絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

2 件中 1 - 2 件表示
カバー画像

次は、どんな顔で会うんだろう

改札を抜けたあと、凪は一度だけ振り返りそうになって、やめた。もう、見なくても分かっている。悠真は、あの場所に立ったまま、少し遅れて歩き出すはずだから。ホームへ向かう階段を下りながら、胸の奥が、静かに忙しい。——楽しかった。——また、会う。言葉にすると簡単なのに、現実になると、こんなにも余韻が残る。電車が来るまでの数分。スマホを取り出しても、画面は見ない。代わりに、さっきの視線を思い出す。触れなかった距離。でも、確かに縮まっていた距離。悠真は、「また誘ってもいい?」と聞いた。凪は、「待ってる」と答えた。約束じゃない。でも、逃げ道のない言葉。電車が入ってくる音がして、凪はやっと前を向く。——次は、どんな顔で会うんだろう。学校かもしれない。放課後かもしれない。また、あの店かもしれない。確かなのはひとつだけ。今日で、この関係は「何もなかった昨日」には戻れなくなった。電車がホームに滑り込んできて、風が一瞬、凪の髪を揺らした。乗り込む人の流れに身を任せながら、凪はドアの近くに立つ。ガラスに映った自分の顔は、少し前より、やわらいで見えた。——待ってる。さっき言ったその言葉が、胸の奥で、まだ温かい。電車が走り出す。街の灯りが、線になって流れていく。凪はつり革につかまりながら、今日一日の場面を、静かにたどる。橋の上。教室。カフェのテーブル。駅前の別れ。どれも派手じゃない。でも、どれも確かに、「選んだ時間」だった。スマホが、軽く震える。通知ではない。ただ、ポケットの中で動いただけ。それでも凪は、ほんの少しだけ息を止めてから、また自然に呼吸を戻した。——次は、きっと。そう思えることが、もう答えみたい
0
カバー画像

……緊張してる?

カップに口をつけたのは、ほぼ同時だった。湯気の向こうで、二人の動きが少しだけ重なる。凪は、一口飲んでから視線を落とす。思っていたより、甘かった。「……おいしいね」自分から言ったことに、少し驚く。沈黙を壊すつもりはなかったのに、声が、勝手に出た。「うん」悠真は短く答えて、それから少し間を置く。「……緊張してる?」その問いは、責めるでも、探るでもなく、ただ確かめるみたいだった。凪は、一瞬だけ迷ってから、小さく笑う。「……してるかも」正直に言った瞬間、胸の奥が少し軽くなる。悠真は、ほんのわずかに息を吐いた。「俺も」それだけ。理由も、説明もない。でもその一言で、テーブルの上の空気が、少しだけやわらいだ。窓の外では、夕方の色が、ゆっくりと夜に近づいている。凪は思う。派手なことは起きていない。でも今、「同じ時間を選んでいる」という事実だけが、確かにここにある。——これは、始まってる。そう思ってしまった自分を、もう否定しなくていい気がした。カップを置く音が、ほとんど同時に重なった。湯気が薄くなって、二人の間にあった緊張も、少しだけ形を変える。「……ここ、静かだね」凪の声は、思っていたより落ち着いていた。言葉にしてみると、不思議と怖さが薄れる。「うん。騒がしいの、あんまり得意じゃないから」悠真はそう言って、窓の外を見る。夜の色が、ゆっくり街に降りてきている。凪は、その横顔を見てから、視線を戻した。橋の上でも、教室でも、いつも“途中”で止まっていた時間が、今はちゃんと流れている気がした。「……また、来てもいい?」言い終わってから、胸が遅れて跳ねる。“また”と言った自分に気づいて。悠真は少しだけ驚
0
2 件中 1 - 2