いちばん長く心に残った恋は、いちばん短い恋でした。 【 後編 】

いちばん長く心に残った恋は、いちばん短い恋でした。 【 後編 】

記事
小説
【 前編 】一目惚れ




【 後編 】
☘️夢の終わり


その後の私は、
今まで以上に
頭の中が
彼でいっぱいになった。


お風呂に入れば、
曇った窓ガラスに
彼の名前を書く。


名前を眺めるだけで
ニヤける。


自分の携帯の中に
彼の名前がある。


それだけで
気分が高まった。


彼からメールが届けば
何度も読み返した。


「何してる?」

「おやすみ」


そんな一言まで

もらったメールは
全て保存した。


その中でも特に、
宝物にしていた
メールがある。


「命有限◯◯一人愛続事神誓也」


たしか、
こんな感じだった。


おふざけでも
嬉しかった。


夜中の電話、
眠そうな彼の
「うん」とか、
「ん?」とか、


そんな相槌も全部、
たまらなく好きだった。


耳に録音機能が
搭載されていれば…
と、思った。


恋愛って、
そういうものなのかもしれない。



名前ひとつ、
声ひとつで、
幸せになれてしまう。



その年の冬、


私たちは学校帰りに
映画を観に行った。


初めての、
デートらしい
デートだった。


前日の夜には、
髪型と制服コーデに
悩んだ。


髪は結ぶか、
おろすか...


靴下は紺ハイか、
ルーズソックスか...


放課後、
彼が私の教室に
迎えに来た。


夢にまで見た
シチュエーションだった。


その後、
初めて彼を、
自転車の後ろに乗せて
走った。


『 寒いよ〜 』と、
私のマフラーで
じゃれる彼。


耳元で聞こえる声、
瀕死の私。


映画館までの道のりは
ただただ、
幸せだった。


実は、私は
その映画を
既に観ていた。


内容も結末も
知っていた。


けれど、
それは黙っていた。


なぜなら、
私にとって、
そこは重要ではなかった。


彼が観たいものを
一緒に観たい。


私にとっての
イベントは
映画ではなく、


彼の隣に座ること。


肩が触れそうなほど
近くに居られること。


同じ空間を
感じられること。


それだけだった。


映画が始まる前、
私たちの座席の
横の通路で
誰かが段差につまずいた。


すると彼が
小さな声で、

「だっせぇ」
と笑った。


私は思わず
彼の肩を軽く叩いた。


今思えば
どうでもいい場面だ。


でも、その時の
彼の表情や、
肩に触れた手の感触は
今でもうっすら
覚えている。


恋愛って不思議だ。


あれから
何十年経った今でも
思い出すのは、


何でもないシーンや
会話の断片
だったりする。


それだけ大好き
だったのに、


私はある時、
別れようと
言ってしまった。


理由は本当に
くだらないことだ。


彼は理由だけ聞いて、
引きとめはしなかった。


こうして、
私の恋は終わった。



- - - - - - - - - - -



高校を卒業した数年後、
彼は亡くなった。


友達からの電話で
知らされた。


頭の片隅にあった
彼との思い出が
走馬灯のように
駆け巡った。



高2の夏
廊下で見かけた
金髪の彼


映画の上映中、
私の肩をたたき、
スクリーンを指さして
いたずらに笑う横顔


踏ん反り返って
ポップコーンを食べる姿


早朝4時に電話で
呼び出されたこと


一緒に行った
クセ強な雑貨屋さん


その帰り道にくれた
ブルーベリーの香りがする
小さなろうそく。


本当に
些細なことばかりだ。



恋をすると、
相手のことばかり
覚えていると思っていた。


でも実際、
記憶に濃く残っているのは
その人を好きだった頃の
自分なのかもしれない。


あの時の短い恋が
特別なのは、


全力で彼のことが好きだった
自分がいたからだ。


何気ない一言や仕草に
一喜一憂していた
あの頃の自分も


彼と同じくらい
愛しいと思う。


心に残る恋とは、


どれだけ長い時間
一緒に過ごしたか、
だけではない気がする


短い期間でも、
どれだけ相手に
気持ちが動いたか、
心を使ったか


今でも私の心に残っている
いちばんの恋は、
この、短い恋でした。




おわり


目を通してくださり、
ありがとうございました☘️



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