「人参いかがっすかー」
「……え?」
「人参、いかがっすか?」
「そんないい笑顔で言われても。いらないですし」
「こんな炎天下の歩道で出会ったのも何かの縁でしょう? 買って」
「いい笑顔でそんなこと言われても……。邪魔なんでどいてもらっていいですか?」
「そんな切ないこと言わないでくださいよ。ほら、いっぱいありますから一箱くらいどうですか?」
「なんでそんないっぱいあるんだよ。いらないって」
「実は間違えて発注してしまって。それで路上販売をしてるんですよ」
「人参だけか」
「人参だけです」
「惜しいなぁ。じゃがいもと玉ねぎあればカレーにして店頭販売とかできたんだろうけどなー」
「あ、どっちもありますよ?」
「え?」
「今持ってきてるのは人参だけなんですけど、じゃがいもと玉ねぎもあります」
「……まさか肉は」
「鶏肉が、あります」
「……てことはカレー粉も」
「あります」
「お前ホント何してんだよ! 俺サラリーマンだけどそのレベルの誤発注とかありえなくない?」
「いやぁ、120連勤で頭パーになってたんで」
「うわぁ……それはご苦労様です」
「毎日毎日僕らはカレーを作り続けてまして」
「その流れで、ですか。それはもうほんとに……」
「1ケースのところで100ケース頼んでしまいまして」
「それはさすがに問屋が止めるところじゃねえか」
「3度『間違いじゃない?』って電話と、2回メールが来ました。が、私休憩時間無いんで」
「ァー……それはー……ねー……」
「頭がバグると人間って不思議な行動しだすんですね。勉強になりました」
「あぁー。うん。お疲れ様です」
「で、どうっすか。一箱ずつ」
「いらないっす」
「倒れてから復帰したその日、店の前にうずたかく積まれた段ボールの箱を見ても倒れなかった私に免じて、一つ」
「いや、ほんとすごいとおもいますけど私、仕事中ですし。今はお昼休憩に出てきただけですし」
「なんなら会社の皆さんと一緒にどうですか?」
「すごい圧が強いー」
「問屋さんも頑張って集めてくださいまして。えぇ。農家さんが泣いて喜んだ品質の良い素材たちです。どうですか」
「農家さんはねぇー……ねぇー……」
「私たちは農家さんを救いました。ここで一つ私を救っちゃくれませんかね?」
「と言われても。いやホント、そういわれてもですね」
「ちなみにカレー粉もいい奴使ってます」
「じゃあもう仕込めばよかったんじゃね? カレー。そしたら少し安めにして大量に売ったら多少儲けになるんじゃ……」
「あぁ、カレーはあっちで販売してます」
「向かいの道路でやってんのね。あー、すごいね。もう寸胴ごと持ってきてんのね。ヤケクソだね」
「そーですね」
「でも人参だけってのは要らないな。あっちのカレー買ってくるよ」
「ありがとーございまーす」
「……ん? なんか……違和感が……?」
「本当に助かりまぁーす!」
「まぁいっか」
「ちなみにカツカレーも出来ます。大盛り無料でーす!」
「そっか。見てくるよ」
「はいありがとーございまーす。……行ったか。はぁー。100ケースは盛りすぎたな。まぁ違いはねぇ。あ、そこのお兄さん、人参いりませんか?」