"何もしない"が怖かった日々

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焦りの中で


「すみません、遅れました...」

カウンセリングルームに入ってきた彼女は、少し息を切らしていた。

ダイキ「大丈夫ですよ。どうぞ、座ってください」

「ありがとうございます。今日も朝から転職サイトとにらめっこしてて、気がついたら時間ギリギリで...」

ダイキ「毎日お忙しそうですね」

「はい...というか、忙しくしてないと不安で。退職してもう3ヶ月なんです。周りの友達は働いてるし、SNS見ると、みんなキラキラして...私だけ取り残されてる気がして」

彼女はそう言いながら、スマホを何度も確認していた。

ダイキ「今日はどんなことをお話しできればいいですか?」

「実は...最近すごく疲れてるんです。朝起きても体が重いし、夜もなかなか眠れなくて。でも、休んでる場合じゃないって思って、無理やり資格の勉強したり、セミナーに参加したり...」

少し言葉に詰まった。

「...でも、全然頭に入ってこないんです。何やってるんだろうって」

"頑張らなきゃ"の呪縛


ダイキ「今、一日どれくらい勉強や転職活動の時間に使ってますか?」

「えっと...朝起きてから、転職サイトチェックして、午前中は資格の勉強。午後は求人探しとか、応募書類作ったり...あ、あと週に2回はオンラインセミナーに参加してます。スキルアップしないとって思って」

ダイキ「結構ハードなスケジュールですね」

「でも、働いてた時に比べたら全然...」

彼女は少し焦ったように言った。

「会社員の時は朝から晩まで働いてたんです。それに比べたら、今なんて時間あり余ってるし。なのに、何も成果が出てない自分が情けなくて...」

ダイキ「何も成果が出てない、ですか」

「そうなんです。資格の勉強も進まないし、書類は送っても返事ないし。ブランクが3ヶ月って言っただけで、面接すら受けられないこともあって...」

そう言うと、彼女はぎゅっと拳を握った。

ダイキ「辞める前と今と、何か変わったことはありますか?」

「...睡眠時間は増えました。でも、寝つきが悪くて。あと、食欲も...あんまりないかもしれません」

ダイキ「働いてた時はどうでしたか?」

「働いてた時は...」

彼女は少し考えてから、ぽつりと言った。

「...毎日、胃が痛かったです。朝起きると吐き気がして。でも、休めなくて。休んだら迷惑かけるし、評価も下がるし」

見えてきた本当の疲れ


ダイキ「今、朝起きた時はどんな感じですか?」

「体が...すごく重いです。『また今日も何か頑張らないと』って思うと、ベッドから出るのが辛くて」

ダイキ「胃の痛みは?」

「...あ、それはないです。そういえば」

初めて、彼女の表情が少しだけ緩んだ。

ダイキ「体は何を教えてくれてると思いますか?」

「...わからないです。でも、なんか、動けない。やらなきゃって思ってるのに、体が言うこと聞かないんです」

彼女の目に、うっすらと涙が浮かんだ。

「私、怠けてるだけなんでしょうか...」

ダイキ「怠けてると思いますか?」

「わからないです...でも、働いてる友達は毎日頑張ってるのに、私は家で勉強してるだけで疲れてるなんて...おかしいですよね」

ダイキ「おかしいかどうか、というより、今のあなたの体は何を求めてると思いますか?」

長い沈黙が流れた。

彼女は、じっと自分の手を見つめていた。

「...休め、って言ってるのかな」

その言葉を口にした瞬間、彼女の涙がこぼれた。

"何もしない"ことへの罪悪感


ダイキ「休むことに、何か抵抗がありますか?」

彼女は涙を拭いながら、小さくうなずいた。

「あります...すごく。休んだら、もっと遅れちゃうって思って。友達と差が開いちゃうって」

ダイキ「差が開くと、どうなりますか?」

「...置いていかれる。誰にも必要とされなくなる」

ダイキ「それは、いつから感じていたことですか?」

彼女は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。

「小さい頃から...かもしれません。私、勉強できる子だったんです。テストで100点取ると、親も先生も褒めてくれて。でも、90点だと『あと10点は?』って言われて」

ダイキ「100点じゃないと、どうなると思ってました?」

「...認められない。価値がないって思われる」

彼女は、小さな声で続けた。

「だから、ずっと頑張ってきたんです。学校でも、会社でも。頑張ってる自分じゃないと、誰も見てくれないって思ってて」

ダイキ「頑張ってない時の自分は?」

「...」

彼女は言葉を失った。

しばらくして、震える声で言った。

「怖いです。頑張ってない自分は、何もない。空っぽで...誰も必要としない」

エネルギーの収支


ダイキ「今やってること、資格の勉強とか転職活動とか、それって楽しいですか?」

「楽しい...?」

彼女は少し戸惑ったように繰り返した。

「楽しいとか、考えたことなかったです。やらなきゃいけないことだから」

ダイキ「やってる時、どんな気持ちですか?」

「...焦ってます。『これで本当に大丈夫なのかな』『もっとやらなきゃ』って。あと、疲れてて集中できない自分にイライラして」

ダイキ「なるほど。ちょっと想像してほしいんですけど、スマホのバッテリーって、充電しながら使うとどうなりますか?」

「え?...充電遅くなりますよね」

ダイキ「そうですね。充電してるつもりでも、同時に使ってると、なかなか満タンにならない」

彼女は、ハッとした表情になった。

ダイキ「今のあなたは、休んでるつもりで、実は結構エネルギー使ってるのかもしれないですね」

「...そうかもしれません。勉強してても、『これ意味あるのかな』って不安になったり、転職サイト見てても『私には無理かも』って落ち込んだり...」

ダイキ「不安とか、焦りとか、そういう感情もエネルギー使うんですよ」

「そうなんですか...」

「だから、体が重いのかな。充電できてないんだ...」

小さな許可


ダイキ「もし、一週間、何もしなくていいとしたら、何がしたいですか?」

「何もしなくていい...?」

彼女は困ったように笑った。

「そんなの、考えたこともないです」

ダイキ「じゃあ、一日だけなら?」

「一日...」

彼女はしばらく考えて、小さく言った。

「...ずっと寝ていたいです。本当は」

ダイキ「それ、やってみたらどうですか?」

「え、でも...」

「ダメですか?」

彼女は戸惑った表情で、ダイキを見た。

「いいんですか?そんなの」

ダイキ「誰の許可が必要ですか?」

「...」

長い沈黙の後、彼女はぽつりと言った。

「自分の、ですよね」

ダイキ「そうですね」

「でも、怖いです。休んだら、本当にダメになっちゃいそうで」

ダイキ「ダメって、どういう状態ですか?」

「...動けなくなる。何もできなくなる」

ダイキ「今は動けてますか?」

彼女はハッとした。

「...動けてない、かも。動いてるつもりで、全然前に進んでない」

ダイキ「じゃあ、一回止まってみるのも、選択肢の一つかもしれないですね」

小さな実験


「一週間、何もしないって決めたら...どうなるんでしょう」

ダイキ「どうなると思いますか?」

「最初は不安で、そわそわするかもしれません。でも...もしかしたら、体が楽になるかも」

ダイキ「やってみますか?」

彼女は少し迷ってから、小さくうなずいた。

「...やってみます。怖いけど」

ダイキ「何もしないって決めた時、一番心配なのは何ですか?」

「友達に...なんて言おう。『今何してるの?』って聞かれたら」

ダイキ「何て答えたいですか?」

彼女は少し考えて、小さく笑った。

「...『休んでる』って、言えたらいいな」

「でも、それって『何もしてない』って思われますよね」

ダイキ「『何もしてない』と『休んでる』、どう違いますか?」

「...」

彼女は、じっくり考えた。

「『何もしてない』は、怠けてる感じ。でも『休んでる』は...必要なことをしてる、のかな」

ダイキ「いいですね。休むことも、必要なこと」

「そう思えたら...楽かもしれません」

未来への一歩


カウンセリングの最後に、彼女は少し表情が明るくなっていた。

「来週までの一週間、とりあえず資格の勉強も転職活動もお休みします。寝たいだけ寝て、起きたら好きなドラマ見たり...」

ダイキ「いいですね」

「あと...スマホの転職アプリ、通知オフにします。見ちゃうと、焦るから」

ダイキ「具体的でいいですね」

「でも、不安になったらどうしよう」

ダイキ「不安になったら?」

「...深呼吸、してみます。あと、『今は休む時間』って自分に言ってみる」

彼女は、少し照れくさそうに笑った。

「なんか、自分に優しくする練習みたいですね」

ダイキ「そうかもしれないですね」

「今まで、自分に厳しくすることしかしてこなかったから...難しいかもしれないけど、やってみます」

立ち上がる彼女の表情は、来た時よりも少しだけ柔らかかった。

「ありがとうございました。なんか...少しだけ、肩の荷が下りた気がします」

ダイキのひとこと


キャリアブランクの期間、多くの人が「何かしなければ」という焦りに駆られます。でも、本当に必要なのは、エネルギーを使うことではなく、エネルギーを溜めることかもしれません。

頑張ることに価値を置いてきた人ほど、休むことへの罪悪感が強くなります。でも、充電なしでは、どんなに優秀な人でも動けなくなってしまいます。

「何もしない」ことは、怠けることではありません。次のステップのために、心と体を整える大切な時間なのです。


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