これは私が塾に勤め始めたばかりの頃の話。
算数を担当していた小4のクラスに、無表情で全く話さない女子生徒Aがいた。
話しかけても笑わそうとしても、首を上下左右に動かすだけで、YESかNOを表すのみ。
いつもおばあちゃんが送り迎えをしていて、両親とも耳が聞こえないということだった。
その子を含めて2名のみの小さなクラス。
もう一人の生徒Bは
「だから先生ぇ!Aちゃんはしゃべんないって!」
とよくしゃべる。
Aはノートではなく便箋の冊子を使っていた。
めくると徐々に前のページが取れてくる。
ページが取れそうになるたび、私はセロテープを貼り、はみ出したテープをハサミで切る。
「切る時に『えい』って言うよ。
ちょっと大きめの声になるよ」
そう言うと毎回AもBも耳をふさぐ。
Aは顔をややこわばらせて、Bは楽しそうに。
「えい!」
これが授業が終わった後の恒例の儀式のようになっていた。
Aの表情は硬いままだが、こわばりは消え、そのゲームをどこか楽しみ始めているように感じた。
ある日、
「今回はだいぶテープがはみ出たので、
いつもより大きな『えい』になってしまう。
気をつけて」
と言う。
「えー!待って待って!」
とBが嬉々として耳を塞ぐ。
Aは椅子に座ったまま耳を塞いでのけぞる。
私はセロテープにハサミの刃を当てる。
沈黙。
Aは顔を赤らめてこちらを見ている。
「えええい!」
他の教室まで響きわたるような声を出してテープを切った。
Aは堰を切ったように声を出して笑い始めた。
初めて聞いたAの声。
咳き込みながら、笑い慣れてないようなAの笑い。
Bもあっけに取られて見ていた。
以来、AはBよりもよく喋る子になった。
うるさいほどに。
後日おばあちゃんからこう聞いた。
「学校の先生も驚かれて、何があったのかと聞かれました」
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もう三十年近く前の話です。
いろんなことに気付かされた、
私にとって一種の原風景のようなエピソードです。
これまでの人生を振り返ると、私が好きだったのは、
物語を共有し、一つのことに共感する時間でした。
日常の些細なこと。子育てのこと。
受験のこと。
恋愛のこと。
人間関係のこと。人生のこと。
あるいは、
ただ話したいだけでも大丈夫です。
ゆるく肩の力を抜いて、
少し笑って、一期一会。
そしてまた、話したくなったら、その時に。
・何を話したいのか、まとまっていなくても大丈夫です。「誰かと話したい」というお気持ちだけでも歓迎します。
・私はカウンセラーや医師ではありません。診断や専門的な助言を行うサービスではなく、一緒に考えながら気持ちを整理する時間をご提供しています。
・秘密は厳守いたします。ただし、ご自身や他者の生命・身体に差し迫った危険がある内容や、違法行為に関するご相談には対応できません。
・相性もあると思います。もし「何か違うな」と感じたら、遠慮なく早めに終了していただいて構いません。
・サービス内容について気になることがありましたら、お気軽にメッセージでご相談ください。