【第2回】手技療法から考える「凝り」の正体

【第2回】手技療法から考える「凝り」の正体

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コラム
筋肉の硬結と阿是穴を学ぶ図解.png

第1回では、「筋肉が硬いこと」と「凝りを感じていること」は
必ずしも同じではないというお話をしました。

施術中、筋肉全体を触ると柔らかいのに、その奥に
小さな硬い部分が見つかることがあります。

そして、その部分を丁寧に刺激すると、患者さんから「そこです!」
「そこが効きます!」という反応が返ってくることがあります。

私は長年、鍼灸や手技療法に携わるなかで
このような反応に注目してきました。

東洋医学には、こうした身体の反応を考えるうえで興味深い言葉があります。

それが、「阿是穴(あぜけつ)」です。

今回は、筋肉の中にある局所的な硬さ、いわゆる「硬結」と、筋スパズム
そして阿是穴という考え方を通して、手技療法における身体の見方を
考えてみたいと思います。

1.筋肉全体は柔らかいのに、なぜ硬い部分があるのか?


施術の際、筋肉に触れていると、全体としては柔らかく、よく動く筋肉の
中に、指先に引っかかるような小さな硬い部分を感じることがあります。

周囲の筋肉とは、明らかに感触が違う。

その部分を少し丁寧に探っていくと、患者さんから「そこです」
「そこを押されると、いつもの感じがします」といった反応が
返ってくることもあります。

私が興味深いと感じるのは、筋肉全体の硬さと、局所的な硬さが
必ずしも一致しないということです。

筋肉を大きな布に例えるなら、布全体は柔らかくても
一部分だけに小さな結び目ができているような状態です。

もちろん、実際の筋肉は布のように単純な構造ではありません。
しかし、筋肉全体の硬さだけを見ていては見つけにくい部分が
あることをイメージしていただけると思います。

ここで大切なのは、硬い部分があるからといって、それが必ず
不調の原因だとは限らないということです。

触れて感じられる硬さと、本人が感じている症状。
その両方を確認する必要があります。

2.「硬結」とは何なのか?


筋肉などの組織に触れたとき、局所的に硬く感じられる部分を
一般に「硬結」と呼ぶことがあります。

ただし、硬結という言葉は、触れて感じられる状態を表すものであり
それだけで原因や病態が確定するわけではありません。

筋肉の緊張や収縮、組織の性状、周囲の組織との関係など、触れたときの
硬さにはさまざまな要素が関係している可能性があります。

また、筋肉の中に硬い部分があるからといって
必ずしもそこが痛みの原因とは限りません。

反対に、本人が痛みや凝りを感じている場所と、施術者が触れて
硬さを感じる場所が、完全に一致するとも限りません。

つまり、硬い部分を見つけたことと、その部分が症状の原因だと
判断することは、分けて考える必要があります。

3.筋硬結と筋スパズムは同じなのか?


ここで、もうひとつ整理しておきたい言葉があります。

それが「筋スパズム(muscle spasm)」です。

筋硬結と筋スパズムは、どちらも筋肉の硬さや緊張と関係して
使われる言葉ですが、厳密には注目している現象が異なります。

筋硬結は、主に筋肉の一部分に硬いしこりのような感触が
認められる状態を表す言葉です。

一方、筋スパズムは、筋肉に生じる不随意な収縮を指します。
文脈によっては、痛みなどに伴う持続的な筋緊張を表す意味で
使われることもあります。

簡単に言えば、筋硬結は「局所的に硬く感じられる部分」に注目した
言葉であり、筋スパズムは「筋肉が収縮する現象」に注目した言葉です。

たとえば、筋肉全体は柔らかいのに、一部分だけが
硬く感じられることがあります。

このとき、触診で確認できるのは、その部分に局所的な
硬さがあるということです。

しかし、それだけで筋線維が持続的に収縮していると
判断することはできません。

硬さの背景には、筋肉の緊張や収縮だけでなく、組織の性状や周囲の組織との関係など、さまざまな要素が関係している可能性があるからです。

また、筋スパズムがあれば必ず硬結が触れるわけでもありません。

筋肉が硬く感じられることと、筋肉が収縮していることは
同じではないのです。

もちろん、筋硬結と筋スパズムが併存する場合も考えられます。
しかし、両者を同じものとして扱うのは適切ではありません。

私たち施術者が触診で感じ取れることは重要な情報ですが
触れた感覚だけで、その背景にある生理学的な現象まで
断定しないことも大切だと考えています。

この区別は、今回のテーマである硬結を考えるうえでも
押さえておきたいポイントです。

4.東洋医学の「阿是穴」とは?


ここで、阿是穴について考えてみましょう。

東洋医学では、経穴、いわゆる「ツボ」が知られています。経穴には
経絡という伝統医学上の体系に基づいて位置や名称が定められている
ものがあります。

一方、阿是穴は、あらかじめ決められた位置だけを
頼りにするのではなく、患者さんが痛みや反応を示す
場所を手がかりに見いだす穴として知られています。

「阿是」という言葉は、患者さんにその場所を押したとき
「ああ、そこです」という意味合いの反応が返ってくることに
結びつけて説明されることがあります。

つまり、あらかじめ決められた場所に身体を合わせるのではなく
実際の身体の反応から施術する場所を探っていく、という考え方です。

ここに、私は手技療法との共通点を感じます。

患者さんの身体に触れ、周囲との違いを確かめ、反応を聞きながら
施術する場所を見極めていく。

その場所が、必ずしも誰にでも同じ位置にあるとは限りません。
同じ肩こりを訴えていても、反応する場所は人によって違うことがあります。

症状が似ているからといって、全員に同じ場所を刺激すれば
よいとは限らないのです。

ただし、阿是穴は伝統医学における概念であり、現代医学で特定の組織や
病態が確認された場所と、そのまま同一視できるものではありません。

また、阿是穴は必ずしも硬い部分だけを指すわけではありません。
患者さんの反応を手がかりにする点が重要です。

5.阿是穴とトリガーポイントは同じなのか?


筋肉の局所的な硬さや、刺激によって痛みが再現される現象を考えるうえで「トリガーポイント」という概念もあります。

トリガーポイントは、筋肉などに存在する過敏な部位として説明され
圧迫によって局所の痛みや、離れた場所に感じる関連痛が生じること
などが特徴として挙げられます。

阿是穴とトリガーポイントには、患者さんの反応を手がかりに
施術部位を探るという点で、共通する部分があります。

しかし、両者は成り立ちも概念上の位置づけも異なります。

阿是穴は東洋医学の伝統的な概念であり、トリガーポイントは主に
筋筋膜性疼痛などを考える際に用いられてきた概念です。

したがって、阿是穴とトリガーポイントは重なる部分があっても
同じものだと断定することはできません。

また、トリガーポイントの触診評価については、施術者による
判定のばらつきなど、研究上の課題も指摘されています。

私自身、臨床で経験してきた現象を考えるうえで、これらの概念は
参考になります。しかし、ひとつの理論だけですべてを説明しよう
とするのではなく、目の前の患者さんの身体を丁寧に観察することが
大切だと考えています。

6.「そこです!」という反応は、何を意味するのか?


施術中、ある部分に刺激を加えたとき、患者さんが「そこです」
「そこが響きます」と反応することがあります。

この反応は、施術者にとって重要な手がかりです。

なぜなら、単に施術者が硬いと感じた場所ではなく、患者さん自身が
感じている症状や感覚と、その場所が結びついている可能性があるからです。

ただし、「そこです」という反応にも、いくつかの意味が考えられます。

普段から感じている凝りや痛みが再現された
心地よい刺激が得られた
痛みや圧迫感が強く、印象に残った
周囲とは異なる感覚が生じた

これらは、必ずしも同じものではありません。

「効く」という言葉も、人によって意味が違います。
心地よさを表している場合もあれば、痛みの再現や
独特の響く感覚を表している場合もあります。

だからこそ、施術者は反応の強さだけで判断するのではなく、患者さんが
どのような感覚を表現しているのかを確認する必要があります。

阿是穴という考え方を、単に「痛いところを押す」という意味に
捉えてしまうと、この重要な部分を見落としてしまうかもしれません。

大切なのは、患者さんの反応を確認しながら
その場所と本人の症状との関係を考えることです。

7.硬い部分を見つけたら、強く押せばよいのか?


ここも、誤解してはいけないところです。

硬い部分が見つかったからといって、そこを強く押せばよいとは限りません。

刺激が強すぎれば、痛みや防御的な筋緊張を引き起こす可能性があります。
また、強い刺激を加えたときの反応が大きいからといって、それだけ
施術効果が高いとは判断できません。

大切なのは、硬さの有無だけでなく、

その部分を刺激すると、本人の症状が再現されるのか
どの程度の刺激で、どのような感覚が生じるのか
刺激後に、本人の感じ方や身体の動きに変化があるのか
その変化が、本人にとって望ましいものなのか

といった点を丁寧に確認することだと思います。

阿是穴を探るという考え方も、痛みの強さを競うことではありません。

反応を確かめながら、適切な場所と刺激を見極めていくことが重要なのです。

なお、通常の凝りとは異なる強い痛みや、腫れ、熱感、しびれ
筋力低下などがある場合には、単なる硬結と決めつけず
医療機関での評価が必要になることもあります。

8.私が手技療法で大切にしていること


私が長年、手技療法に携わってきて感じるのは、身体を評価するときに
ひとつの基準だけに頼ることの難しさです。

筋肉の硬さは、ひとつの情報です。
患者さんの訴えも、ひとつの情報です。
触れたときの反応や、動作の変化も、重要な情報です。

それらを組み合わせながら、今、目の前にいる人の身体に
何が起きているのかを考えていく。

阿是穴という概念には、患者さんの反応を手がかりに施術部位を探るという
臨床において大切な視点が含まれていると感じます。

もちろん、触れた感覚や患者さんの反応だけで、すべての原因が
分かるわけではありません。

それでも、決められた場所や数値だけに頼らず、実際の身体と
向き合うことには、大きな意味があるのではないでしょうか。

硬結を見つけること自体が、目的なのではありません。

その部分が本人の感じている不調と関係しているのか。どのような刺激が
適切なのか。そして、施術によって何が変わるのか。

そこまで考えて初めて、硬結を見つけた意味が生まれるのだと思います。

おわりに


筋肉全体が柔らかくても、局所的に硬く感じられる部分がある。

そして、その部分への刺激が、本人の感じている凝りや
痛みと結びつくことがある。

これは、私が臨床の現場で繰り返し経験してきたことです。

東洋医学には、患者さんの反応を手がかりに施術する場所を探る
「阿是穴」という考え方があります。

その概念は、私たちが手技療法で身体に触れ、反応を確かめながら
施術部位を見極めることの意味を、改めて考えるきっかけになります。

また、筋硬結と筋スパズムの違いを考えることで、触れて感じられる硬さと
その背景にある生理学的な現象を区別する必要性も見えてきます。

硬い部分を見つけること、筋肉の収縮を評価すること、そして患者さんの
反応から施術ポイントを見極めること。

これらは互いに関係する場合があっても、同じことではありません。

だからこそ、触れた感覚を大切にしながらも、それだけで原因を決めつけず
身体の状態を多角的に考える必要があるのだと思います。

次回は、今回触れた「痛みを感じる仕組み」に目を向け、痛みを伝える
神経である Aδ線維とC線維 の違いについて考えてみたいと思います。
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