薬師如来の薬壺が教えてくれること

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コラム
 書店に足を運ぶと、「薬を飲まなくてもうつは治る」「その薬は毒である」といった刺激的な見出しの本を目にすることがあります。
 軽度なうつ症状や適応障害、自律神経失調症に悩む方にとって、こうした言葉は一見、救いのように思えるかもしれません。
 しかし、実際の闘病という厳しい現実から見れば、これらは少し偏った見方のように感じられてなりません。

 たとえば、皆様は「風邪を引きそうだ、悪寒がする」と感じたとき、どうなさるでしょうか。
 多くの方は、これ以上悪化させないための予防という意味も含めて、風邪薬を飲み、温かくしてしっかりと休養を取るはずです。
 それなのに、なぜうつ病になると「薬に頼ってはいけない」と頑なになってしまうのでしょうか。

 たしかに、向精神薬に対して「依存してしまうのではないか」「副作用が怖い」というイメージを抱く気持ちはよく分かります。
 しかし、それは一世代前の古いお薬の話です。現代の主流である抗うつ薬(SSRIなど)は、適切な服用を守れば、かつてのような強い副作用に苦しむことは少なくなっています。
 むしろ、今や医学の世界では、薬が心身をもたらす良好な効果について、疑いようのないほど多くの確かな証拠(エビデンス)が発表されています。
 これに対して、薬を一切拒み、自然治癒や民間療法だけに頼ることに、それ以上の確かな根拠があるでしょうか。
 私は仏教の僧侶です。日々の中で迷いや不安が生じたとき、私は薬師如来様に向かって「このお薬をいただいても、本当に大丈夫でしょうか」と静かに心の中で自問し、反芻することがあります。
 すると不思議なことに、薬師如来様が左手に持たれた「薬壺(やっこ)」の中から、いま現代の抗うつ薬がそっと現れ、「これを飲んで、ゆっくり休みなさい」と優しく語りかけてくださるような、そんな温かな経験を何度もいたしました。
 仏の智慧は、時代を超えて現代の医学の中にも息づいているのだと、私は信じています。
 「絶対に薬を飲みたくない」と自力での解決に固執してしまうと、結果として脳がさらに疲弊し、症状を重くしてしまう恐れがあります。
 適切なタイミングで治療を受けなければ、苦しい期間はただ長引き、休職や休学からの社会復帰をさらに難しくさせてしまうというリスクを孕んでいるのです。

 大切なのは、「薬を飲まないこと」そのものではありません。うつ病に向き合う根本的な目的は、あくまで「心と体の健やかな状態を取り戻すこと」にあります。

 うつ病や適応障害、自律神経失調症は、完全にこじらせてしまってからでは、回復にそれだけ多くの時間を要します。
 ですから、どうか過度な抵抗感や拒否反応でご自身を縛らないでください。

 本の言葉を鵜呑みにせず、まずは専門医の先生に「なるべくお薬は最小限にしたい」「他の選択肢も一緒に考えたい」と、率直な思いを相談してみてはいかがでしょうか。
 医師の指示のもとで適切にお薬をいただき、安心してしっかりと心身を休めること。それこそが、暗闇から抜け出すための最も確かな近道なのだと、私は優しくお伝えしたいのです。

                         沙門蒼俊  合掌
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