大台ヶ原について出版を決意したのには理由があった。それは、大台ヶ原がどのようにして現在の姿になったのかという開山物語について詳細に記した書物が皆無であり、広く世間に知られていないからである。
日本百名山、大台ヶ原山は独特の個性を持つ。この山は単なる登山を目的とした山ではない。
「大台ヶ原へ行ってきたよ、素晴らしい処だった」
と誰もが言うが、この山に伝えられる色んな伝説や史実が殆ど周知されていないという事実。大台は、只紅葉がすばらしかったでは片づけられない深みと魅力を備えた自然の大庭園である。このまま歴史が流れ、色んな事が後の世に伝えられずに忘れ去られてしまうのではないかと危惧したからである。
登山者は、口をそろえて幽玄な自然美を称賛する。だが、この大衆化された大台が、明治中期、古川嵩行者が私利私欲を捨て、我が命をかけて開拓開山したことは殆ど知られていない。
『明治中期まで、魔の山として恐れられ、人を寄せ付けなかった大台ヶ原に一人の若き行者が入山した。彼は、壮絶なる修行を敢行、ついに大台ヶ原開山の偉業を成就した』――この史実。
私は、このことについて少しは聞き及んでいた。しかし、その詳細な資料は皆無に等しかった。なにしろ、この行者については知る人ぞ知る伝説的存在となっていたからである。この探索には数年の歳月を要した。そんな折、大台ヶ原研究の第一人者、鈴木林先生の存在を知った。私は早速先生に面会を申し出た。先生は上機嫌で私を迎えてくれた。先生の手元には幻の草稿があった。それは、開山行者の生い立ちからその生涯を克明に綴ったもので実に幻の資料だった。私は、私の悲願、失われつつある大台ヶ原誕生の歴史を後世に残したいという趣旨を説明し、先生のお書きになった「開山記」の草稿を資料として使わせて頂きたい旨を懇願した。すると先生は即座に「使ってくれて構いませんよ。私の研究が再び世に出ることは嬉しいことです。とお許しを頂いた。更に、著作権云々は関係ありませんよ、私が許可しますとのお言葉。
この時の私の感極まった心中は読者の皆様の想像にお任せする。従って、本書は、鈴木林先生の貴重な草稿によって成就したといっても過言ではない。先生のお調べになったまぼろしの資料は、とても貴重極まりないものであった。本書がこのような事情で完結できたことは、鈴木林先生の破格のお計らいによるものであることをご承知願いたい。
巻末に大台登山地図「西大台と東大台」を加えておきます。登山される方の参考になれば幸甚です。
最後に、本書出版に際しリライトや、編集等専門的な事を担当してくれた山の辺書房代表、よしいふみと氏に心からお礼申し上げます。
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