【第4回】「痛いけれど効く」はなぜ起こるのか?

【第4回】「痛いけれど効く」はなぜ起こるのか?

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コラム
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手技療法で筋肉に触れていると、興味深いことがあります。

同じように押しているつもりでも、患者さんによって反応が違うのです。

「痛いです!」

そう言われたあとに、

「でも、そこです!」
「痛いけれど、気持ちいい」
「奥に響く感じがします」

と続くことがあります。

一方で、同じように押しても、

「痛いので、やめてください」
「そこは触らないでほしい」

と感じることもあります。

どちらも痛みを感じているはずなのに、なぜ反応が違うのでしょうか。

さらに、もうひとつ考えたいことがあります。

それは、施術を受けた人が「満足した」と感じるのは、どのようなときなのか、という問題です。

時間をかけて丁寧に施術しても、患者さんが満足するとは限りません。反対に、短時間の施術でも「そこをやってほしかったんです」と、非常に満足されることがあります。

私は、施術における「効く」という感覚と「満足する」という感覚には深いつながりがある一方で、同じものではないと考えています。

今回は、痛みと触覚を伝える神経の働きから、施術中の反応、そして患者さんの満足感まで、手技療法の現場で感じる疑問を掘り下げてみたいと思います。

今回のキーワード――痛みと触覚を伝える神経線維


まず、今回の記事に関係する神経線維を簡単に整理しておきます。

神経線維主な特徴Aδ(エーデルタ)線維比較的速く信号を伝え、鋭い痛みなどに関係するC線維比較的ゆっくり信号を伝え、鈍い痛みや持続する痛みなどに関係するAβ(エーベータ)線維触覚、圧覚、振動覚などを伝えるC触覚線維(CT線維)ゆっくりとした優しい触れ方に反応し、心地よい触覚などに関係する

これらは、それぞれの神経線維が持つ代表的な特徴です。

実際に私たちが感じる痛みや心地よさは、特定の神経線維ひとつだけで決まるわけではありません。複数の神経から伝わる情報に加え、脊髄や脳での情報処理、身体の状態、過去の経験なども関係しています。

なお、C線維とC触覚線維は、同じ「C」という名称を持ちますが、ここでは役割を区別して考える必要があります。

この違いを踏まえながら、手技療法で感じる「効く」という感覚について考えていきましょう。

1.痛いのに、なぜ「そこです!」となるのか

施術中、筋肉を押したときに患者さんが「痛い!」
と反応することがあります。

しかし、その直後に、

「でも、そこです!」
「その痛みが欲しかったんです」

と続くこともあります。

施術者からすれば、どちらも痛みを伴う反応です。
それなのに、患者さん自身は明確に違いを感じています。

ここで考えたいのは、痛みがあることと、その刺激を嫌だと感じることは、必ずしも同じではないという点です。

痛みは、単に身体に加わった刺激の強さだけで決まるわけではありません。

刺激を受けた組織の状態、神経から伝わる情報、脳での情報処理、過去の経験、安心感や緊張など、さまざまな要素が関係しています。

そのため、ある人にとっては不快な刺激でも、別の人にとっては
「自分が求めていた刺激」と感じられる場合があります。

また、同じ人でも、その日の体調や気分、疲労の程度によって
感じ方が変わることがあります。

ただし、本人が「効く」と感じていることと、その刺激によって症状の原因が取り除かれていることは、分けて考える必要があります。

2.「痛気持ちいい」は、強く押せば得られるものではない

「痛気持ちいい」という言葉があります。

痛みと心地よさという、一見すると相反する感覚が
同時に存在する状態です。

この感覚は、単純に刺激を強くすれば得られるものではありません。

同じ強さで押しても、気持ちよく感じる人もいれば
ただ苦痛に感じる人もいます。

手技療法では、圧の強さだけでなく、圧を加える方向、速度
持続時間、接触する面積などによっても感覚が変わります。

そして、施術を受ける人がその刺激を
どう受け止めるかも無視できません。

施術者が「十分に圧をかけた」と思っていても
患者さんが求めている感覚とは違うことがあります。

反対に、ごくわずかな刺激でも「そこです」と反応が
返ってくることがあります。

ここに、手技療法の難しさと面白さがあるのではないでしょうか。

大切なのは、強い刺激を与えることではなく
その人にとって適切な刺激を見極めることです。

3.「効く」という感覚には、神経と脳が関係している

前回の記事では、痛みや触覚に関係する神経線維について取り上げました。

鋭い痛みに関係するAδ線維、鈍い痛みや持続する痛みに関係するC線維、触覚や圧覚などを伝えるAβ線維など、私たちの身体には異なる感覚情報を伝える仕組みがあります。

しかし、実際に感じる痛みや心地よさは、特定の神経線維ひとつだけで説明できるものではありません。

複数の神経から伝わる情報が脊髄や脳で処理され、身体の状態や過去の経験などの影響も受けながら、私たちの感覚になります。

例えば、ぶつけた場所を思わず手で押さえたり
さすったりすることがあります。

これは「手当て」とも呼ばれる、ごく身近な行動です。

触れる刺激が痛みの感じ方に影響することは、神経の働きからも説明できます。触覚などの入力が、脊髄での痛み情報の伝達を調整する場合があるためです。

ただし、触れれば必ず痛みが和らぐわけではありません。
傷ついた場所を触られたくないと感じることもあります。

重要なのは、身体に加わる刺激と、本人が感じる痛みは
単純な一対一の関係ではないということです。

4.「触れてほしくない痛み」と「触れてほしい痛み」

この違いを考えるうえで、日常生活の例が役立ちます。

例えば、転んで膝を擦りむいたとき。

傷口に触れられると、強い痛みや不快感を覚え
思わず身体を引いてしまうことがあります。

このような場合、身体は刺激を避けようとします。
傷ついた組織を守るための反応が関係していることもあります。

一方、肩や腰がつらいときに、自分でその部分を押さえたり
誰かにさすってもらったりすると、心地よく感じることがあります。

この場合は、触れること自体が安心感につながったり、感覚入力によって痛みの受け取り方が変化したりする可能性があります。

もちろん、肩や腰の痛みであっても、触れられたくない場合はあります。急なケガや炎症などが関係していることもあるため、場所だけで一律に判断することはできません。

また、「触れてほしい」と感じるからといって
強く押すほどよいということでもありません。

ここで大切なのは、痛みの場所だけでなく、触れられたときの
反応にも目を向けることです。

身体が刺激を避けようとしているのか。それとも刺激を受け入れ
さらにその感覚を求めているのか。

施術者にとって、こうした反応は施術を考えるうえでの
大切な手がかりになります。

ただし、反応だけで組織の状態や原因を断定することはできません。
本人の言葉や症状の経過なども含めて判断する必要があります。

5.「奥に響く」という感覚は何なのか

手技療法では、「奥に響く」「ズーンとくる」
「そこから広がる感じがする」といった表現を聞くことがあります。

こうした感覚は、施術を受ける人が刺激の質を伝えるために使う言葉です。

ただし、「奥に響く」という感覚が、必ずしも筋肉の深部に刺激が
届いていることを意味するわけではありません。

皮膚や筋肉などからの感覚情報に加え、刺激を受けた部位、刺激の方向
神経の働き、脳での情報処理などが複雑に関係していると考えられます。

また、刺激した場所とは少し離れたところに感覚が広がることもあります。

しかし、その感覚だけを根拠に、特定の筋肉や神経が原因だと
断定することはできません。

施術者にできることは、患者さんの表現を手がかりにしながら
刺激する場所や方法を慎重に調整し、反応の変化を確認することです。

「響くから効いている」と決めつけるのではなく
「どのような刺激にどのような反応が起きているのか」
を観察する姿勢が大切なのだと思います。

6.患者さんが満足する施術、満足しない施術

ここで、手技療法における「満足感」について考えてみたいと思います。

施術者にとって、満足度は決して簡単な問題ではありません。

例えば、時間をかけて全身を丁寧にほぐしたとします。施術者としては
必要な部位に十分な刺激を加え、よい施術ができたと感じている。

しかし、患者さんからすると、

「肩をもっとやってほしかった」
「つらいところにあまり触れてもらえなかった」

という感想になることがあります。

反対に、短時間であっても、本人が気になっていた場所に適切に触れられ
つらさが軽減したり、求めていた感覚が得られたりすると、

「そこをやってほしかったんです」
「短い時間でも、すごく満足しました」

という反応につながることがあります。

ここで、私自身の臨床経験から感じていることがあります。

それは、患者さんが施術に求めるものは、年齢や生活環境によっても
違いがあるということです。

若い世代では「一度の施術で得られる満足感」が重視されることがある
私の経験上、若い世代の患者さんには、仕事や家事、育児などで忙しく
身体のケアに使える時間が限られている方が少なくありません。

そのため、一度の施術に時間と費用をかけるのであれば
できるだけ早く変化を実感したい、つらさを少しでも軽減したい
と期待されることがあります。

限られた時間の中で施術を受けるからこそ、

「今日は楽になった」
「つらかったところが軽くなった」
「来てよかった」

という、その場で得られる実感が満足感に
つながりやすいのではないかと感じています。

もちろん、若い方のすべてが即効性を求めるわけではありません。
しかし忙しい生活の中で施術を受ける場合、一度の施術でどのような
変化を得られたかが、重要な評価基準になることがあります。

高齢の方では「無理なく継続できる施術」が重要になることがある
一方、高齢の患者さんの場合、長く続いている症状や加齢に伴う
身体機能の変化などが関係していることがあります。

こうしたケースでは、一度の施術だけで大きな変化を得ることが難しく
経過を見ながら、時間をかけて身体の状態を整えていく必要がある
場合もあります。

私の経験では、このような患者さんに対しては、一度の施術で
どれだけ満足していただけるかだけでなく、無理なく施術を
継続できる内容になっているかという視点が重要になることがあります。

例えば、施術後に強い疲労が残らないか、身体への負担が大きすぎないか
費用や通院の頻度が生活の負担にならないか。

そして、長い目で見たときに、日常生活の動きやすさや生活の質を
維持・改善することにつながるか。

こうした点を考慮しながら、施術の強さや時間、内容を調整することが
必要になる場合があります。

もちろん、高齢の方でも一度の施術で変化を求める方はいますし、若い方でも長期的なケアを重視する方はいます。年齢だけで施術に対する希望を決めつけることはできません。

大切なのは、目の前の患者さんが何を求め、どのような生活を送っていて、どのような形なら無理なく施術を受け続けられるのかを理解することです。

満足感を重視することと、継続性を重視すること


ここで考えたいのは、一度の施術で得られる満足感と、継続することを前提とした施術内容は、必ずしも対立するものではないということです。

その日のつらさが軽くなり、患者さんが満足することは大切です。

しかし、その満足感を得るために刺激を強くしすぎたり、施術時間を必要
以上に長くしたりすれば、身体への負担や費用の面でかえって継続が難しくなることもあります。

反対に施術者が長期的な回復を考えていても、患者さんが何の変化も
感じられず、施術の意味を理解できなければ、継続する意欲を
保つことは難しいでしょう。

だからこそ、施術者には二つの視点が必要なのだと思います。

ひとつは、その日の施術で、患者さんが納得できる変化や満足感を得られるように考えること。

もうひとつは、その人の身体の状態や生活に合わせて、無理なく続けられる施術を考えること。

一度の施術で変化を実感していただくことと、長い目で見て身体を
支えていくこと。その両方を意識することが患者さんにとって
意味のある施術につながるのではないでしょうか。

また、継続を勧める場合にも、漫然と通院を続けてもらうのではなく
施術の目的や期待できる変化を説明し、経過を確認しながら
必要性を見直していくことが大切です。

7.満足感と、実際の施術効果は同じなのか?

患者さんが満足して帰られたとき、施術者としてもうれしいものです。

しかし、満足感が高いことと、症状が改善していることは
同じではありません。

施術中の刺激が心地よかった、丁寧に対応してもらえた、話を聞いて
もらえて安心した。こうした経験は、満足感につながります。

一方で、症状の改善を考えるなら、痛みがどう変化したのか、身体を
動かしやすくなったのか、日常生活で困っていたことが軽減したのか
なども確認する必要があります。

施術直後には満足していても、翌日には症状が戻ることがあります。
反対に施術中には大きな変化を感じなくても、時間の経過とともに
楽になる場合もあります。

そのため、施術中の感覚だけでなく、施術後の経過も含めて
考えることが重要です。

そして、長期的な施術を考える場合には、継続すること自体を目的に
するのではなく、身体の状態や生活上の目標に照らして、施術内容や
頻度を適宜見直していく必要があります。

満足感を軽視する必要はありません。患者さんが安心して希望を
伝えられることや、施術者との信頼関係を築けることは
施術を継続するうえでも大切な要素です。

つまり、満足感と施術効果は区別して考えるべきですが
互いに無関係というわけでもありません。

患者さんの満足感を大切にしながら、症状や機能の変化も確かめ、無理なく続けられる方法を一緒に考えていく。

その両方の視点が必要なのだと思います。

8.痛みが強いほど、施術の効果も高いのか?

ここは、特に強調しておきたいところです。

痛みが強いことと施術の効果が高いことは、同じではありません。

強い刺激を受ければ、身体が緊張したり、身を守ろうとして
力が入ったりする場合があります。

施術中に息を止める、身体をこわばらせる、無意識に逃げるような
動きをする。

こうした反応が見られるときは、刺激が強すぎないか
本人が不快に感じていないかを確認する必要があります。

一方で、適切な刺激が本人にとって心地よく
症状の軽減につながる場合もあります。

ただし、心地よさだけで施術の効果を判断することもできません。

「痛いけれど効く」という感覚を否定する必要はありません。

しかし、その感覚を理由に、我慢を強いたり、必要以上に
強い刺激を加えたりすることは避けるべきです。

患者さんが「痛い」と伝えたときには、その言葉を単なる施術中の反応と
して流さず、刺激を調整するための情報として受け止める必要があります。

9.手技療法で大切なのは、刺激の強さよりも反応を読むこと

ここまで考えてくると、手技療法で大切なのは、単に強く押すことでも
長い時間揉むことでもないと感じます。

同じ部位に同じような刺激を加えても、反応は人によって異なります。

その違いを無視して、誰に対しても同じ強さ、同じ方法で施術すれば
よいというものではありません。

施術者は、手で触れたときの組織の感触だけでなく、患者さんの
言葉や表情、呼吸、身体の動きなどにも目を向ける必要があります。

そして、施術によって症状や動きがどう変化したのかを確認する。

こうした観察と調整を繰り返すことが、手技療法の精度を
高めることにつながるのではないでしょうか。

私が手技療法を考えるうえで大切にしたいのは、「どれだけ強く押せるか」「どれだけ長く施術するか」ではなく、「その人にとって何が必要なのか」を考えることです。

「そこです!」という反応は、施術者にとって大切な手がかりです。

しかし、それは答えそのものではありません。

その反応を出発点として、身体の状態や症状の変化、そして患者さんが
何に満足しているのかを丁寧に確かめていくことが必要です。

まとめ――「効く」と「満足する」を、施術の答えにしない

「痛いけれど効く」という感覚には、痛みを伝える神経、触覚の働き
脳での情報処理、身体の状態、過去の経験など、さまざまな要素が
関係していると考えられます。

そして、患者さんの満足感にも、刺激の感覚だけでなく、施術内容への
期待、説明、安心感、施術後の変化など、多くの要素が関わっています。

若い世代では一度の施術で得られる変化が満足感につながりやすい場合が
あり、高齢の方では、身体の状態や生活環境を踏まえ、無理なく継続
できる施術が重要になる場合もあります。

ただし、これはあくまでも私自身の臨床経験から感じている傾向であり
年齢だけで患者さんの希望を決めつけることはできません。

だからこそ、痛みの強さだけで施術の良し悪しを判断することも、満足感
だけで施術の効果を判断することもできないのです。

患者さんの感覚と希望を尊重しながら、刺激に対する反応を観察し
施術後の変化を確かめる。そして、その人に合った無理のない方法
を考えていく。

その積み重ねが、手技療法における「見極め」につながるのだと思います。

施術者が満足する施術ではなく、患者さんにとって意味のある施術を考える。

それは、患者さんの希望を何でもかなえるということではありません。
専門家として身体の状態を判断し、安全性と施術の目的を踏まえたうえで
本人にとって納得できる施術を一緒に考えるということです。

次回は、今回のテーマをさらに掘り下げます。

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