新しい自分を、生きていく

新しい自分を、生きていく

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コラム
 うつ病という深い霧の中に迷い込んだとき、私たちは誰もが「元の自分に戻りたい」と切に願います。

 かつてのように軽やかに動き、笑い、仕事に打ち込めていたあの頃へ。

 しかし、治療の道のりを歩む中で、私たちはある一つの静かな事実に突き当たります。
 それは、「うつ病を経験する前の自分に、そのまま戻ることはできない」という現実です。
 一見すると、それは悲観的な諦めのように思えるかもしれません。
 しかし、それは決して絶望の言葉ではないのです。
 うつ病の療養が長期に及ぶと、私たちの心と身体、そして周囲を取り巻く環境は少しずつ変化していきます。
 かつて当たり前だったペースで走れなくなったり、体力の限界が以前より早く訪れたりすることに、戸惑いを覚えることもあるでしょう。
 さらに、常に心のどこかで付きまとってしまう「再発のリスク」は、私たちに無理をすることを禁じる、小さくも厳しい警告灯のようでもあります。
 こうした変化やリスクを抱えたまま、以前と「全く同じ」生き方をしようとすれば、心は再び悲鳴を上げてしまうに違いありません。
 元に戻るのではなく、この病と共に「どう生きていくか」。それこそが、うつ病が私たちに投げかける本当の問いかけなのだと感じます。

 うつ病を経験したということは、傷を負ったということであると同時に、自分の限界を知り、他人の痛みに寄り添う優しさを手に入れたということでもあります。
 長期の療養は、これまでの「無理を重ねる生き方」を立ち止まって見直し、自分を大切にするための尊い猶予期間だったのかもしれません。
 過去の自分に固執するのをやめ、病を抱えた今の自分をありのままに受け入れる。
 そして、再発のリスクを恐れるのではなく、自分の心のサインに耳を傾ける「新しい付き合い方」を覚えていく。
 それは、元の場所へ引き返すことではなく、傷を抱えたまま新しい一歩を前に踏み出すという、とても勇敢な生き方の変化です。

 うつ病前の自分には戻れない。けれど、それは「これからの自分」を新しく築いていけるということでもあります。霧が晴れた後に広がる新しい景色の中で、自分に優しい歩幅で、ゆっくりと歩みを進めていければ素敵ですね。

                          沙門蒼俊   合掌
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