サンプルイラスト&お話「星月夜」-幻想喫茶店シリーズ-
夏の喧噪がじわじわと収まり、やがて季節は秋へと移っていく。コントラストの強い青空も、ゆっくりと疲れを癒すかの如き柔らかな色合いへと変化しているのに気付いた。空と言えば、夜の空もじんわりと姿を変えていく。さざめく星々の精霊の声も、年に一度行われる星祭りが終わった辺りからは静かなもんだ。「いらっしゃいませ、こんばんは。ようやく暑さも収まってきて少しずつ過ごしやすくなって参りましたね」笑顔でマスターが迎えてくれた。仕事で隣の郷(くに)まで、商売道具の修理を依頼してきた帰りだ。出発したのは明け方だったってぇのに帰ってくるまでに「何時間も掛かっちまった。「マスター、ごめんよ。もう閉店時間じゃないか?」「いえいえ、とんでもございません。お客様が居られる時間が全て営業時間でございますよ」マスターに、クマオオハチのハチミツ入りエール酒と、ココナサのバターサンドを注文してひと息。見あげれば夏の名残りの「夏追い鳥」座が西に傾き始めている。天空にその星座が輝く時間帯を考え、今はもう夜中近いのかと気付いた。また明日、あの郷まで修理が終わった道具を届けに行くのかと思うと、ぐったりするな…。「お待たせしました」おっ、待ってました♪と顔を向けるとエール酒と一緒に、見たことのない食べ物が出されていた。「あれ?これ…俺、注文して…」「いえいえ、お客様。たいそうお疲れのご様子でしたので、口当たりの良い物の方がよろしいかなと思いまして。無論、私のおごりですから遠慮なさらずに」時折、ここのマスターは注文したものを出さずに新作を提供してくれる。有り難いような…微妙に残念なような。でも、そうやって添えて出されるものは毎回
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