【何がしたいか考えてる?】

記事
コラム
 私は、「相棒」を本放送・再放送ともに
 必ず視聴しているが、好きなエピソード
 もあれば、嫌いなエピソードも勿論ある。
 SEASON12の第5話「エントリー
 シート」は、大嫌いなエピソードの一つ。
 理由は、殺された被害者(就職活動中の
 女子大生)に全く共感ができないからだ。
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 被害者は、一流企業(第一志望は「四菱
 商事」)に入るため就活塾に通い、講師
 の言う「就活において身につけなければ
 いけない3つのスキル」である、テスト、
 エントリーシート、面接(特に、これが
 重要だそうだ)の対策として、一年生の
 時から、学生国際フォーラムの立ち上げ、
 文化祭の実行委員、企業のインターンや
 アルバイト等々、様々な活動に取り組み、
 講師のアドバイスに従い、複数の企業に
 提出するエントリーシートに、それぞれ
 で違った点をアピールし、面接で「学生
 生活で何に打ち込み、そこから得たもの
 は何か?」という質問に対しても同様の
 対応をしていた。その結果、第一志望を 
 受ける前に、「滑り止めと面接の練習を
 兼ねて受けた、入る気のない会社」から
 いくつも内定をもらい、その会社が第一
 志望でありながら落ちた友達を「入る気
 がないなら、最初から受けないで!」と
 怒らせている。何と、その友達に彼女は、
 「あなたが内定もらえてないのは、この
 三年間何も(自分が就活塾に通ってまで
 してきた様々な活動等の「就職対策」を)
 してこなかったからじゃないの?!」と
 侮蔑するような酷い言葉を浴びせるのだ。
 また、内定を辞退するためにその会社を
 訪れた彼女は、「面接でうちが第一志望
 だと言ってたよね?お前一人採るために、
 こっちは、一体どれだけの費用と手間が
 かかってると思ってるんだ!」と怒った
 採用担当者にリクルートスーツに珈琲を
 ぶっかけられる。やり過ぎだが、そんな
 乱暴をする相手の気持ちも理解はできる。
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 ここでは、友達を思いやったり、相手の
 迷惑を考える気持ちのなさ(そもそもは、
 「滑り止めと面接の練習を兼ねて」入る
 気もないのに内定だけもらうという行為
 自体、相手企業に失礼ではないかと私は
 思う)、ただ一流企業に入るためだけに
 突き進む、本当に好感の持てない女性だ。
 甚だしいのは、カフェでバイトしながら 
 劇団の活動を続けている彼氏に、余裕の
 なさを見透かされ「必死過ぎじゃない?」
 と言われるや、「スタートラインにすら
 立っていない人にそんなこと言われたく
 ない」と言い返し、その場で別れている。
 就職活動でナーバスになっている彼女に
 「公演観に来てね」と言うのもどうかと
 思うが、この彼氏は、役者という自分が
 進みたい道を既に歩んでおり、バイトで
 生計も立てている。スタートラインにも
 立っていないどころか、とっくに自分の
 先を行っていることに気づかなかったか。
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 学生国際フォーラムの立ち上げ、文化祭
 の実行委員、企業のインターンその他の
 様々な活動に一年生の時から取り組んで
 きたのは、あくまでも就職対策であって、
 本人の純粋な気持からではない。就職に
 利用するためだ。また、ドラマでは何が
 したくて四菱商事に入りたいのか、何を
 目指しているのかが描かれていなかった
 ので、どうしても、ただ一流企業という
 ステイタスを求めているだけだと思える。
 結局、ある理由で、この四菱商事の面接
 を受けた直後、四菱商事の採用担当者に
 よって転落死させられてしまうのである。
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 こんな彼女が、たった一つだけ、海外の
 文通相手のために純粋な気持ちからその
 国で井戸掘りのボランティアに参加した
 ことがあった。実は、就活塾の講師には、
 「四菱商事の社長はボランティアに熱心
 だから、その話を面接でするといい」と
 アドバイスされていたのだが、自分自身、
 純粋な気持ちでやったことを他の活動と
 同様に面接で話してしまうとその純粋さ
 が失われるのではないかという葛藤から
 面接ではボランティアの話はしなかった。
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 これを、杉下右京は「根本的に間違って
 いた」と指摘する。「就職がその人間を
 見極めるものであれば、純粋に行なった
 その行動こそ、堂々と話すべきだったん
 じゃありませんかね。その姿こそが彼女
 そのものなのですから」と。その通りだ。
 私が考える彼女の「根本的な間違い」は、
 自身の純粋性で就活に臨まなかったこと。
 就活塾での学びに基く数々の経験は就職
 に利用するためだけのもの。謂わば虚飾
 の自分を本来の自分と履き違えて企業に
 アピールしているのに過ぎない。自分が
 どんな人間かということをアピールする
 必要があり、企業側もそれを知りたがる。
 ならば、海外の文通相手のために純粋な
 気持ちで井戸掘りのボランティアをした
 その経験こそが、自分がどんな人間かを
 伝えるに相応しい。エントリーシートも
 面接も全てこの話で統一すべきだったの
 ではないかとすら思えてくる。純粋さが
 失われるのではという葛藤があってこの
 話を面接でできなかったのは、ここまで、
 単に就職活動対策としてしか他の経験を
 積んでこなかったこと、純粋な気持ちで
 物事に取り組んでこなかったことに対し、
 後ろめたい思いもあったのかも知れない。
 いずれにせよ、一流企業への就職に拘り、
 友達を侮蔑し、内定を断った企業に迷惑
 をかけ、彼氏の生き方を否定するような
 彼女に私が共感できるところは全くない。
 こういう人にはカウンセリングは難しい。
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 ドラマでは語られていなかったが、何の
 ために彼女が一流企業就職に拘ったのか、
 そこで何がしたいのか、それがはっきり
 分かっていれば、もう少し違った視点で
 彼女を捉えられたかも知れない。自分が
 何をしたいか、何のために生きたいかで
 人それぞれ進む道は違ってくる。そこに、
 一流企業だの、スタートラインに立つの
 立たないの、そんなことは全く関係ない。
 そのことに彼女が気づいてさえいたなら、
 また違った選択肢があったのではないか。
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 駄文の御閲覧、心より感謝申し上げます。
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