この記事はフィクションですが、カウンセラーは実在し個人カウンセリングを提供しています
クライエント設定:
ミサキさん(女性)
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休んでいるはずなのに
ダイキ「今日はどんな感じですか?」
ミサキ「うーん...正直、よくわからないんです。休職して3ヶ月経つんですけど、なんか、全然休めてる気がしなくて」
ミサキさんは少し困ったような表情で、手元のコーヒーカップをくるくると回した。
ダイキ「休めてる気がしない、ですか」
ミサキ「はい。最初の1ヶ月くらいは本当に何もできなくて、ただ寝てるだけだったんです。でも、このままじゃダメだって思って...2ヶ月目からはキャリアコンサルタントの資格の勉強始めたり、副業でWebデザインの仕事も受け始めたんですよ」
ダイキ「なるほど」
ミサキ「でも、最近また体がだるくて。朝起きられないし、頭もぼーっとして。せっかく休職してるのに、何やってるんだろうって...」
そう言ってミサキさんは、疲れたように息を吐いた。
エネルギーの引き算
ダイキ「ミサキさん、ちょっと想像してみてほしいんですけど。スマホのバッテリーって、充電しながら使うとどうなりますか?」
ミサキ「え...充電が遅くなりますよね。下手したら減っていく」
ダイキ「そうなんです。今のミサキさんの状態って、それに近いかもしれませんね」
ミサキ「...どういうことですか?」
ダイキ「休職して休んでるつもりでも、資格の勉強したり、副業したり、『充電しながら使ってる』状態になってるんじゃないかなって」
ミサキさんの手が、ぴたりと止まった。
ミサキ「でも...何もしないでただ休んでるだけって、時間の無駄じゃないですか。復職するにしても転職するにしても、スキルがないと」
ダイキ「時間の無駄、ですか」
ミサキ「そうです。だって、周りはみんな頑張ってるのに、私だけ何もしないで...それに、休んでると体力も落ちるし」
少し前のめりになって、ミサキさんは早口で話した。まるで、自分を納得させるように。
「休んだら体力が落ちる」という誤解
ダイキ「ミサキさん、ちょっと質問なんですけど。去年の今頃とか、仕事してた時って、週に何回くらい運動してました?」
ミサキ「え...週に? ゼロですね。通勤で歩くくらいで」
ダイキ「じゃあ、1年間ほとんど運動しなかったとして、『運動不足で体力落ちちゃったなー』って、深刻に悩んでました?」
ミサキ「いや...笑い話レベルでしたね。『運動しなきゃなー』くらいで」
ダイキ「でも今は、『3ヶ月休んだら体力が落ちる』って、すごく深刻に感じてる」
ミサキ「......」
その瞬間、ミサキさんの表情が変わった。何かに気づいたような、驚いたような顔。
ミサキ「あ...そっか。おかしいですよね。1年間運動しなくても何とも思わなかったのに、3ヶ月休むのがこんなに怖いって」
ダイキ「その『怖い』って感じ、どこから来てると思います?」
母の言葉
ミサキさんは少し考えてから、小さな声で答えた。
ミサキ「...母かもしれません」
ダイキ「お母さん?」
ミサキ「母は、ずっと看護師として働いてきた人で。私が小さい頃から『女性こそ手に職をつけて自立しなさい』『休むのは負けること』って言われて育ったんです」
ダイキ「『休むのは負けること』」
ミサキ「はい。母の妹が、私が小学生の頃に離婚して、しばらく働けない時期があって...母はそれを見て、『だから自立できないとダメなのよ』って。ことあるごとに私に言ってました」
そう話すミサキさんの目に、うっすらと涙が浮かんだ。
ミサキ「だから、休職して実家に戻った時も、母は『早く復帰しなさい。こんなところでダラダラしてちゃダメ』って...優しく言ってるんですけど、すごくプレッシャーで」
ダイキ「お母さんなりの心配なんでしょうね」
ミサキ「そうなんです。わかってるんです、頭では。でも...」
声が震えた。ミサキさんはしばらく黙って、涙をこらえていた。
本当に失うもの
沈黙が流れた。ダイキは何も言わず、ただミサキさんのペースを待った。
ミサキ「あの...聞いてもいいですか」
ダイキ「どうぞ」
ミサキ「私、このまま休み続けたら、本当にダメになっちゃうんでしょうか」
ダイキ「ダメになる、って?」
ミサキ「社会復帰できなくなるとか...誰からも必要とされなくなるとか」
ダイキ「もし、今のまま無理して復職したら、どうなると思います?」
ミサキ「...また、同じことの繰り返しかもしれません。頑張って、頑張って、でもまた倒れて」
ダイキ「じゃあ、もし本当にしっかり休んで、エネルギーを貯めてから次のステップに進んだら?」
ミサキ「......そっちの方が、長く働けるかもしれませんね」
ミサキさんは、ゆっくりと息を吐いた。
ミサキ「失うものって、『今すぐ復帰できないこと』じゃなくて、『また同じように倒れること』なのかもしれない」
8時間睡眠の発見
次のセッションで、ミサキさんは少し明るい表情で現れた。
ミサキ「あれから、思い切って勉強も副業も全部やめてみたんです」
ダイキ「おお、どうでしたか?」
ミサキ「最初の3日くらいは罪悪感がすごくて。でも、1週間経ったあたりから...なんか、頭がすっきりしてきて」
ダイキ「へー」
ミサキ「それで気づいたんです。私、ずっと1日5時間とか6時間しか寝てなかったんですよ、休職中なのに。でも8時間寝るようにしたら、朝起きた時の感じが全然違って」
目が少しきらきらしている。
ミサキ「あと、ご飯もちゃんと作って食べるようになりました。今まで休職中もコンビニ弁当とかカップ麺で済ませてたんですけど...ちゃんと料理するって、こんなに落ち着くんですね」
ダイキ「体の感じはどうですか?」
ミサキ「だるさが、少しずつ減ってきてます。まだ完全じゃないけど...でも、『ちゃんと休めてる』って感覚が初めて」
充電の時間
ダイキ「ちなみに、今は1日どんな風に過ごしてるんですか?」
ミサキ「朝8時に起きて、朝ごはん食べて、午前中は散歩したり本読んだり。お昼寝もするようになりました」
ダイキ「お昼寝!」
ミサキ「はい(笑)。最初は『昼間から寝るなんて』って思ったんですけど、15分くらい寝ると、午後がすごく楽で。夜もちゃんと眠れるんです」
ダイキ「生活のリズムが整ってきたんですね」
ミサキ「そうなんです。で、気づいたのが...私、『休む』っていうのを、『何もしないこと』だと思ってたんですよ。でも、違うんですね」
ダイキ「というと?」
ミサキ「『充電すること』なんだって。スマホと一緒で、使いながら充電しても意味がない。一回ちゃんと、使うのをやめて、充電に集中する時間が必要だったんだって」
そう言って、ミサキさんは少し照れたように笑った。
母との会話
ダイキ「お母さんには、何か言われます?」
ミサキ「実は...この前、初めて母に言ったんです。『もう少し、ゆっくり休ませて』って」
ダイキ「どうでしたか?」
ミサキ「最初は『甘えてる』って言われました。でも...私、ちゃんと説明したんです。『今無理して復帰しても、また倒れる。長く働くために、今は充電が必要なの』って」
ダイキ「すごいですね」
ミサキ「母は黙って聞いてて...最後に『あんたはあんたのペースでいいわ』って。涙声でした」
ミサキさんの目にも、また涙が浮かんだ。でも、今度は違う涙だった。
ミサキ「母も、怖かったんだと思います。私がダメになるのが。だから、厳しくしなきゃって」
これからの話
ダイキ「これから、どうしていきたいですか?」
ミサキ「まずは、あと3ヶ月くらいは、しっかり休むことに集中したいです。焦らないで」
ダイキ「うん」
ミサキ「それで、エネルギーが戻ってきたら...その時に、復職するのか転職するのか、ちゃんと考えたいです。今は、考える余裕もなかったから」
ダイキ「今と比べて、どう変わってると思います? 3ヶ月後」
ミサキ「......朝、自然に目が覚めて、『今日は何しようかな』って思える。そういう自分になってたいです」
ダイキ「素敵ですね」
ミサキ「それと...健康が一番大事だって、本当の意味でわかってる自分。仕事も大事だけど、自分の体と心がなければ何もできないって」
そう言って、ミサキさんは静かに微笑んだ。
「『休む』って、何もしないことじゃなくて、自分を大切にすることなんですね」
その言葉が、静かに部屋に響いた。