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言うの?言わないの?

自転車のベル音が、思ったより遠くで鳴った。それでも、二人の間に落ちた沈黙は、簡単には消えなかった。凪は、橋の欄干の向こうを見つめたまま、息を整える。さっき、ほんの一瞬だけ。悠真が何かを言おうとした気配が、まだ胸の奥に残っている。——言わなかった。それだけなのに、心が追いつかない。「……寒くなってきたな」悠真の声は低くて、いつも通りだった。まるで、何も起きなかったみたいに。凪は小さくうなずく。その動きが、自分でも驚くほど慎重だった。二人は並んで歩き出す。靴底が橋を叩く音が、一定の間隔で続く。距離はさっきと変わらない。近いまま、触れないまま。凪は思う。もしあのとき、ベルが鳴らなかったら。もし、悠真が一歩下がらなかったら。——それでも、たぶん。言葉は、出なかった気がする。悠真は横目で凪を見る。ほんの一瞬だけ。そして、また前を向く。守るみたいに。逃げるみたいに。橋を渡り切ったところで、夕焼けが少しだけ色を変えた。オレンジが、ゆっくりと薄くなる。何事もなかったように、日常は戻ってくる。でも、確かに何かが残った。言葉にならなかった感情だけが、二人の間を、まだ行き来していた。
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飛ばしてみろよ。夢も、こんくらいでいいんだよ

 卒業式の朝、体育館にはまだ人の気配がまばらで、 冷えた空気だけが静かに漂っていた。 三月の光はやわらかいのに、 胸の奥はどこか落ち着かずざわついていた。 「陽太、来ないのかな……」 そうつぶやくと、自分でも驚くほど声が小さく震えていた。 佐伯陽太――二年の春、誰とも話せなかった僕に、 最初に「弁当、交換しねえ?」と笑いかけてきたやつ。  授業中に居眠りして先生に怒られたのに、 「夢の続き見てた」と平然と言うような、不器用で、まっすぐなやつ。 あいつがいなければ、僕は高校を途中で辞めていたかもしれない。 放課後の空き教室。   進路調査票を前に、どうしても「将来の夢」が書けなかった僕は、   俯いて机をにらんでいた。    書けない理由も、言葉にならなかった。   夢なんて、思い浮かべるだけで「笑われそうだ」と怖かったからだ。 そんな僕の 進路調査票を、陽太はふいに丸めて紙飛行機にした。 「飛ばしてみろよ。夢も、こんくらいでいいんだよ」 僕は泣きながら、それを窓から投げた。 紙飛行機は、夕焼けの風にあおられ、校舎の向こうに消えていった。 だが三年の秋だった。   突然、陽太は学校に来なくなった。    詳しい事情は誰も知らなかった。   家庭のことらしい、とだけ聞いた。 僕は怖くて、会いに行けなかった。 「いつでも連絡してこいよ」 その言葉すら、送れなかった。 そして卒業式。 結局、陽太は来なかった。 閉会後、教室に戻ると、   担任の桐原先生がひとりで窓辺に立っていた。   先生は僕にだけ、小さな封筒を渡した。 「佐伯から預かっている。お前に渡してくれってさ。」 僕は息をのん
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