医師の働き方改革は慎重に!

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医師の働き方改革が進んでいます。2024年4月からは、医師の時間外労働の上限規制が適用され、それを超過した医療機関には、ペナルティなどもあります。私は研究者でも無く、かつては病院の事務長であり、その立場から非常に不安を持ちながらこの経過を見ています。

不安な理由は、医師の労働時間が勤務している病院における労働時間だけで無く、副業や兼務先の労働時間まで合計した時間であるという点です。医師の健康上の問題というのであれば、当然必要なことだと思っています。しかしながら、多くの病院は他の病院からの医師の派遣などで、医療法上の医師の必要人数を満たしています。この派遣が無くなれば医療法上の必要人数を満たせず、違反ということになります。

医療法上の医師の必要人数は病院によって異なります。外来は診療科によって患者数の考え方が違いますが、病院による違いはありません。医療法上の病棟種別は、療養病床と一般病床の2つです。療養病床は患者48人に1人の医師が必要です。一般病床は16人に1人の医師が必要です。細かい話は置いておいて、入院患者が1日100人いる療養病床では2人の常勤医師、入院患者が100人いる一般病床では6人の医師が必要となります。

病院では医療法の規定により、24時間医師が待機していなければなりません。すると療養病床では、この2人で週7日の当直と日曜・祝日の勤務をしなければなりません。これは不可能です。どうしても外部から応援をもらう必要があります。一般病床の6人も同じです。また、ここでマジックがあります。この必要となる療養病床の必要医師数2人、一般病床の必要医師数6人にしても、常勤+非常勤の常勤換算数なので、常勤医師だけで言いますとその数に満たないところも決して珍しくありません。むしろ、当直16時間のアルバイトで8時間の医師勤務時間として計算することが可能で、週4回の当直のアルバイト依頼で、常勤医師1人に相当します。実は医師の少ない病院はこのようにして必要医師数を確保しています。

更に、この週32時間を計算式で使うためには、就業規則において医師の常勤としての週勤務時間を32時間にしておく必要があり、少なくない医療機関が就業規則を変更したりしています。平成22年の保健所の病院立ち入り調査の結果では、上記のような工夫をしていても、全国の立ち入り調査病院数、8,195件、適合施設数、7,520件、適合施設立91.8%、1割近い病院が医師の不足となっています。

こんな状況で、医師の副業や兼業を規制すると、更に医療法上医師が足りなく病院が不足することになります。

この働き方改革を実施するとどうなるかという影響度調査の結果が、この6月に報告されました。その結果の一部を紹介しますが次のとおりです。
1) 医療提供体制への影響の把握に関する取り組みを行っていると回答した都
 道府県は6つ。40都道府県において、小児・周産期・救急医療体制への影響
 が把握出来ていなかった。
2) 8,193の調査対象病院で回答のあったのは、3,613病院。副業・兼業先も
  含めた労働時間を概ね把握している病院は、1,399病院(17.1%)。

上記が大きなポイントだと思っていますが、2024年開始予定に対して、余りにも実態が把握されていないこと。また、私が上記で書いた医師数が医療法上満たない病院の実態、医師の少ない病院の当直や日直を誰がカバーするのかなどが全く触れられていません。まずこれが根本的な問題だと思っています。

もちろん、医師の副業・兼業が規制されると、診療応援が無くなり、診療体制の縮小、救急受入れの縮小も当然発生してきます。まず、ここも平行して解決しなくてはいけないのに、医師の労働時間だけがテーブルに乗っているというふうにしか見えません。

更に言えば、医師の年収は確実に下がります。外来診療1回の単価は34,000円~60,000円、仮に40,000円とすると月160,000円、年間で1,920,000円。当直は1回40,000円~100,000円。実は自院でするより外部で当直する方が高い傾向にあるのですが、仮に週1回60,000円だと月に240,000円、年間で2,880,000円。回数が半分でも1,440,000円。いずれも収入が下がります。このアルバイト料が生活給になっている医師や、これを前提とした将来設計をされている医師にとっては大変です。また、病院の収入も当然減りますし、地域でこれまで果たして来た役割も果たせなくなるかも知れません。

医師の数を増やす事なく、こんな働き方改革はあり得ないはずです。もちろん医師を増やさなくても、医師の業務軽減をする方法もありますが、それに縛りを掛けているのも今の医療行政だと思います。多くの国民の方がこの実態を知る必要があります。
(トップ画像はCanvaの画像を加工)
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