月と土星が接近する夜、悪魔が微笑む理由
今夜は、月と土星が急接近する夜。春人が夜空を仰いだそのとき、心の奥にざわめきが走った。「フフフッ……待ちに待った時が来た! ──ゆくがよい、悪徳裁判官! リングに上がれ! 思うがままに暴れてこい!」悪魔が掛け声を響かせると、スポットライトのような光が闇を切り裂き、押し出されるように悪徳裁判官が現れた。まるでプロレスラーの入場だ。「被告人・春人! 今日も責任を怠り、不安に沈んでいた! よって──有罪!」木槌の音が鳴り響き、冷たい月光と土星の光に重なって胸を打つ。月は心や感情を、土星は試練や制限を象徴する。二つが接近すると、人はふと「足りない」「孤独だ」と感じやすくなる。──そのことを、悪魔は知っているのだ。だからこそ今夜、彼は満面の笑みで、悪徳裁判官を送り込んだのだ。「さあ見届けろ! 被告の弱さを、この裁判官が白日のもとにさらしてくれる!」悪魔が観客席に向けて叫ぶ。春人の心は大きく揺れた。「まただ……。僕は本当に足りないのか……?」裁判官の「有罪!」の声が木槌と共に打ち寄せ、胸を沈めていく。悪魔の囁きが追い打ちをかける。「お前は孤独だ。誰からも必要とされていない」春人はうなだれ、暗闇に引きずり込まれそうになった。そのとき、心の奥にかすかな声が蘇る。──「どんなときでも、ありがとうを探してごらん」ありがとうの賢者の教えだ。春人は必死に思い返す。今日の小さな気遣い。帰り道に見かけた花の色。そして、こうして夜空を見上げられる時間。「……ありがとう」口にした瞬間、胸に小さな灯がともる。春人は気づいた。土星はただ人を縛る存在ではない。感謝と共に向き合うとき、その厳しさは「秩序」や「調和」へ
0