肩や首が凝ったとき、皆さんはどのように判断するでしょうか。
筋肉を触ってみて、硬くなっていたら「凝っている」
と考える方が多いのではないでしょうか。
確かに、筋肉の硬さと凝りには関係があります。
しかし、長年鍼灸や手技療法の現場で多くの方の
身体に触れてきた私には、以前から疑問に
感じていることがあります。
それは、筋肉が硬いことと、本人が感じている凝りは
必ずしも一致しないということです。
今回は、私自身の臨床経験をもとに、凝りと筋肉の硬さの関係
そして近年の測定機器やAIによる身体分析について
考えてみたいと思います。
カチカチの筋肉でも、凝っているとは限らない
例えば、肉体労働を長年続けている方を考えてみましょう。
日常的に身体を使っているため、筋肉が発達し、触れると
硬く感じられることがあります。しかし、その方が必ずしも
強い凝りや不快感を抱えているとは限りません。
もちろん、肉体労働によって筋肉に疲労が蓄積し、痛みや凝りが生じることもあります。ここで言いたいのは、筋肉が硬いという事実だけでは、本人の状態を判断できないということです。
反対に、普段あまり運動をしない女性を考えてみます。
筋肉全体を触ると柔らかく、一般的なイメージでは
「凝っていなさそう」に感じられるかもしれません。
ところが、ご本人は強い肩こりを訴えています。
さらに丁寧に観察すると、筋肉全体は柔らかくても
その奥に周囲とは異なる小さな硬い部分が見つかる
ことがあります。そして、その部分に刺激を加えると
「そこです!」
「そこを押してもらうと効きます」
という反応が返ってくることがあります。
もちろん、肉体労働者なら凝っていない、運動していない女性なら
硬結がある、という単純な話ではありません。性別や職業だけで
判断することもできません。
大切なのは、筋肉全体の硬さと、局所的な硬さ、そして本人が
感じている凝りを、それぞれ分けて考えることなのです。
筋肉の奥にある小さな硬結
私が施術で注目しているのは、筋肉全体の硬さだけではありません。
筋肉全体は比較的柔らかくても、局所的に硬く感じられる部分が存在することがあります。こうした部分を、ここでは「硬結」と呼びます。
そして、その部分に適切に刺激を加えると、患者さんが
「効く」と感じることがあります。
では、この硬結は何なのでしょうか。
筋肉の一部が持続的に収縮しているのでしょうか。それとも筋肉や
周囲の結合組織などに何らかの変化が起きているのでしょうか。
実は、触診だけでその正体を確実に判別することはできません。
筋スパズム、筋肉の緊張、局所的な硬結、筋筋膜性トリガーポイント
などは、互いに関連する場合がありますが、すべてが同じものと
いうわけでもありません。
私自身、長年の施術経験から、こうした局所的な硬結と「凝り」や「効く」という感覚には、何らかの関係があるのではないかと考えています。
しかし、その関係を明らかにするには、筋肉の構造や神経の働きについて
さらに調べる必要があります。
筋肉の硬さを機械で測れば、凝りが分かるのか?
以前、筋肉の硬さを機械で測定することが話題になった時期がありました。
また、近年では、イス型のマッサージ機などに、身体の形状や状態を
センサーで読み取り、AIによって施術する部位を判断する機能を
搭載した製品もあります。
こうした技術は、身体の状態を客観的に把握し
施術に役立てようとするものです。
では、機械で筋肉の硬さを測定すれば
凝っている場所が分かるのでしょうか。
私は、ここにも区別が必要だと考えています。
① 筋肉の硬さを測定すること自体には意味がある
筋肉の硬さを数値化する機器には、一定の条件下で測定結果を
再現しやすいものがあります。
例えば、筋肉に一定の刺激を加え、その変形や振動などから
組織の機械的な性質を測定する方法があります。
こうした測定は、筋肉の状態を数値として記録したり、同じ人の
施術前後の変化を比較したりする際に役立つ可能性があります。
つまり、機械で測定すること自体が間違っているわけではありません。
ただし、測定しているのは、あくまでも機器が評価できる物理的な性質です。
筋肉の硬さを測定できることと、凝りを正確に判定できることは
同じではありません。
② 硬さの数値だけで、凝りの原因は分からない
例えば、筋肉の硬さが数値で示されたとします。
その数値が高ければ、必ず凝っているのでしょうか。
反対に、数値が低ければ、凝りはないのでしょうか。
先ほどの肉体労働者の例を考えてみてください。
筋肉が硬くても、本人に症状がなく、日常生活に支障がない場合があります。
一方で、筋肉全体は柔らかくても、本人が強い不快感を
抱えている場合があります。
研究でも、筋肉の硬さと筋骨格系の痛みの関係は一貫しておらず
痛みのある人の筋肉が必ず硬いとは言い切れません。
そのため、硬さの数値だけで凝りの有無や原因を判定することには
限界があります。
③ AIが施術ポイントを見つける機能は、どこまで正確なのか?
イス型のマッサージ機などでは、センサーで身体の形状や位置を読み取り
その情報をもとに施術位置を調整する機能があります。
こうした機能は、身体に合わせて施術するための技術として有用です。
ただし、製品によって、実際に測定している情報や
AIの判断方法は異なります。
身体の輪郭や肩の位置を検出する機能と、筋肉の内部にある硬結を
直接測定する機能は別物です。
また、身体の形状や圧力分布などから施術位置を推定できたとしても
それだけで、その場所が本人の凝りの原因であると証明できるわけ
ではありません。
特定の製品が、実際にどのようなセンサーを使用し
何を測定しているのかは、メーカーの技術資料や
検証研究を確認する必要があります。
私はAIや機械による測定を否定しているわけではありません。
むしろ、客観的な測定と、施術者による観察を組み合わせることで
より適切な判断につながる可能性があると考えています。
ただし、機械が示すポイントと、本人が感じている凝りの
ポイントが必ず一致するとは限らないということは
理解しておく必要があると思います。
「効く」という感覚には、神経も関係しているのか?
ここで、もう一つ考えてみたいことがあります。
私たちが感じる痛みには、Aδ線維やC線維などの感覚神経が関係しています。
Aδ線維は比較的速く信号を伝え、鋭い痛みなどに関与します。
一方、C線維は伝導が遅く、鈍い痛みなどに関与します。
私は、筋肉の凝りや、施術時に感じる「効く」という感覚にも、こうした
感覚神経の働きが関係しているのではないかと考えています。
例えば、硬結に刺激を加えたとき、単に圧迫されて痛いだけなのか
それとも「痛いけれど、そこをもっと押してほしい」と感じるのか。
この違いには、感覚神経から伝わる情報だけでなく、脊髄や脳による痛みの
調節、本人の過去の経験や期待なども関わっている可能性があります。
ただし、C線維が凝りの原因であるとか、「効く」という感覚を
直接生み出していると断定することはできません。
硬結の成り立ちと感覚神経の働きがどのように関係するのか。
これは私自身が今後さらに考察していきたいテーマです。
大切なのは、数値や理論だけで決めつけないこと
筋肉の硬さを測定する技術も、AIによる身体分析も
使い方によっては有用なものです。
しかし、数値や機械の判断だけで、すべてが分かるわけではありません。
同じような硬さの筋肉でも、本人の感じ方は異なります。同じような
症状を訴えていても、身体の状態は人によって異なります。
だからこそ、筋肉全体の硬さだけを見るのではなく、局所的な状態
本人の訴え、刺激に対する反応、日常生活での変化などを総合的に
考える必要があるのだと思います。
そして、触れて硬い部分があるからといって、必ずそこを
強く揉めばよいというものでもありません。痛みの性質や
組織の状態によっては、刺激を控えたり、医療機関での
評価が必要になったりする場合もあります。
時間よりも、ポイント
私は、手技療法の価値は、何分間揉んだかだけでは測れないと考えています。
大切なのは、どこに、どのような刺激を加え、患者さんがどう感じたのか。
そして、その反応をもとに、何が必要なのかを考えることです。
筋肉が硬いから凝っている。
機械が測定したから、そこが原因である。
そう簡単には言い切れないところに、手技療法の難しさがあり
同時に奥深さもあるのではないでしょうか。
私は、既存の理論や新しい技術を否定するつもりはありません。
それらを学び、参考にしながらも、目の前の患者さんを
丁寧に観察することを忘れたくないと思っています。
「筋肉が硬い=凝っている」という考え方を、一度立ち止まって考えてみる。
そんな視点が、身体について理解を深める
きっかけになればうれしく思います。