【第3回】痛みを伝える神経、Aδ線維とC線維の違い

【第3回】痛みを伝える神経、Aδ線維とC線維の違い

記事
コラム
痛みと触覚を知る神経線維図鑑.png

手技療法で筋肉に触れていると、興味深いことがあります。

同じように押しているつもりでも、患者さんによって反応が違うのです。

「痛いです!」

そう言って身体をこわばらせる方もいれば、

「痛いけれど、そこです!」

「奥に響く感じがします」

と、痛みを感じながらも、その刺激を求めるような反応を示す方もいます。

また、痛みのある場所を押してほしいと感じる場合もあれば、少し触れただけでも「そこは触らないでほしい」と感じる場合もあります。

施術者の立場からすると、これは非常に興味深い違いです。

単純に考えれば、強く押せば痛く、弱く押せば痛くないはずです。
しかし、実際の身体の反応は、それほど単純ではありません。

では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。

筋肉の硬さだけで説明できるのでしょうか。それとも刺激を受け取る神経や
脳が痛みを処理する仕組みにも関係しているのでしょうか。

今回は、手技療法で出会うこうした反応を手がかりに
痛みを伝える神経線維と、触れる感覚を伝える神経線維
について考えてみたいと思います。

今回のキーワード――痛みと触覚を伝える神経線維


今回の記事では、主に4つの神経線維を取り上げます。

(神経線維の主な役割・特徴)
◎Aδ(エーデルタ)線維
比較的速く信号を伝え、鋭い痛みなどに関係する
◎C線維
比較的ゆっくり信号を伝え、鈍い痛みや持続する痛みなどに関係する
◎Aβ(エーベータ)線維
触覚、圧力、振動などの情報を伝える
◎C触覚線維(CT線維)
ゆっくりとした優しい触れ方に反応し、心地よい触覚などに関係する

※それぞれの代表的な特徴をまとめたものです。実際の痛みや触覚は
ひとつの神経線維だけで決まるわけではなく、複数の神経や脊髄・脳
での情報処理が関係しています。

なお、C線維とC触覚線維は、同じ「C」という名称でも区別が必要です。
C触覚線維は触覚に関わる神経線維の一種であり、痛みを伝える
C線維と同じものではありません。

1.同じ場所を押しても、なぜ感じ方が違うのか?


手技療法では、筋肉やその周辺に触れ、圧を加えることで、患者さんの反応を確かめることがあります。

そのときに生じる感覚は、単純な「痛い・痛くない」の二択ではありません。

チクッとする痛み。
ズーンと奥に響くような痛み。
重く鈍い痛み。
気持ちよさを伴う圧迫感。
触れられるだけで嫌だと感じる不快感。

同じ人でも、刺激する場所やその日の状態によって
感じ方が変わることがあります。

これは、刺激の強さだけでなく、刺激される組織、そこから伝わる神経情報
脊髄や脳での情報処理などが関係するためです。

さらに、過去に経験した痛みや、その刺激に対する予測、不安、安心感
なども、痛みの感じ方に影響することがあります。

つまり、施術者が加える刺激と、患者さんが感じる感覚は
必ずしも一対一で対応するわけではありません。

この違いを理解するために、まずは痛みを伝える
神経線維から見ていきましょう。

2.Aδ線維は、比較的速く伝わる痛みに関係する


Aδ(エーデルタ)線維は、髄鞘を持つ比較的細い神経線維で
信号を比較的速く伝えます。

Aδ線維が関係する痛みには、次のような特徴があります。

チクッとする鋭い痛み

刺されたような痛み

刺激された場所が比較的わかりやすい痛み

刺激の直後に感じる、比較的速い痛み

たとえば、指先に針が触れたときの「チクッ」という感覚です。

手技療法でも、刺激の加え方によっては、鋭く局所的な
痛みを感じることがあります。

ただし、患者さんが鋭い痛みを訴えたからといって、その痛みが
Aδ線維だけによって生じていると断定することはできません。

実際の痛みには、複数の神経線維や、脊髄・脳での
情報処理が関係しています。

3.C線維は、鈍く、じわじわとした痛みに関係する


一方、C線維には髄鞘がなく、神経信号を比較的ゆっくりと伝えます。

C線維が関係する痛みには、次のような特徴があります。

重く鈍い痛み

じわじわと続く痛み

焼けるような痛み

痛む場所が、はっきり特定しにくいことがある痛み

たとえば、どこかに強くぶつけた直後には鋭い痛みを感じ、そのあとから
ジンジンとうずくような痛みが続くことがあります。

このような痛みの変化には、Aδ線維とC線維の
両方が関係する場合があります。

手技療法で患者さんが「奥に響く」「重く感じる」と表現する
感覚についても、こうした痛みの性質を知ることは参考になります。

しかし、ここで注意したいことがあります。

「奥に響く痛みだからC線維が関係している」と
患者さんの表現だけで判断することはできません。

痛みの表現は、神経線維の種類を直接示すものではないからです。

Aδ線維とC線維の違いは、痛みを理解するための基本的な知識ですが
実際の施術では、それだけで身体の状態を説明できるわけではありません。

4.「触れる」という感覚を伝える神経線維


では、施術者が手で触れたり、さすったり
圧を加えたりしたときの「触られた」という感覚は
どのような神経によって伝えられるのでしょうか。

ここで重要になるのが、Aβ(エーベータ)線維です。

Aβ線維は、一般に太く、髄鞘を持つ神経線維で、信号を比較的
速く伝えます。皮膚への軽い接触や圧力、振動などの情報を
伝えるうえで重要な役割を果たしています。

たとえば、次のような感覚です。

手のひらで背中をさすられる感覚

指で皮膚に触れられた感覚

軽く押されたときの圧力

振動する器具が皮膚に触れた感覚

手技療法では、施術者が加える圧力だけでなく、手が皮膚に触れた瞬間から、圧の強さや変化まで、さまざまな感覚情報が生じます。

こうした触覚の情報は、施術を受ける人が刺激をどのように
感じるかにも関係します。

さらに、触覚にはAβ線維以外の神経線維も関わっています。

そのひとつが、**C触覚線維(CT線維)**です。

C触覚線維は、主に毛の生えた皮膚において、ゆっくりとした優しい触れ方に反応する神経線維として知られています。こうした刺激は、心地よさや情動的な触覚に関係すると考えられています。

ただし、C触覚線維は、深い筋肉を押したときの「奥に響く感覚」を
直接説明するものではありません。

また、手技療法で生じる感覚のすべてが、C触覚線維によって
説明できるわけでもありません。

ここで押さえておきたいのは、痛みを伝える神経だけでなく
触れる感覚を伝える神経も、施術中の身体の反応を考えるうえで
重要だということです。

5.触ってほしくない痛みと、触れてほしい痛み


ここで、もうひとつ考えてみたいことがあります。

それは、同じ「痛み」でも、触れてほしくない痛みと
触れてほしい痛みがあるということです。

たとえば、転んで膝を打った直後や、傷口に触れたとき。

多くの場合、そこには触れてほしくないと感じる痛みがあります。

刺激を避けたい、守りたいという反応が生じるのは、傷ついた組織をさらに
刺激しないための防御という面もあるでしょう。

一方で、肩や腰が痛いとき、無意識に手を当てたり、誰かに
さすってもらったりすると、少し楽に感じることがあります。

昔から「手当て」という言葉があるように、痛む場所に
手を当てる行為は、私たちにとってごく自然なものです。

同じ身体への接触なのに、なぜ反応が違うのでしょうか。

組織の状態と、身体の防御反応


まず考えられるのは、刺激されている組織や
そのときの身体の状態の違いです。

外傷によって組織が傷ついている場合、そこへの接触や圧迫が
痛みを強めることがあります。このようなときに、無理に
触れたり強く押したりすることは適切ではありません。

一方、肩こりや筋肉の不快感などでは、適度にさする、手を当てる
軽く圧迫するといった刺激によって、痛みや不快感が和らぐことがあります。

もちろん、肩や腰の痛みでも、炎症などによって触れるだけで
強く痛む場合があります。反対に、外傷があっても
周囲を優しく支えることで楽に感じる場合もあります。

したがって、単純に「外傷の痛み」と「筋肉の痛み」
に分けるだけでは説明できません。

重要なのは、そのときの組織の状態や刺激への反応です。

触覚が痛みの感じ方を変える


ここで参考になるのが、痛みの生理学で知られる
「ゲートコントロール理論」です。

簡単にいうと、皮膚などから入ってくる触覚の情報は、脊髄での痛みの
情報処理に影響し、痛みの伝わり方や感じ方を変えることがあります。

たとえば、ぶつけた場所をさすると少し楽になることがあります。

このような現象には、Aβ線維などからの触覚入力が
脊髄の神経回路を介して痛みの伝達を抑える方向に
働くことが関係している可能性があります。

ただし、これは単純に「触覚の神経が痛覚の神経を止める」
という仕組みではありません。

痛みの処理には複数の神経回路や脳の働きが関わっており
すべての痛みが触れることで和らぐわけでもありません。

「手当て」がもたらすもの


「手当て」という言葉を、こうした仕組みから考えてみると
興味深いものがあります。

痛む場所に手を当てる行為には、皮膚への触覚刺激が伴います。
その刺激が痛みの処理に影響する可能性があるうえ
触れられることへの安心感や信頼感なども、痛みの感じ方に
関係することがあります。

自分で痛む場所に手を当てるとき、私たちは無意識に
痛みを和らげようとしているのかもしれません。

誰かに優しく手を当ててもらう場合も同じです。

そこには、神経を通じて伝わる感覚だけでなく、触れられることへの予測や
安心できる相手かどうかといった要素も関係している可能性があります。

もちろん、手を当てるだけで、傷ついた組織そのものが
修復されるわけではありません。しかし、触れることに
よって痛みの感じ方や不快感が変化することはあり得ます。

「手当て」という身近な行為は、触覚と痛覚が単純に
独立しているのではなく、互いに影響し合っていること
を考える手がかりになるのです。

6.手技療法で感じる「響く痛み」は何なのか?


ここまでの話を、実際の手技療法に戻して考えてみましょう。

筋肉を押したとき、患者さんからこんな反応が返ってくることがあります。

「痛いけれど、そこです!」
「奥に響く感じがします」
「痛いけれど、嫌な痛みではありません」

一方で、同じような強さで押しても、

「それは痛いだけです」
「そこは押さないでください」

という反応が返ってくることもあります。

この違いは、単純に刺激の強さだけでは説明できないように思います。

刺激されている組織、神経系の反応、痛みを感じる場所
本人が普段感じている症状との関係など、さまざまな要素が
関わっている可能性があります。

また、患者さんが感じる「響く」という感覚が、実際にどの組織から
生じているのかを、感覚の表現だけで特定することもできません。

ここで重要なのは、施術者が感じる身体の硬さと、患者さんが感じる
痛みや不快感を、別々の情報として捉えることです。

触れたときに硬い部分があったとしても、それだけで症状の
原因だとは限りません。

逆に、筋肉全体が柔らかくても、患者さんが普段感じている
症状と関連する反応が得られることもあります。

第2回で取り上げた「硬結」や「阿是穴」の考え方とも
ここでつながってきます。

ただし、「そこです!」という反応が得られたからといって
その場所が必ず症状の原因であると断定することはできません。

痛みの感じ方を理解することと、その痛みを生み出している
仕組みを特定することは、別の問題なのです。

7.「痛みがあること」と「施術に適した刺激であること」は違う


手技療法では、痛みを伴う刺激がすべて悪いわけではありません。

しかし、痛ければ痛いほど効果がある、というわけでもありません。

刺激が強すぎれば、身体が防御的に反応したり
施術後に痛みが増したりすることもあります。

また、患者さんが「効く」と表現する痛みも、人によって意味が異なります。

心地よい刺激として受け入れられている場合もあれば
我慢しているだけの場合もあるでしょう。

施術者が「ここが悪いところだから」と考えて強く押しても
患者さんが求めている感覚と一致するとは限りません。

大切なのは、痛みの有無だけで判断しないことです。

どのような感覚なのか
いつもの症状と関係しているのか
刺激を弱めると、感じ方はどう変わるのか
施術中や施術後に、症状がどう変化するのか

こうした情報を丁寧に確かめることが、施術を考える手がかりになります。

もちろん、痛みの反応だけで原因や効果を確定
できるわけではありません。

必要に応じて、ほかの身体所見や医療機関での
評価も考慮する必要があります。

8.痛みと触覚を知ると、施術の見方が変わる


Aδ線維、C線維、Aβ線維、そしてC触覚線維。

これらを知るだけでも、「痛み」や「触れる」という感覚が
ひとつの単純な仕組みで成り立っているわけではないことがわかります。

ただし、手技療法で大切なのは、神経線維の名前を
覚えることだけではありません。

目の前の患者さんが、どのような刺激を、どのような
感覚として受け取っているのか。

触れられることを心地よく感じているのか。それとも
身体を守ろうとする反応が生じているのか。

その反応を観察し、必要に応じて刺激を調整しながら
身体の変化を確かめていくことです。

私自身、施術を考えるときには、筋肉が硬いか柔らかいかだけでなく
どこを刺激したときに、どのような反応が返ってくるのかを
大切にしています。

もちろん、触れた感覚や患者さんの反応だけで
すべてがわかるわけではありません。

それでも、身体の状態を理解するための
大切な情報のひとつだと考えています。

まとめ


今回のポイントを整理します。

Aδ線維:比較的速く信号を伝え、鋭い痛みに関係する
C線維:比較的ゆっくり信号を伝え、鈍く持続する痛みなどに関係する
Aβ線維:触覚や圧力、振動などに関係する
C触覚線維(CT線維):優しくゆっくり触れられる感覚や心地よさに関係する

触覚の刺激は、脊髄や脳での痛みの処理に影響し、痛みを和らげることがある

触れてほしい痛みと触れてほしくない痛みの違いには、組織の状態や
刺激への反応、安心感など、複数の要素が関係する

「痛い」「響く」「効く」という感覚だけで、原因や神経の種類を
断定することはできない

痛みを知ることは、身体を知ることにつながります。

そして、手技療法で身体に触れるということは
単に硬い部分を探すことではありません。

触れたときに何が起きているのか。患者さんはその刺激を
どう受け取っているのか。そして、その反応は身体の状態を
理解するうえで何を教えてくれるのか。

こうした問いを重ねていくことが、手技療法を
深く考えることにつながるのではないでしょうか。

次回は、今回の内容をさらに掘り下げます。

【第4回】「痛いけれど効く」はなぜ起こるのか?

患者さんが口にする「効く」という感覚は
いったい何を意味しているのでしょうか。

痛みと心地よさ、身体の反応、そして脳による感覚の受け取り方という
視点から考えてみたいと思います。
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