― 第四話:知覧にて ―
長い年月が流れました。
戦争は遠い過去となり、
人々の暮らしも大きく変わりました。
田中幸子さんもまた、結婚し、家庭を築き、
一人の人生を歩んでこられました。
そして――
ご主人を亡くされたあと。
幸子さんは、鹿児島県・知覧を訪れます。
特攻隊員たちの記録が残されている
特攻平和記念館です。
館内には、多くの隊員の遺影や名前が並び、
それぞれの人生と最期が、静かに伝えられています。
その中で幸子さんは、今野勝郎さんの名前と向き合います。
浅間温泉で出会い、言葉を交わした一人の青年。
その存在が、遠い記憶ではなく、
確かにここに刻まれているという現実。
それは、
年月を経て初めて実感する再会でした。
幸子さんは、勝郎さんの生家を訪ねたいと考え、
館の係員にその所在地を尋ねます。
しかし、
個人情報にあたるため、
教えることはできないと説明を受けます。
それでも幸子さんは、事情を伝え、
どうしても訪ねたいという思いを丁寧に話し続けました。
その申し出を受けて、
係員は勝郎さんの生家へ連絡を入れます。
そして――
ご家族の了承を得て、
生家の住所を幸子さんに伝えることが許されました。
こうして幸子さんは、
初めて宮城県を訪れることになります。
それは、かつて出会った一人の青年の
故郷へ向かう旅の始まりでした。
(つづく)