皆さんは「ライフプラン」という言葉をご存知でしょうか。
ファイナンシャル・プランナー(FP)が行う相談では、よく使われる言葉の一つです。
ライフプランというと、将来の収入や支出を予測したり、老後に必要な貯蓄額を計算したりすることをイメージする方も多いかもしれません。
もちろん、それらも重要な要素です。
しかし、私はライフプランを考えるうえで、もっと大切なことがあると思っています。
それは、「自分がどのような人生を送りたいのか」という理想を描くことです。
お金の計画は、その理想を実現するために立てるものです。
今回は、ライフプランの基本的な考え方から、生命保険や資産形成、住宅購入などへの活用方法、そしてファイナンシャル・プランナーの役割について解説したいと思います。
最後には、私がもう一つ専門としているマンション管理の分野から、「建物のライフプラン」との共通点についてもお話しします。
1.ライフプランとは?――まずは理想の人生を描くことから
ライフプランとは、簡単に言えば、これからどのような人生を送りたいのかを考える「人生設計」のことです。
例えば、結婚や出産、住宅購入、子どもの進学、転職、退職後の生活など、人生にはさまざまなライフイベントがあります。
もちろん、結婚しない人生や、住宅を購入せずに賃貸住宅で暮らし続ける人生もあります。
大切なのは、一般的な人生のモデルに自分を当てはめることではありません。
自分自身が、どのような人生を送りたいのかを考えることです。
例えば、次のような希望があってもよいと思います。
いつか理想のマイホームを購入したい。
子どもには、経済的な理由で進学を諦めさせたくない。
家族との時間を大切にできる働き方をしたい。
50代になったら仕事を減らして、趣味や旅行を楽しみたい。
70歳や75歳まで、自分に合った働き方で社会とのつながりを持ちたい。
老後は好きな場所に移住して、ゆとりのある生活を送りたい。
こうした希望を考える際には、最初から現在の収入や貯蓄額にとらわれすぎないことも大切です。
「今の収入では無理だろう」
「お金がかかるから諦めよう」
そう考えてしまうと、実現できるかもしれない選択肢まで狭めてしまいます。
もちろん、理想を描けば何でも実現できるわけではありません。
しかし、まず理想を描き、その実現のために何が必要なのかを考えることが、ライフプランの出発点なのです。
2.理想の人生を、具体的なお金の計画にする
理想の人生を描いたら、次に考えるのは、その実現にどの程度のお金が必要になるのかということです。
例えば、35歳で住宅を購入したいと考えている場合、購入資金や住宅ローンの返済計画を検討する必要があります。
子どもの教育についても、公立と私立では必要な費用が異なりますし、大学進学時にはまとまった資金が必要になることもあります。
また、老後の生活を考える際には、何歳まで働くのかという点も重要です。
従来は60歳や65歳で退職することを前提としたライフプランも一般的でした。
しかし、これからの時代は70歳、場合によっては75歳まで働くことも視野に入れて考えてよいと思います。
例えば、65歳で完全に退職する場合と、70歳まで働く場合では、将来の収入や貯蓄残高が大きく変わる可能性があります。
また、65歳以降は勤務日数を減らし、収入を得ながら趣味や家族との時間を増やすという働き方も考えられます。
ただし、健康状態などによって、希望どおりに働き続けられるとは限りません。
そのため、65歳で退職する場合、70歳まで働く場合、75歳まで段階的に働く場合など、複数のパターンを比較することも有効です。
ライフプランは、将来の選択肢を一つに決めつけるのではなく、さまざまな可能性を検討するためのものでもあります。
3.キャッシュフロー表で、将来のお金を「見える化」する
ライフプランを具体的なお金の計画に落とし込む際に活用されるのが、「キャッシュフロー表」です。
キャッシュフロー表とは、将来の収入や支出、金融資産残高などを年ごとに予測したものです。
例えば、給与収入や年金収入、日常の生活費、住宅費、教育費、保険料などを整理し、将来の家計の状況を数字として確認します。
ここで重要なのは、「現在いくら貯蓄があるか」だけでなく、「将来どのように金融資産が増減していくのか」を把握することです。
例えば、現在500万円の貯蓄があったとしても、住宅購入や教育費の支出が重なることで、将来の金融資産残高が大きく減少する可能性があります。
反対に、現在の貯蓄が少なくても、収入や支出の見通しを立て、計画的に準備することで、希望するライフイベントを実現できる可能性もあります。
また、キャッシュフロー表を作成した結果、将来の金融資産残高がマイナスになる見込みであれば、早い段階から対策を検討できます。
住宅購入の時期を変更する、支出の優先順位を整理する、働き方を見直す、資産形成の方法を検討するなど、選択肢は一つではありません。
ただし、キャッシュフロー表は一定の前提条件に基づく予測であり、将来の結果を保証するものではありません。
将来を正確に予言するためではなく、将来に備えて現在の行動を考えるために活用するものなのです。
4.ライフプランは、生命保険・資産形成・住宅購入の判断材料になる
ライフプランを作成する大きな意義は、将来のお金の動きを把握することだけではありません。
たとえば、メインの検討事項となりやすい、生命保険に加入する必要があるのか、積立投資を活用するべきなのか、住宅を購入するならいくらまでが適切なのか、などの
こうした判断を行うための土台になることにも、大きな意味があります。
生命保険は、万が一に備えるためのリスク管理手段
私は、生命保険については、資産形成や貯蓄の手段として考えるよりも、万が一の出来事によって家計が大きな経済的損失を受けるリスクに備えるための手段として考えることを基本としています。
例えば、小さな子どもがいる家庭で、家計を支えている人が亡くなった場合、残された家族の生活費や教育費をどのように確保するのかという問題が生じます。
このような場合、私は「収入保障保険」を有力な選択肢として考えています。
収入保障保険は、死亡時などに遺族が毎月一定額を受け取れる仕組みです。
子どもが成長するにつれて、将来必要となる生活費や教育費の総額は一般的に減少していきます。
収入保障保険は、こうした必要保障額の変化に対応しやすいという特徴があります。
ただし、誰もが民間の死亡保険に加入する必要があるわけではありません。
遺族年金などの公的保障、配偶者の収入、保有する金融資産などを考慮した結果、民間の生命保険が不要となる場合もあります。
保険は、加入すること自体が目的ではありません。
万が一の際にどの程度の経済的損失が生じるのかを把握し、自分たちでは負担しきれない部分について、必要な保障を確保することが重要です。
医療保険は、公的保障を理解したうえで検討する
一方、民間の医療保険については、私は特に慎重に検討するべきだと考えています。
日本には公的医療保険制度があり、保険診療の医療費については、原則として一定の自己負担割合が適用されます。
さらに、「高額療養費制度」によって、年齢や所得などに応じた自己負担限度額を超えた医療費について、一定の条件のもとで負担が軽減される仕組みがあります。
つまり、病気やけがで入院した場合でも、保険診療の医療費を際限なく自己負担しなければならないわけではありません。
もちろん、差額ベッド代や入院中の食事代、保険適用外の診療費など、高額療養費制度の対象にならない費用もあります。
また、会社員などの場合には、一定の要件を満たせば、傷病手当金によって休業中の収入減少を部分的に補えることもあります。
そのため、民間の医療保険への加入を検討する際には、まず公的保障や勤務先の福利厚生制度、現在の貯蓄額などを確認する必要があります。
十分な金融資産があり、医療費の自己負担や一時的な収入減少に対応できるのであれば、民間の医療保険に加入しないという判断も合理的です。
反対に、貯蓄が少ない場合や、休業による収入減少への備えが不十分な場合には、民間保険による保障を検討する余地があります。
重要なのは、病気になったときに保険金が受け取れるかどうかではなく、病気になったことで家計がどの程度困るのかという視点です。
公的保障を十分に理解しないまま、民間の医療保険に安易に加入することは避けるべきだと考えています。
積立投資は、目的と資金の使用時期を考える
積立投資についても同じことがいえます。
近年はNISAなどの制度を活用した長期・積立・分散投資が広く知られるようになりました。
しかし、積立投資は、誰もが無条件に始めればよいというものではありません。
例えば、数年以内に住宅購入を予定している場合、その頭金や諸費用に充てる資金まで、価格変動のある金融商品で運用することには慎重になる必要があります。
一方、老後資金など、長期間使う予定のない資金については、家計の状況やリスク許容度に応じて、積立投資を活用することが選択肢になります。
ライフプランを作成することで、いつ、どの程度のお金が必要になるのかを把握できるため、貯蓄として確保する資金と、長期的な資産形成に回せる資金を整理しやすくなります。
投資をすること自体が目的ではなく、将来の目標を実現するために、必要に応じて活用することが重要です。
住宅購入も、ライフプランから予算を考える
住宅購入についても、ライフプランは重要な判断材料になります。
住宅ローンの借入可能額だけを基準に物件を選んでしまうと、将来の教育費や老後資金の準備に影響する可能性があります。
しかし、ライフプランを作成しておけば、今後の収入や支出の変化を踏まえながら、無理なく返済できる住宅ローンの金額を検討できます。
さらに、マンションを購入する場合には、住宅ローンの返済だけでなく、管理費や修繕積立金、固定資産税なども考慮する必要があります。
特に修繕積立金については、将来の値上げを前提に資金計画を立てることが重要です。
「金融機関がいくら貸してくれるのか」ではなく、「自分たちの人生設計の中で、住宅にいくらまで使えるのか」。
この判断ができるようになることも、ライフプランを作成する大きなメリットです。
5.理想の人生を実現するために、ファイナンシャル・プランナーがいる
ここまで説明してきたように、ライフプランを考える際には、家計管理だけでなく、生命保険、年金、税金、資産形成、不動産、相続など、幅広い知識が必要になることがあります。
例えば、住宅購入一つを考えても、住宅ローンの返済だけでなく、将来の教育費や老後資金とのバランスを検討する必要があります。
また、万が一の際に家族の生活を守るためには、遺族年金などの公的保障を踏まえて、民間の生命保険がどの程度必要なのかを考えなければなりません。
このように、人生のさまざまな希望を実現するために、お金に関する問題を総合的に考える専門家が、**ファイナンシャル・プランナー(FP)**です。
ファイナンシャル・プランナーには、どのような資格がある?
実は、「ファイナンシャル・プランナー(FP)」という呼称自体は、資格を持っていなくても使用できます。
一方、FPに関する資格には、国家資格である「ファイナンシャル・プランニング技能士」と、民間資格である「AFP・CFP®」などがあります。
国家資格であるファイナンシャル・プランニング技能士には、3級・2級・1級の3つの等級があり、1級はその最上位等級に位置付けられています。
1級の検定試験では、一般的な家計管理や住宅ローン、生命保険、資産形成などの知識に加えて、資産家の相続・事業承継、不動産の有効活用、相続税の納税資金対策など、より高度で複雑な課題を想定した総合的なプランニング能力が問われます。
単に個別の金融商品や制度を理解するだけでなく、相談者の資産状況や家族構成、将来の希望などを踏まえ、複数の分野を横断して解決策を検討する能力が求められるのです。
私は大学在学中に、この1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産相談業務)に合格しました。
その後、独立系FPとして住宅購入や家計に関する相談業務にも携わったことがありますし、今もご相談を受けています。
もっとも、私が重要だと考えているのは、難しい資格を持っているFPに相談することではなく、
専門知識を活用して、相談者が理想とする人生の実現をお手伝いをしてくれるFPに相談することであり、それこそがファイナンシャル・プランナーの本来の役割だと考えています。
ライフプランを作成した結果、生命保険への加入が不要と判断できる場合もあります。
積立投資よりも、当面は現金を確保することを優先した方がよい場合もあります。
住宅購入についても、予算を抑えることや、購入時期を変更することが合理的な選択となるかもしれません。
何かの商品を購入することを前提にするのではなく、理想の人生を実現するために、本当に必要な手段を選ぶ。
私は、これがファイナンシャル・プランニングの基本だと考えています。
6.ライフプランは、一度作成すれば終わりではない
ライフプランを作成する際に、もう一つ重要なことがあります。
それは、将来の計画は、必ずしも当初の想定どおりに進むとは限らないということです。
例えば、転職によって収入が変わることもあれば、家族構成が変化することもあります。
また、物価上昇や金利の変動など、個人ではコントロールできない要因もあります。
仮に30歳の時点で75歳までのキャッシュフロー表を作成したとしても、その45年間、すべてが計画どおりに進むことは考えにくいでしょう。
だからこそ、ライフプランは一度作成して終わりではありません。
結婚や出産、転職、住宅購入など、大きなライフイベントが発生したときには、計画を見直す必要があります。
また、特に大きな変化がなくても、数年ごとに収入や支出、貯蓄状況などを確認し、必要に応じて修正することが望ましいでしょう。
ライフプランは、将来を正確に予言するためのものではなく、将来に備えて現在の行動を考えるためのものなのです。
7.長期修繕計画は、いわば「建物のライフプラン」
ここまで、個人や家族のライフプランについて説明してきました。
実は、私がもう一つ専門としているマンションの分野にも、これと非常によく似た考え方があります。
それが「長期修繕計画」です。
私は、マンションの長期修繕計画は、いわば「建物のライフプラン」であると考えています。
人間は、年齢を重ねるにつれて生活環境や健康状態が変化し、それに応じたお金が必要になります。
建物も同じです。
新築当初は大きな修繕費用が発生しなくても、築年数の経過とともに外壁や屋上防水、給排水設備などが劣化し、修繕や更新が必要になります。
人間のライフプランでは、結婚、出産、住宅購入、子どもの進学、退職など、将来のライフイベントを想定します。
一方、建物のライフプランでは、外壁の修繕、防水工事、設備更新、大規模修繕工事などが、いわば建物のライフイベントに当たります。
そして、どちらも将来必要になるお金を予測し、計画的に準備しておく必要があります。
個人や家族であれば、貯蓄や資産形成によって将来の支出に備えます。
マンションであれば、区分所有者から修繕積立金を徴収し、将来の工事費用に備えます。
また、ライフプランも長期修繕計画も、一度作成して終わりではありません。
個人のライフプランでは、収入や家族構成、健康状態などの変化に応じて計画を見直します。
建物の長期修繕計画でも、劣化状況や工事費の変動などを踏まえ、定期的に計画を見直す必要があります。
将来を予測し、必要な資金を準備し、状況の変化に応じて計画を修正する。
この基本的な考え方は、個人のライフプランも、マンションの長期修繕計画も同じなのです。
建物にも、いつか「終活」を考える時期が来る
さらに、もう一つ共通点があります。
それは、人生にも建物にも、いつか終末期が訪れるということです。
個人のライフプランでは、老後の生活費だけでなく、介護や相続、財産の整理など、人生の終盤に備えることも重要になります。
近年では、こうした準備を「終活」と呼ぶこともあります。
実は、マンションにも同じような問題があります。
建物は、適切な修繕や設備更新によって長く使用することができます。
しかし、建物や設備の老朽化が進むにつれ、修繕を続けるのか、大規模な改修を行うのか、建替えを検討するのか、あるいは建物を解体して敷地を売却するのかといった選択を迫られる可能性があります。
もちろん、マンションは築何年になったら必ず解体しなければならないというものではありません。
適切な維持管理によって長寿命化を図ることもできます。
一方で、建物を物理的に使い続けられることと、経済的・社会的に使い続けることが合理的であるかは、必ずしも同じではありません。
修繕費用の増大、設備の陳腐化、居住者の高齢化、管理組合の担い手不足など、建物以外の問題も生じるからです。
こうした問題を考えると、マンション管理においても、目先の大規模修繕工事だけでなく、建物を将来どのように維持し、最終的にどうするのかという長期的な視点が必要になるのではないでしょうか。
一般的な長期修繕計画は、必ずしも解体や建替えまでを対象としているわけではありません。
しかし、長期修繕計画を「建物のライフプラン」として捉えるのであれば、その先にある建替えや解体、敷地売却などの選択肢についても、いずれ考えていく必要があります。
人間が老後や終活を考えるように、マンションも将来の維持管理から最終的な出口までを見据える。
これも、ライフプランと長期修繕計画に共通する重要な考え方だと思います。
8.まとめ――ライフプランは、理想の人生を実現するためのもの
ライフプランを作成する目的は、将来の収入や支出を予測することだけではありません。
生命保険がどの程度必要なのか、積立投資を活用するべきなのか、住宅を購入するならどの程度の予算が適切なのか。
こうしたさまざまな選択について、自分や家族の人生設計を踏まえて判断するための土台になります。
そして、マンションの長期修繕計画も同じです。
どの時期に、どのような修繕工事を行うのか。
そのために、修繕積立金をいくら準備する必要があるのか。
さらに将来、建物をどのように維持し、最終的にどうするのか。
こうした判断を支えるために、長期的な計画が必要になります。
ライフプランは、人間の人生を考えるためのもの。
長期修繕計画は、建物の人生を考えるためのもの。
どちらも、計画を作成すること自体が目的ではありません。
将来のさまざまな選択肢を見据え、今から必要な準備を行うことに意味があります。
そして、ライフプランについて、私が最も伝えたいのは次のことです。
ライフプランは、お金に人生を合わせるためのものではありません。
理想の人生を実現するために、お金の使い方や備え方を考えるものです。
まずは、自分がどのような人生を送りたいのかを、自由に考えてみてはいかがでしょうか。
その理想を具体的な計画にする際には、ファイナンシャル・プランナーという専門家を活用することも、一つの選択肢だと思います。