【ダークファンタジー小説】ある兄妹の記録

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世界観設定:猫間するめ様

ぼくはあの葬儀のことを今でもよく覚えている。教会の中は穏やかな陽の光に満ちていた。ステンドグラスから降り注ぐ光の中に安置された棺の中で安らかに横たわっていたのは、ぼくの妹イオンだった。幼いぼくよりも更に幼かった彼女は、不運にも交通事故に遭いその若い命を落としてしまったのだ。あれだけの事故だった割には棺の中に横たわるイオンは眠っているように綺麗で、今にも目を覚まして欠伸でもするかのように思えたものだ。しかし別れのキスを落とした彼女の白い額は大理石のように冷たく、ぼくはもう取り返しのつかない死別というものを初めて思い知ったのだった。幼馴染のプリムラは泣きじゃくるぼくのそばに、心配そうに寄り添ってくれていた。彼女はぼくに慰めの言葉を掛けてくれてはいたが、それは何の助けにもならなかった。
———その時だった、弔問客がぼくに声を掛けてきたのは。長身の彼は、幼いぼくらに合わせて腰をかがめてくれていた。ぼくらはその風変わりな雰囲気に怯えたものだ。彼はぼくらを宥めるように、奇妙な衣服の懐からキャンディを取り出してぼくらに与えてくれた。そして彼は低音の落ち着いた声で、ぼくらに言い聞かせたのだ。人は死んだら花になること。魂は輪廻の輪に戻ること。つまり、イオンは二度とぼくの元には帰ってこないこと。落胆するぼくに、彼は微笑んだ。ぞっとするような冷たい笑みだったが、後から思えば彼はいつだってその調子だった。そして、こう言い添えた。神様を信じれば、死別した大切な人との再会は叶うこと。神様のおられる場所を尋ねたぼくに、彼はこう言った。

———もっと大きくなったらね。
そして、彼は彼の所属する教団の名前をぼくらに教えてくれたのだ。ぼくはもっと彼と話していたかった。彼は冷たげに見えたがその口調は気さくで、何よりもイオンと再び会うことのできるという話はぼくにとって他の何にも代え難かった。しかし、身を固くしたプリムラがぼくの服の裾を引っ張って離してくれなかったのだ。
「ねぇ、リノン。もう行こうよ」
両手を後ろに回してキャンディを頑として断った彼女は、彼への不信感を隠そうとしなかった。
「知らない人と話しちゃダメって、お父さんからも言われてるでしょ」
半ば無理矢理プリムラに引き摺られるように、ぼくは彼に別れを告げたのだ。彼は薄く微笑んで、胸に手を当ててぼくらを見送っていた。プリムラは彼のことを毛嫌いしていた。人は死んだら花になる。それはこの国の人間なら子供でも知っているような理だ。
「あの人、ちょっとおかしいよ。言ってること気持ち悪いし、アタシは嫌いだな。第一、あの人イオンの知り合いなわけ?」
プリムラの文句を聞き流しながら、ぼくは彼の言葉を胸の内で思い返していた。

———神様を信じれば、死別した大切な人との再会は叶う。

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「そんなこともあったねぇ」
リノンと対面したオメガはコーヒーを口に運んだ。リノンの話を聞いて微笑んだけれども、実際彼の脳裏に遥か昔に執り行われた小さな葬儀の記憶が残っていたかどうかは定かでない。あれから年月を経て、リノンは立派な青年になっていた。ヘリオトロープの大学で医学を修めた後、現在は大学に残り専門の研究を行なっている。リノンは数年前にフェニキア教団の門を叩いた。成長した彼にはその権利が有った。街中にひっそりとある会員制の簡素な教会を見つけるのは簡単だった。この学問の都にも信仰の自由はある。伝統的な祖霊信仰とは異なる新興宗教だったが、無害なものだったのでヘリオトロープの片隅にひっそりと存在を許されていた。教会の中は魂の象徴である鉢植えの生花で満たされ、花弁の甘やかな匂いが香り高く漂っていた。『アリス』と呼ばれる少女の彫像が鎮座しており、天使の如く崇められていた。この教会の担当司祭であるオメガは、以前不幸な少女の葬儀で出会ったリノンを歓迎した。未だ妹の死を諦めきれないリノンは良い信者になることが分かりきっていた。リノンは真面目な青年だった。オメガの思惑通り、リノンは熱心にミサに通う模範的な姿勢を見せた。
「ぼくはフェニキア教団に入信してから、この教団に我が身を捧げ尽くしました」
「あなたの信仰心が篤いことは、存じているよ」
リノンの貯金はここ数年で教会への献金の為に目減りしていた。
「ここ数年、ぼくはここと職場以外の場所へ出掛けていない。やれることはやった筈です。しかし、ぼくは妹に会えていない。夢にすら出てきてくれないのです。何故でしょうか。フェニキアの教義によると、信仰さえ有れば死別した人間との再会は叶う筈ですが」
オメガは鷹揚に頷き、バクラヴァにフォークを刺した。この店のスイーツは上質なことで有名だった。
「足りないでしょうか。まだ、ぼくに何が足りないでしょうか」
リノンは救いを求めるようにオメガを見つめる。信者の懺悔を聞くのはオメガの仕事の内でもあったが、彼は少しこの青年の言葉に飽きを感じていた。彼はリノンの言葉を適当に聞き流しながら、バクラヴァの最後の一切れを食べ終えた。
「君は聖書をよく読んだかい?」
「そりゃあもう。毎週ミサで読まされて、暗唱できますとも」
出し抜けに問いかけられ、リノンはきょとんとした。
「フェニキア新世界訳福音書第1章第1節を覚えているかい?」
「『フェニキアの御許、白月の空の下、召されし花と空蝉の再会を祈りし場所へ』」
リノンはスラスラと暗唱してみせた。
「その通り。神のみ言葉をよくよく考えることだ」
そして、オメガは懐から自分の名刺を取り出した。
「これを渡しておこう」
「司祭さん、これは?」
「私の名刺だ。何かの役に立つこともあるだろう」
そして、オメガはカフェの席を立った。そろそろ、時間が迫っていた。なにぶん、ヘリオトロープにはオメガの顧客が沢山居た。

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———『フェニキアの御許、白月の空の下、召されし花と空蝉の再会を祈りし場所へ』。

これはフェニキア教団で信じられている聖書の1頁目に記載されている文言である。リノンはヘリオトロープの極北、北極星の下にある1軒の廃屋を訪ねた。廃屋に住み着いていた怪しい男は当初けんもほろろにリノンの来訪を跳ね除けていたが、オメガの名刺を差し出すと打って変わって態度を和らげた。人形に魂を入れる禁呪、人形師を名乗った男は、イオンの魂を取り戻すことをリノンに約束した。尤もその為にリノンは更に貯金を切り崩す羽目になったが、そんなことは妹との再会を目前にした彼にとって些細なことだった。人形師は並べられていた人形の中から、ひとつのドールを選んだ。そして何かしらの印を刻みつけ、ドールに何事かしているようだったが薄暗い屋内ではその手元はよく見えなかった。最後にドールの耳元に異国の言葉を囁きかけると、軋んだ音を立てながらドールは直立した。
「イオン、イオンなのか?」
思わずリノンが声を掛けると、ドールは小首を傾げた。その仕草は生前のイオンが困った時によくやる仕草にそっくりだった。
「確かにイオンの魂を召喚した。記憶は失ってしまっているが」
「構わない。兄妹なんだ、暫く一緒にいればきっと思い出すだろう」
リノンは礼を述べ、上着の中にイオンを隠すように包み込んだ。なにしろ、この魔法は禁呪中の禁呪なので誰かにイオンを見つけられたら即座に壊されてしまうだろうから。

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「ということなんですよ、やっぱり神様はいたんですよ!」
オメガは沈殿したコーヒーの粉をうっかり飲んでしまい、顔を顰めたところだった。今日はリノンの習慣であるオメガへの懺悔の日だったのだが、懺悔という様子ではなくリノンは浮かれた調子で近況報告をしていた。神のご加護で妹と再会できたという話の内容だった。最初こそぎこちない態度だったが、根気強く共に暮らしているうちにかつての面影を見つけることが出来たとのことだった。最近ではリノンに対しお兄ちゃんと呼び掛けるようになった。その姿は優しい性格のイオンそのままだった、とリノンは言う。それが果たしてリノンの妄想なのか、本当に神が再会させてくれたのかオメガにはわからない。だってフェニキア教団は一介の良心的な新興宗教に過ぎないので、人形師のことなど知らぬ存ぜぬだ。互いに分立して商売をやっている。だから、リノンが人形師の元に辿り着いたかどうかなどは本当に理解の及ばぬところだ。オメガはそれをリノンに尋ねる気も無かった。
「イオンに何かしてあげたいんです。しかし、イオンは外出もできないんですよ。ぼくは女性が何を喜ぶかなんてわからない。司祭さん、ご存知ないですか?」
世間話に付き合うのはオメガの仕事では無かった。オメガは早々に退席することにした。
「リノン君、妹さんに再会できたのは何よりだ。神様にきみの信仰が伝わったんだね」
オメガは微笑み、席を立った。帽子を被り直すと、思い出したようにリノンにこう告げた。
「そうそう、言い忘れていた。くれぐれも、幻想を信じ過ぎないように」
それはオメガにしては珍しく老婆心から出た言葉だったのだが、幻想に囚われた人々にはまるで届かないこともまた彼は知っていたのだった。

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午前のミサを終えて、アパートの自室へ帰宅したリノンをイオンは笑顔で出迎えた。人形師の用意した精巧な人形は表情の変化も付けられるもので、それがイオンの人間らしさを引き出すのに一役買っていた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「イオン、いい子にしてたか?」
リノンは腰を屈めてイオンを抱きしめた。
「うん、お兄ちゃんのこと待ってたよ」
「よし、ご飯にしよう」
リノンは水差しを取り出し、カーテンを開けた。普段はイオンが目撃されるのを恐れて、カーテンは閉め切っているのだ。陽光が薄暗い室内に満ちた。人形の原動力となるのは花だ。花には光合成と水が必要だ。柔らかな陽射しの中でリノンはイオンの髪を梳いてやった。人形の淡色の髪は生前のイオンの髪色に似ていた。穏やかなあの頃の時間を思い出すようだった。イオンの姿は人間ではなくなってしまったけれど、しかし何の問題があるだろう?イオンは確かに記憶が無かったが、イオンらしさは変わらなかった。素直な幼さでリノンのことを兄と慕っていたし、所作にもイオンの癖が表れていた。寂しがりやのイオンは夜一人で眠ることができずリノンの隣で眠ることを好んだし、生きていた頃好きだった絵本を繰り返し読んで楽しんでいた。だからこのドールがイオンであることにリノンは疑いを抱いておらず、この生活に満足していた。二人の静かな暮らしが永遠に続いていけばいいと思っていた。少なくとも、リノンが死ぬまでは。そしたら神のみもとに二人で行けば良い。
その時、部屋に金属音が鳴り響いた。リノンは来客を示すベルの音を久しく聞いていなかった。イオンにおとなしく待っているように言い付けると、リノンは対応するためにドアを開けた。玄関先に立っていたのは隣家の家内だった。世話焼きで優しい彼女は、昔からリノンのことを何かと気にかけてくれていた。生きている頃のイオンのことも知っている。イオンが死んだ後、悲しみに暮れるリノンを何かと励ましてくれたものだ。
「リノン、良かった。今日は日曜だから学校は休みだと思ったけど、あなた最近はどこかに行ってるみたいだったから」
彼女はほっとしたように笑顔を見せた。
「最近、カーテンを閉めっぱなしじゃないの。大丈夫?どこか具合は悪くないかしら?」
リノンは彼女のこういうところに大変感謝していた。己のことを疎かにしがちなリノンは、幼馴染のプリムラやこの奥さんのような人のおかげで社会性を失わず生きていけるのだ。
「ところで、昨日の夜もリノンがお話している声が聞こえたけれど。誰か、お友達でもできたのかしら?」
このアパートの壁はラジオの音が筒抜けになるほどに薄い。
「リノン、もし困っていることがあるならなんでも話してね。私はずっとあなたの味方だから」
リノンの心は揺れた。本当は不安だった。いつまでイオンのことを世間に隠し通せるか、てんで自信が無かった。誰かにイオンのことを話したくて仕方がなかった。イオンとの楽しい生活もまた、リノンは時折真実かどうか不安になるのだった。彼女は、幼い頃に母を亡くしたリノンとイオンにとっては母親のような女性でもあった。リノンは意を決して彼女を家の中へ招いた。

我にかえった時、リノンの両手は血に染まっていた。リビングに通された彼女は、イオンを目にした。最初はそれが何だかわかっていないようだったが、心を持った人形だとわかると真っ青になって震え始めた。これは何なの、という彼女の問いに、リノンはイオンだと答えた。彼女はイオンに心無い言葉を浴びせかけ、リノンに対し正気に返るように訴えかけ始めたのだ。
「こんなの、イオンじゃないわ」
彼女は必死になって主張した。
「気持ちが悪い。悍ましい。どうして人形が禁止されているのか知らないの?こんな命の在り方、間違ってる。よく見なさい、リノン。姿も形もイオンと大違いじゃない。あの子は可愛い人間の女の子だったのに。これはただの作り物の紛い物じゃないの…」
イオンは不安そうにリノンの後ろに隠れていた。リノンは彼女を信頼したことを後悔した。そのうち彼女は警察に行くと言い出した。リノンがいくら止めても、彼女の決心は固く気が変わるようには見えなかった。リノンはテーブルの上に置いてあったフルーツナイフを手に取った…。
赤く濡れたナイフを手にしながら振り返ると、イオンは震えながら壁際に突っ立っていた。兄の殺人を目の前にして、イオンができることは何も無かった。
「イオン、ごめんな。この人を家に入れるべきじゃなかったな」
リノンは青褪めたイオンを落ち着かせようと声を掛けた。それでもイオンの震えは止まらなかったので、リノンはフルーツナイフを投げ捨てた。
「イオンには何もしないよ。ぼくはイオンを守るためなら、何だってやるよ」
そしてイオンを抱きしめようと近づいたが、彼女は激しい拒絶の声を上げた。
「さ、触らないで」
硬直したリノンに、気まずそうに言葉を掛ける。
「お兄ちゃん、手が真っ赤だよ…。あたし、汚れちゃう…」
そして我に返ったようにこう言った。
「お兄ちゃん、ドールのあたしを守るために人を殺すなんてどうかしてる…。お兄ちゃん、あたしはドールなのに」
「イオン、おまえはイオンだよ。神様のおかげで生き返ったんだ」
「ううん、お兄ちゃん。生きてないの。あたし、喋れるし動けるけど、もう生きてないの」
二人の間に沈黙が流れた。やがて、イオンは呟いた。
「お兄ちゃん、この人が言ってたように警察に行かなきゃならないなら、行こうよ。お兄ちゃん一人でなんて行かせないよ。あたしも一緒に行くから」
「そんなことしたら、」
リノンは喘ぐように答えた。
「おまえは壊されちゃうだろう」
「でも、お兄ちゃん、どうせまたこうなるでしょ」
イオンは顔を覆った。彼女がドールでなければ、その瞳から涙が流れていたのかも知れなかった。
「お兄ちゃんが行かないなら、あたし一人で行くから。お兄ちゃんにもうこんなことさせたくないよ」
「イオン、そんなこと許さない」
隣家の家内の遺体の死後硬直が始まっていた。開いたカーテンから差し込む夕焼けの色がひたすらに赤かった。

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「…それで、妹とうまくいっていないんです」
オメガは本日は、既にスイーツを食べ終えていた。そしてリノンの長い懺悔を、長く骨張った指を組んで静かに聞いていた。妹を人形として蘇らせたこと、妹を守る為に殺人を犯したことを打ち明けたリノンは大変疲れているように見えた。
「妹は、殺人鬼とは一緒にいられないと言うんです。自分は命を神様に返すから、お兄ちゃんは贖罪してくれと」
リノンは隣家の家内を殺しただけに留まらなかった。人が1人消えるというのは大ごとで、リノンは1件の罪を隠すために隣家の主人とその幼い子供を手に掛けなければならなかった。そしてそれらの悪事を隠す為に今度は誰を殺さなければならないのか、考えるだけでも頭の痛いことだった。
「こうなったのも、フェニキア教団のせいです。妹に巡り会えた恩義はありますが、どうか助けて貰えないでしょうか」
「さて、」
オメガは顎に手をやった。
「うちの教会がやっているのは、死別により心に傷を負った人間の救済なのでね。あなたの話は管轄外だ。殺人犯を匿うことなどできませんよ」
「そんな。人形師を紹介してくれたのは、あなたじゃありませんか」
オメガは微笑んだ。とても冷淡な笑みだった。
「さぁ、何のことだか。うちの教団がそんな禁呪と関わる訳がないでしょう」
リノンは真っ青になって席を立った。
「ああ、もうぼくにはあなたしかいなかったのに」
そうはっきりと言うと、彼は走り去った。それがオメガがリノンを見た最後の姿である。

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その数日後のことだった。ヘリオトロープの新聞の片隅に一つの事件が掲載された。とある安アパートで研究職の男性の遺体が発見されたという。遺体の損傷は激しく、どうも魔法で殺されたのではないかと憶測されていた。室内には争ったような形跡があり、動物か何かを監禁していたような鎖やケージなどは悉く破壊されていた。ガムテープで目張りされた窓ガラスは内側から割られていたという。部屋の中にはスミレの花びらが大量に落ちていたそうだ。近所に事情聴取しようにも、隣家はもぬけの殻でこちらも追って調査するという。朝食のムサカを食べながらその記事を目にしたオメガは、静かに目を瞑って十字を切った。そして、外出の用意を始めた。

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そのしめやかな葬儀は雨の日に執り行われた。オメガは棺桶の中に横たわるリノンを眺めた。修復された彼の遺体はまるで眠っているように見えたが、布で隠された箇所から察するに首から下の損傷が激しいことが手に取るようにわかった。オメガは彼の額に控えめに別れのキスを落とした。そして教会の中を見渡すと、一人の泣きじゃくっている女性を見つけた。年の頃はリノンと同じくらいに見えた。
「リノン、何でなのよ。やっぱり、変な宗教になんてハマるからだよ。アタシ、何度も何度もやめろって言ったのに!リノンのことなんて、もう大嫌いなんだから」
オメガは唇に微笑を浮かべた。そして、彼女に声を掛けた。もうかつてのように腰を屈める必要も無ければ、キャンディで宥める必要も無かった。彼女はすっかり大きくなっていて、すぐにでも入信資格を得られるように思えた。

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フェニキア教団は少女『アリス』を掲げて遺族の救済を心から願う良心的な新興宗教である。死別した大切な人との再会を願う成人になら、平等に神を信じる資格が与えられる。信者たちはいつか神様に願いが聞き届けられる日を夢見て、ひたむきに日々祈りを捧げているのだ。

【補足】

オメガ 
ギリシャ語の24番目の最後のアルファベット『Ω』。偽名。
24人、こんな司祭がいるのかもしれません。
『α』(アルファ)さんはリーダーかもしれません。人形だったらどうしよう…。

リノン
ギリシャ語で麻。

イオン
ギリシャ語でスミレ。

プリムラ
ギリシャ語で桜草。花言葉「少年時代の希望」「初恋」「叶わぬ初恋」

フェニキア教団
ギリシャ語で北極星。

フェニキア教団の目的は、教団の駒となる人形を増やすことです。人形には魔法が刻まれており、有事の際にはフェニキア教団の指示通り動きます。その為に遺族を洗脳し、人形を作るよう誘導しています。献金などはついでです。
しかし教団関係者も人によって様々な考えを持っているので、このオメガも何を考えているのかはわからないです。
恐らくここはヘリオトロープの支部に過ぎず、他国にも蔓延っているのではないでしょうか。

現在、教団は息のかかった人形を一定数世界に存在させることに注力しています。教団は人形と関わりの無い体で運営していること、また人形を一箇所にまとめるとリスキーなためリノンのような個人信者に管理を任せています。人形は寿命が短いので、ひとつひとつにあまり重きを置いていません。人形にはGPS的な魔法が埋め込まれており、有事の際は司祭が回収に来る予定です。

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