10円玉を握りしめて

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コラム
またまた昔々のお話

若いころ高齢者施設に勤めていた頃の話

私が配属されていた棟は、軽度の認知症の方が殆どでした。新設の施設だった事もあり、始めて施設を利用する方が殆どでした。

入所されて初めは、皆さんそれぞれ不安もありつつも、仲良しなお仲間を作られたり、職員の声掛けもあり少しずつ環境に慣れていかれます。

でもやはり、家に帰りたくなる方も数少ない訳でもなく...
日を増すごとに、その気持ちが大きくなって行って不穏になられる方もいらっしゃいます。

そうだよね...誰だって、どんなに綺麗な施設より自分のお家が一番だよね
職員の声掛けだけでは、どうしようもない事もある。

そんな中、一人の帰宅願望のマックスになられた、おばあちゃまがいらっしゃいました。

息子さんにもらった、たくさん十円玉を、がま口に入れて日に何度も詰所のカウンターに置かれた公衆電話から息子さんに電話をされます。

職員はあらかじめ息子さんから「母が電話をしたい時は、いつでも電話させてもらって構いません」と言われて居た為、職員は止めもしません。

毎日、毎日...昼夜問わず息子さんに電話・・・

1カ月も経たずに息子さんから
「ちょっと、困りますし、参ってます...職員さんは看て下さってないんですか?」
と言われましたと...

それからは、なるべく職員も電話をされようとしていたら止めるようになります。
そうすると、泣き出して不穏になられる、おばあちゃま。

30名入所されてる中で限られた人数のスタッフ。ましてや夜間は一人に。

そこで私が夜勤の日、勤務に入る前に婦長に呼ばれ
「今日ちょっとどうにか電話止めてみて」
と無理難題を仰せつかり...

うー--ん・・・どうやって止めようかなと考えながら勤務に入りました

遅出さんも帰り消灯し・・・皆様が不穏タイムに突入する時間帯がやってきます。

はい。きました

十円玉を握りしめて歩いてくる足音・・・

メモ紙に 故障中 と大きく書き公衆電話に張り付けてみました

紙を張り付ける所を間一髪、見られずに済みました

何事も無かった素振りで詰所で記録をしているフリをする私・・・

「ありゃー--」と背中越しに聞こえます

振り返り
「そうなんですよ・・・故障中で・・・なにかお急ぎの用事がありますか?」
と言いながら熱いお茶を入れて座って頂き、私も横に座ります

「うん...いつ家に帰られるやろかと思って...息子に電話ばね」
と泣き出すおばあちゃま

「そうですね・・・いつでしょう。明日リハビリの先生に聞いてみましょうね」

「先生が帰ってよかって言わしたらよかとね?」

「うーん。そうだと思いますよ。だって、ここでリハビリして元気にならないとお家で過ごせないでしょう・・・」

「そげなこつね」

「そげなこつです」

「私、明日聞いてみますから」

「その時、ウチも連れていたーて。先生のとこに。ばってん、明日アンタ朝帰るとやろうもん?」

「じゃあ...ご一緒に先生の所に行って、先生とお話をしてから帰るから大丈夫ですよ」

ずずっ・・・二人で一緒に熱いお茶をすすり...

少し気持ちが落ち着かれてから、お部屋へ一緒に戻り

その夜は無事、電話を止めるというミッションをクリアした私

そんな一人の方に寄り添うと、そのあとは。。。バタバタバタバタ...
とおむつ替え、トイレ誘導、他の方の対応、夜勤の業務・・・

そんな介護現場。だからみんな、誰かがスタッフを呼び止めても
「ちょっと待ってねー」と立ち止まれない。

朝の申し送りを済ませ、リハビリの先生のもとへ・・・

先生は...察して下さり
「あとは自分が話すから帰っていいよ」

「はー--い。でわでわ宜しく何卒宜しくお願い致しますー」

おばあちゃまも、電話の事は忘れ笑顔で見送って下さいました

夜勤明けでナチュラルハイな私はスキップしながら帰宅しました

それからは帰宅願望の訴え先がリハの先生には、なったものの
先生は上手に対応して下さるし、ご本人はリハビリを頑張って頂けるし
結果オーライでした。

だけどさ切ないね。誰だって、やっぱりお家が一番だもんね。

私たち職員は、どんなに寄り添っても上手に対応しても家族にはなれない

って少し切ないお話でした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
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