業務委託契約では、契約期間の満了や中途解約などによって契約が終了することがあります。
しかし、契約が終了したからといって、当事者間のすべての権利義務が当然に消滅するわけではありません。
例えば、次のようなケースが考えられます。
契約終了時に、未払い報酬や作業途中の成果物の取扱いで揉めた
発注者の都合で契約が終了したが、受注者が既に支出した費用の負担が決まっていなかった
契約終了後に、制作途中のデータや資料を引き渡してもらえなかった
契約終了後も、秘密保持義務が続くのか分からない
契約終了後に、納品済みの成果物を継続利用できるのか問題になった
こうしたトラブルを防ぐためには、契約を終了させる条件だけでなく、契約終了時にどのような精算や引継ぎを行い、どのような義務を存続させるのかを明確にしておくことが重要です。
前編では、契約期間、自動更新、中途解約、契約違反による解除について解説しました。
後編では、業務委託契約書の契約終了条項で押さえておきたい7つのポイントのうち、次の3つを解説します。
契約終了時の報酬・費用を精算する
成果物・資料・貸与物の返還や引渡しを定める
契約終了後も存続する義務を明確にする
5.契約終了時の報酬・費用を精算する
業務委託契約が終了する際に、特にトラブルになりやすいのが報酬や費用の精算です。
例えば、契約期間の途中で業務が終了した場合、受注者が既に行った作業について、どの程度の報酬を支払うべきかが問題になることがあります。
報酬精算で起こりやすいトラブル
例えば、システム開発業務を100万円で委託し、開発途中で契約を終了させることになった場合です。
受注者は既に一定の作業を行っており、人件費や外注費なども発生しています。
このとき、発注者が「完成していないので報酬は支払わない」と主張する一方、受注者が「作業した分の報酬を支払ってほしい」と主張することがあります。
実際の報酬請求権や損害賠償の範囲は、契約の性質、終了原因、履行状況などによって異なります。
例えば、請負契約については民法634条や641条、委任・準委任契約については民法648条・648条の2などが問題となる場合があります。
契約書で定めたい精算事項
契約書では、次のような事項を整理することが考えられます。
契約終了日までに実施した業務の報酬
作業途中の成果物の取扱い
既に発生した外注費や材料費
キャンセルできない費用
前払金の精算
未払い報酬の支払期限
契約終了に伴う損害賠償の取扱い
例えば、月額固定報酬の継続的な業務委託契約では、月の途中で契約が終了した場合に日割計算するのか、月額報酬の全額を支払うのかを定めることが考えられます。
一方、成果物の完成を目的とする契約では、作業の進捗状況や発注者が受ける利益などを踏まえた精算方法を検討する必要があります。
「契約終了時は一切支払わない」という条項には注意
発注者の都合で契約を終了させる場合に、受注者に対して一切の報酬や費用を支払わないとする条項には注意が必要です。
契約の性質や終了原因によっては、民法上の報酬請求や損害賠償の問題が生じる場合があります。
また、フリーランス法や中小受託取引適正化法(取適法)などが適用される取引では、不当な給付内容の変更や受領拒否、代金減額などに関する規制が問題となることもあります。
契約終了時の精算方法は、契約締結時から具体的に定めておくことが重要です。
6.成果物・資料・貸与物の返還や引渡しを定める
契約が終了した場合には、受注者が保有している成果物や資料、貸与物などの取扱いも問題になります。
例えば、次のようなものが考えられます。
制作途中のWebサイトやプログラム
デザインデータや制作ファイル
発注者から提供された資料
顧客情報を含むデータ
貸与されたパソコンや機器
システムのアカウント情報
業務に関連するマニュアル
契約書でこれらの取扱いが定められていないと、契約終了後に引渡しや返還を巡って争いになる可能性があります。
作業途中の成果物の取扱い
例えば、Webサイト制作の途中で契約が終了した場合、発注者が制作途中のデータを引き継ぎ、別の制作会社に完成させてもらいたいと考えることがあります。
しかし、制作途中の成果物について、引渡義務や利用権限が明確になっていなければ、問題が生じる可能性があります。
特に、著作権の帰属や利用許諾の範囲については注意が必要です。
契約書で定めたい事項
契約終了時の引渡しや返還については、例えば次の事項を整理します。
引渡し又は返還の対象
引渡し又は返還の期限
引渡し方法
データの形式
引継ぎ作業の有無
引継ぎ費用の負担
受注者が保有するデータの削除
法令上保存が必要な情報の取扱い
また、システム開発やWebサイト制作などでは、成果物の引渡しだけでなく、第三者による保守・改修が可能となるよう、必要な資料や情報を引き継ぐことも検討する必要があります。
ただし、受注者が従前から保有しているプログラムやノウハウまで、当然に引渡しの対象となるわけではありません。
契約書では、新たに作成した成果物と受注者が保有する既存の資産を区別することが重要です。
契約終了時に何を引き渡し、何を返還・削除するのかを明確にしておきましょう。
7.契約終了後も存続する義務を明確にする
業務委託契約が終了しても、すべての契約上の義務が消滅するとは限りません。
例えば、契約終了後も秘密保持義務を継続させる必要がある場合があります。
また、成果物の著作権や損害賠償、未払い報酬などについても、契約終了後に問題が生じることがあります。
そのため、契約書では、契約終了後も効力を存続させる条項を整理することが重要です。
契約終了後も存続させることが考えられる条項
① 秘密保持条項
契約期間中に知り得た秘密情報について、契約終了後も秘密保持義務を継続させることが考えられます。
秘密保持義務の存続期間については、情報の性質や取引内容に応じて検討する必要があります。
② 知的財産権条項
成果物の著作権の帰属や利用許諾については、契約終了後も効力を維持する必要がある場合があります。
例えば、契約終了後も発注者が納品済みのWebサイトを継続利用する場合です。
③ 損害賠償条項
契約期間中の債務不履行などに関する損害賠償について、契約終了後も問題となる場合があります。
そのため、損害賠償の範囲や上限に関する条項についても、契約終了後の適用関係を整理することが考えられます。
④ 未払い報酬の支払義務
契約終了時点で未払いの報酬がある場合、その支払義務は、契約が終了したという理由だけで当然に消滅するものではありません。
支払期限や精算方法についても明確にしておくことが重要です。
⑤ 紛争解決・合意管轄条項
契約終了後に紛争が生じる可能性もあるため、合意管轄などに関する条項について、契約終了後も適用されることを明確にする方法が考えられます。
存続条項を設ける際の注意点
契約書では、契約終了後も効力を存続させる条項を列挙する方法が一般的に用いられます。
ただし、すべての条項を無期限に存続させればよいわけではありません。
例えば、秘密保持義務や競業避止義務については、対象となる情報や業務の性質、義務の範囲、期間などを踏まえた検討が必要です。
また、存続条項に記載がないからといって、既に発生した権利義務がすべて消滅するわけでもありません。
契約終了後も必要となる義務を整理し、その内容や存続期間を明確にしておくことが重要です。
契約終了条項は発注者・受注者双方にとって重要
契約終了条項は、発注者を保護するためだけのものでも、受注者を保護するためだけのものでもありません。
発注者にとっては、契約終了時に必要な成果物や資料を確実に引き継ぎ、業務の継続に支障が生じないようにすることが重要です。
一方、受注者にとっては、既に実施した業務の報酬や発生した費用について、適切に精算できるようにしておくことが重要です。
例えば、システム保守業務委託契約では、契約終了時に次のような問題が生じることがあります。
発注者は、別の保守会社に業務を引き継ぐため、システムに関する資料や情報の提供を求めます。
一方、受注者は、引継ぎ作業に追加の工数が必要となるため、その費用負担について協議したいと考えます。
このような場合、契約書に引継ぎ義務や費用負担についての定めがなければ、当事者間で認識の違いが生じる可能性があります。
そのため、契約書では、契約を終了させる条件だけでなく、契約終了時に双方がどのような義務を負うのかを具体的に定めることが重要です。
まとめ|契約終了後の精算・引継ぎ・存続義務を明確にすることが重要
後編では、業務委託契約書の契約終了条項について、次の3つのポイントを解説しました。
契約終了時の報酬・費用を精算する
成果物・資料・貸与物の返還や引渡しを定める
契約終了後も存続する義務を明確にする
業務委託契約では、契約期間の満了や中途解約によって契約が終了したとしても、報酬の支払いや成果物の引渡しなど、対応しなければならない事項が残ることがあります。
また、秘密保持義務や知的財産権に関する条項など、契約終了後も効力を維持する必要があるものもあります。
そのため、契約書を作成する際には、契約を終了させる条件だけでなく、契約終了後の取扱いまで整理することが重要です。
契約終了時の報酬精算、成果物の引渡し、契約終了後の義務を明確にすることで、発注者・受注者双方の認識の違いを減らし、円滑な契約終了につなげることができます。
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※本記事は一般的な法制度と契約実務について解説したものです。個別の契約における法的な取扱いは、契約の法的性質、具体的な事実関係、契約内容、適用法令等によって異なります。