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俺、変わったかもな

放課後の教室には、夕陽の光が斜めに差し込んでいた。黒板のチョークの粉が、金色にきらめいている。教室の隅で、健人(けんと)は小さくため息をついた。「…やっぱり、俺、変われないのかな」ノートには、何度も書いては消した「変わる」という言葉。彼はずっと、自分を変えたかった。だけど、何冊も本を読んで、何度も決意しても、気がつけばまた、同じ日々に戻っている。それが、苦しかった。そのとき、隣の席から声がした。「ねえ、健人。『変われない』って、 どういうこと?」振り向くと、同じクラスの咲がいた。彼女は真っ直ぐに健人を見つめながら、机の上のノートを覗き込んだ。「私もずっと、そう思ってたんだ。 でもね、“変わる”っていうのは、 一瞬で誰かになることじゃないんだよ」咲は、ペンをくるくる回しながら笑った。「たとえば…今日1回だけでも、 “新しいこと”をやったら、 もう昨日とは違う自分なんだって。先生が言ってた」健人は顔を上げた。「先生って…心崎先生?」「うん、“自分を変えたいなら、 環境の力を使いなさい”って。 一人でがんばらなくていいって言ってた」その日から、健人と咲は放課後に教室に残って、「小さなチャレンジノート」をつけるようになった。“今日やった、新しいこと”を一行だけ書く。たとえば、「朝、家族に先に『おはよう』と言えた」とか、「電車の中で席を譲った」とか。ほんの小さなこと。だけど、ふたりで書いて、読みあって笑う時間は、なぜか胸の奥をあたためていった。だんだんと、それが日課になり、やらないと落ち着かなくなっていった。いつの間にか、クラスの数人も参加するようになった。誰かがノートを忘れれば、みんな
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早く戻ってこいよ。お前の灯りが必要なんだ

「黒板消さねーと、田中先生の説教が始まるぞ!」「早く誰か消せよ!」休み時間の教室に苛立ち混じりの声が響いた。けれど誰も立ち上がらない。机に突っ伏すやつ、スマホをいじるやつ。空気だけが重く淀んでいく。やっと一人が黒板消しを手に取り、力任せにこすった。次の瞬間、白い粉がふわりと舞い上がり、辺りに広がる。「うわっ、きったねぇーな!ほこりだらけじゃねぇーかよ!」「そんなこと言うならお前がやれよ!」「こっちはボランティアでやってやってんだぞ!有難いと思え!」教室の中に、非難と苛立ちだけがぶつかり合った。そのとき誰かがゴミ箱を見て声をあげた。「おい、ゴミ箱ごみでパンパンじゃねーか!」「誰だよ当番!ちゃんと捨てろよ!」「そうじだって全然できてねーし、床ざらざらじゃん!」ざわざわと声は広がるが、誰も動かない。机や床に残る紙くず、使いっぱなしの雑巾。チョークも短くなったまま補充されていない。窓も開けっ放しで、冷たい風が入り込んでくる。――少し前までは、こんなことなかったのに。ふと誰かがぽつりと言った。「……そういえば、黒板消してたのも、掃除ちゃんとやってたのも、  ゴミ袋取り替えてたのも、チョーク補充してたのも…… 全部、佐伯じゃなかったか?」一瞬、教室が静まり返った。そうだ。思い返せば、確かにそうだった。授業が終われば、佐伯はいつの間にか黒板をきれいにしていた。ゴミ箱がいっぱいになる前に袋を替え、廊下まで持って行っていた。チョークが短くなれば補充し、プリントが足りなければ走って取りに行った。掃除の時間には一番嫌がられるトイレ掃除や窓ふきを黙って担当していた。体育の用具も最後まで残って片づけてい
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舞台は裁判所じゃない

文化祭を目前にした演劇部。演目は「ロミオとジュリエット」。舞台本番まで残された時間はわずかだった。だが、稽古場は緊張感ではなく、重苦しい空気に包まれていた。原因は――演出リーダーの浩平と、主演を務める彩香の対立だった。「ストップ!」浩平が声を張り上げた。「彩香、また勝手に間を伸ばしたな!セリフは台本どおりに言え!」彩香は必死に食い下がる。「でも、この言葉は心を込めなきゃ伝わらない!」「気持ち?心?そんな曖昧なもので舞台は作れない!」「違う!心がなければ、ただの朗読になる!」部室に重い沈黙が落ちた。火種は、確実に炎へと育っていた。翌日も、練習は同じところで止まった。浩平は机を叩き、声を荒らげる。「台本を軽んじるな!何のために作られてると思ってるんだ!」彩香は涙をこらえて叫ぶ。「わたしは、ごまかしてなんかいない!ただ、心を届けたいだけ!」浩平は冷笑した。「“心を込める”って便利な言葉だな。何もできない自分をごまかせる」彩香の顔から血の気が引いた。さらに浩平は畳みかける。「“届けたい”だと?    それはお前の未熟さを隠すための言い訳にしか聞こえない!」部員たちは息をのむ。やがて小さな声がもれた。「浩平の言うこともわかる。舞台は完成度がすべてだ」「でも…彩香先輩の演技を見てると、心が動くんだ!」部室は真っ二つに割れた。互いの視線がぶつかり、空気はさらに重くなる。文化祭まであと数日。彩香がわずかに遅れて稽古場に入ると、浩平が冷たく言い放った。「やる気がないなら、降りろ!」「やめて!」と他の部員が叫ぶ。だがすぐに別の部員が言う。「いや、浩平の言うことも正しい。ここで妥協はできない」仲間同
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