解約に伴う損害の取扱い
特に、人員確保や外注先の手配が必要な業務では、中途解約によって発生する費用の負担を明確にしておくことが重要です。
民法・フリーランス法との関係
業務委託契約の中途解約については、契約の法的性質によって適用される民法の規定が異なる場合があります。
例えば、請負契約については、仕事完成前の注文者による解除に関する民法641条が問題となることがあります。
また、委任・準委任契約については、民法651条などが問題となる場合があります。
さらに、フリーランス法が適用される一定の継続的業務委託では、発注事業者が契約を中途解除し、又は更新しない場合に、原則として30日前までの予告が必要となることがあります。
ただし、適用対象や例外の有無によって取扱いは異なります。
そのため、契約書で中途解約条項を定める際には、契約内容だけでなく、適用される法令についても確認することが重要です。
実務上のポイント
中途解約条項では、単に「解約できる」「解約できない」と定めるだけでは不十分な場合があります。
解約の予告期間や報酬精算、費用負担などを具体的に定めておくことが重要です。
発注者は「事業上の事情に応じて契約を終了できるか」、受注者は「突然の解約による損失を抑えられるか」という視点で確認しましょう。
発注者側と受注者側で契約書を作り分ける必要はある?
ここまで、業務委託契約書の7つの条項について、発注者側・受注者側それぞれの立場から解説しました。
では、発注者側と受注者側で、契約書を完全に別のものとして作成する必要があるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
契約書は、発注者と受注者の双方が合意することによって成立する契約の内容を明確にするものです。
そのため、一方当事者に有利な条項だけを並べればよいわけではありません。
重要なのは、依頼者の立場や取引内容を踏まえ、どのような条件を重視すべきかを整理することです。
例えば、システム開発委託契約書では、発注者としては成果物の品質や著作権の取得を重視する場合があります。
一方、受注者としては、仕様変更による追加報酬や損害賠償の上限を重視する場合があります。
こうした違いを踏まえ、契約書の内容を検討することが重要です。
また、発注者側で作成された契約書を受注者が確認する場合にも、同様の視点が必要になります。
契約書を提示された側であっても、その内容を十分に確認し、必要に応じて契約条件について協議することが重要です。
まとめ|契約書は自社の立場と取引内容に合わせて作成することが重要
後編では、業務委託契約書について、次の3つの条項を発注者側・受注者側それぞれの立場から解説しました。
著作権に関する条項
損害賠償に関する条項
中途解約に関する条項
著作権条項では、発注者は成果物の利用権限を重視し、受注者は既存の知的財産やノウハウの保護を重視する場合があります。
損害賠償条項では、発注者は適切な補償を重視し、受注者は過大な賠償責任を負わないことを重視します。
中途解約条項では、発注者は柔軟な契約終了を重視し、受注者は突然の解約による損失を防ぐことを重視します。
このように、同じ業務委託契約であっても、契約当事者の立場によって重視する事項は異なります。
そのため、一般的な雛形をそのまま使用するのではなく、自社の立場や取引内容に合わせて契約条件を検討することが重要です。
業務委託契約書は、単に必要な条項が記載されていればよいというものではありません。
発注者・受注者それぞれの立場や事業上のリスクを踏まえ、実際の取引で機能する契約書を作成することが重要です。
業務委託契約書の作成は行政書士へ
ファビスト行政書士事務所では、個人事業主・フリーランス・中小企業の皆様を対象に、各種ビジネス契約書の作成をサポートしています。
「発注者側の立場で業務委託契約書を作成したい」
「受注者側にとって不利な契約条件を整理したい」
「著作権や損害賠償の条件を明確にしたい」
「中途解約によるトラブルを防ぐ契約書を作成したい」
「一般的な雛形ではなく、自社の取引に合った契約書を作成したい」
このようなお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。
当事務所では、ヒアリングを通じて、事業内容や取引条件を確認しながら契約書を作成しています。
また、完成までの修正回数を制限せず、原則として追加料金のない明確な料金体系で対応しています。
契約書作成に強い行政書士が、発注者・受注者それぞれの立場や取引内容に合わせた、実務で機能する契約書の作成をサポートいたします。
※本記事は一般的な契約実務について解説したものです。個別の契約における法的な取扱いは、契約の法的性質、具体的な事実関係、契約内容、適用法令等によって異なります。