「前の会社では、そういうの得意だったよね」
久しぶりに会った前職の同僚に、そう言われた。
近況を話しているうちに、昔一緒に担当した仕事の話になった。
関係者が多くて、話がなかなかまとまらなかった案件。
締切が近づく中で、誰が何を持っているのかを整理して、抜けているところを一つずつ埋めていった。
「あのとき、あなたが入ると話が整理されて助かったんだよね」
同僚は、たぶん深い意味もなくそう言った。
「そんなことあったね」
笑って返したけれど、少しだけ変な感じがした。
褒められているはずなのに、素直にうれしいと思えない。
それは、今の自分のことを言われている気がしなかったからだ。
前の会社では、確かにそういう仕事をしていた。
会議で意見が散らかっていたら、何が決まっていて、何がまだ決まっていないのかを書き出す。
誰かが困っていそうなら声をかける。
仕事が止まりそうなら、その前に必要な人へ確認する。
当時は、それを「自分の強み」だと思ったことはなかった。
仕事を進めるために必要だからやっていただけだった。
でも、今の職場では、同じように動けている感覚があまりない。
時短で帰る時間が決まっている。
まだ新しい職場で、分からないことも多い。
急な休みが入ることもある。
まずは自分の担当を終わらせることで精いっぱいになる日もある。
以前なら自然に周囲まで見ていたのに、今はそこまで手が回らない。
だから、前職の同僚が話している「あなた」が、少し昔の人のように聞こえた。
あの頃の私は、できていた。
今の私は、できていない。
そう考えると、昔の自分から何かを失ってしまったような気がした。
帰りの電車で、さっきの言葉を思い出す。
「得意だったよね」
だった。
「得意だよね」ではなかった。
もちろん、昔の職場の話をしていたのだから、過去形になるのは当たり前だ。
それでも、その言葉が妙に残った。
環境が変わると、できることも変わる。
使える時間も違う。
一緒に働く人も違う。
任される役割も違う。
そう考えれば、以前と同じように動けないのは不思議ではない。
それでも私たちは、今できていないことを見ると、「もう自分にはその力がない」と考えてしまうことがある。
でも、今の環境で使えていないことと、その力そのものが自分からなくなったことは、本当に同じなのでしょうか。
前の会社で、なぜ自然にできていたのか。
どんな場面でその力が出ていたのか。
誰と働いているときに、自分らしく動けていたのか。
そこまで振り返ってみると、「昔はできた」で終わらないものが見えてくるのかもしれません。
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