―一番子どもに寄り添っている人ほど、学校交渉から離れていい―
不登校の対応で、家庭が疲弊してしまう大きな原因の一つに、学校とのやり取りがあります。
欠席連絡。
プリントの受け取り。
面談の日程調整。
行事への参加確認。
担任からの電話。
「少しでも登校できませんか」という声かけ。
一つひとつは小さなことに見えるかもしれません。
しかし、不登校の家庭にとって、学校との連絡は想像以上に重いものです。
特に、毎日子どもと向き合っている親にとっては、学校からの一言が深く刺さることがあります。
「学校に来るように、家庭でも声をかけてください」
「修学旅行には誘ってもいいですか」
「少しだけでも登校できませんか」
学校側にも悪意があるわけではありません。
子どもを心配している。
学校とのつながりを切らないようにしたい。
復帰のきっかけを作りたい。
そういう思いがあるのだと思います。
けれど、子どもと一対一で向き合っている親からすると、その言葉がとても苦しく感じられることがあります。
こちらは毎日、子どもの不安定さを見ている。
朝になると体が動かない姿を見ている。
学校の話をしただけで表情が曇る姿を見ている。
眠れない日、泣く日、怒る日、部屋から出られない日を見ている。
その状態を知っているからこそ、学校から「登校を促してください」と言われると、親の心は揺れます。
「そんな簡単な状態ではない」
「この子がどれだけ苦しんでいるか分かっているのか」
「ここまで追い詰めたのは、学校にも原因があるのではないか」
そう感じてしまうこともあります。
すると、学校との話し合いはどうしても感情的になりやすくなります。
これは、親が未熟だからではありません。
子どもを守ろうとしているからです。
子どもに近い人ほど、冷静でい続けることは難しいのです。
だから私は、不登校対応では、家庭の中で役割を分けることが大切だと思っています。
一つは、子ども担当。
もう一つは、学校への連絡係です。
子ども担当は、子どもと向き合う時間が長い人が担うのが自然です。
たとえば、お母さんが日中ずっと子どもと一緒にいるなら、お母さんは子どもの気持ちを受け止める役割に集中する。
一方で、学校との連絡や交渉は、お父さんが担う。
あるいは、祖父母や親族に連絡係をお願いする方法もあります。
もちろん、家庭の形はそれぞれです。
母親が連絡係でもいいし、父親が子ども担当でもいい。
大切なのは、性別ではありません。
子どもと長時間向き合っている人が、学校との交渉まで一人で抱え込まないことです。
学校との交渉には、ある程度ドライさが必要です。
学校には学校のルールがあります。
先生には先生の事情があります。
家庭には家庭の事情があります。
その間に立って、欠席連絡の方法、プリントの扱い、行事への参加、登校刺激をかけるかどうかなどを調整していく必要があります。
たとえば、学校から、
「修学旅行に誘ってもいいですか」
と聞かれたとします。
子ども担当の親は、そこで強く反応してしまうかもしれません。
「今、この子にそんな話をしたら、どれだけ苦しむか分からないのですか」
そう言いたくなることもあるでしょう。
けれど、連絡係が少し距離を置いて対応できれば、
「現在は学校に行ける状態ではありません。本人の負担が大きいため、今は登校や参加を促す声かけは控えてください」
と冷静に伝えることができます。
この差は大きいです。
学校と対立するためではありません。
むしろ、無用な対立を避けるために、役割分担が必要なのです。
また、担任との相性がよくない場合でも、別の家族と学年主任なら話しやすいことがあります。
母親と担任では感情的になってしまうけれど、父親と学年主任なら冷静に話が進む。
祖父母が間に入ることで、学校側も少し落ち着いて聞いてくれる。
そういうこともあります。
不登校対応では、親が一人で全部を抱えるほど、家庭は苦しくなります。
子どもの気持ちを受け止める。
学校と交渉する。
仕事を調整する。
家事をする。
きょうだいを見る。
将来を考える。
これを一人で全部やろうとすれば、親が先に倒れてしまいます。
だから、分けていいのです。
子どものそばにいる人。
学校と連絡を取る人。
情報を整理する人。
仕事や生活を支える人。
家庭の中で役割を分けることは、冷たいことではありません。
むしろ、子どもを守るために必要な工夫です。
一番子どもに寄り添っている人ほど、学校交渉から少し離れていい。
一番子どもの苦しさを見ている人ほど、学校とのやり取りを誰かに任せていい。
不登校支援は、親の根性で乗り切るものではありません。
家庭の中にチームを作ること。
学校との間に少し距離を置ける人を立てること。
子ども担当と連絡係を分けること。
それだけで、親の負担は大きく変わります。
そして親の負担が軽くなると、子どもにも余白が生まれます。
不登校の子に必要なのは、責められない家庭です。
安心して休める空気です。
その空気を守るためにも、学校への連絡は、できるだけ冷静に、淡々と、家庭の誰かが分担して担えばいいのです。
親が一人で抱え込まないこと。
それは、子どもを見捨てることではありません。
子どもを守るために、家族全体で支えるということなのだと思います。