飲食店で値上げを考えるとき、多くの方が最初に気にするのは、
「値上げしたら、お客様が減るのではないか」
という点ではないでしょうか。
もちろん、値上げによって販売数が下がる可能性はあります。
しかし、経営判断として本当に確認したいのは、単純に「お客様が減るかどうか」だけではありません。
重要なのは、
値上げ後に販売数が何%減ると、現在の粗利を維持できなくなるのか。
この数字です。
■ まず、現在の粗利を確認する
たとえば、あるメニューを次の条件で販売しているとします。
・販売価格:1,000円
・原価:400円
・1か月の販売数:100食
この場合、1食あたりの粗利は、
1,000円 − 400円 = 600円
です。
したがって、現在の月間粗利は、
600円 × 100食 = 60,000円
となります。
■ 1,100円に値上げしたら、何食まで減っても粗利を維持できる?
ここで販売価格を1,100円に値上げしたとします。
原価が400円のまま変わらない前提で考えると、1食あたりの粗利は、
1,100円 − 400円 = 700円
になります。
では、現在と同じ60,000円の粗利を確保するためには、何食販売すればよいでしょうか。
60,000円 ÷ 700円 = 約85.7食
つまり、約86食販売できれば、現在とほぼ同じ粗利を維持できます。
現在は100食売れているため、
100食 → 約86食
まで減っても、粗利ベースでは現在水準を維持できる計算です。
販売数の減少率で見ると、
約14%
です。
つまり、この条件では、
「1,100円に値上げすると、販売数が約14%減るまで現在の粗利を維持できる」
という見方ができます。
■ 値上げ率だけでは判断できない
「10%値上げする」
という数字だけを見ても、それが経営にとって良い判断なのかは分かりません。
確認したいのは、
現在の月間粗利
=(現在価格 − 原価)× 現在販売数
と、
改定後の月間粗利
=(改定後価格 − 原価)× 改定後販売数
の関係です。
たとえば価格を上げたことで販売数が多少減っても、1食あたりの粗利が増えることで、月間粗利を維持できる場合があります。
逆に、価格を上げても販売数が大きく減れば、粗利が悪化する可能性もあります。
だからこそ、
「何%値上げするか」
だけではなく、
「販売数がどこまで減っても現在の粗利を維持できるか」
まで確認することが重要です。
■ 「客数」と「販売数」は分けて考える
ここで注意したいのが、
「客数」と「販売数」は同じではない
という点です。
1人のお客様が複数の商品を注文することもあります。
そのため、個別メニューの価格改定を考える場合は、客数ではなく、
「そのメニューが何食売れたか」
という販売数で計算する方が適切です。
店舗全体の客数への影響は別途確認しながら、メニュー単位の採算判断では販売数量を見る。
この2つを分けて考えることが大切です。
■ 原価率だけを見ると判断を誤ることがある
飲食店では、
「原価率30%」
など、原価率を基準に価格を考えることがあります。
もちろん原価率は重要な指標です。
ただし、原価率だけでは、
「価格改定後に販売数が減った場合、月間粗利がどうなるか」
までは分かりません。
同じ原価率でも、
・販売価格
・販売数
・商品の構成
・値上げ幅
によって、店舗への影響は変わります。
経営上重要なのは、比率だけではなく、
最終的にいくら粗利が残るのか
まで確認することです。
■ 粗利を維持できても、営業利益まで同じとは限らない
ここでもう一つ注意したい点があります。
今回の計算は「粗利」を基準にしています。
粗利を維持できたとしても、
・人件費
・家賃
・水道光熱費
・決済手数料
・その他の固定費や変動費
などが変化すれば、営業利益まで同じになるとは限りません。
そのため、この考え方は、
「値上げ候補を絞るための一次判断」
として使うのが適切です。
メニュー単位の価格判断では粗利を確認し、さらに店舗全体では営業利益やCashまで確認する。
この2段階で考えると、より実務的な判断になります。
■ もう一つ確認したい「FL比率」
飲食店の店舗全体を見る場合、代表的な指標の一つがFL比率です。
一般に、
F = Food(原材料費)
L = Labor(人件費)
を意味します。
原材料価格や人件費が上昇しているのに販売価格を据え置けば、売上が変わらなくても利益構造が悪化する場合があります。
逆に、価格改定によって粗利が改善しても、販売数が大幅に減れば、店舗全体では期待した結果にならない可能性があります。
そのため、店舗全体では、
価格
↓
販売数
↓
粗利
↓
FL
↓
営業利益
↓
Cash
までつなげて考えることが重要です。
■ 全メニューを同じ割合で値上げする必要はない
もう一つ重要なのは、すべての商品を一律で値上げする必要はないということです。
たとえば、
A商品
→ 値上げしても粗利維持の余地が大きい
B商品
→ 少し販売数が落ちるだけで粗利が悪化する
C商品
→ そもそも月間粗利額が小さく、改善の優先順位が低い
といった違いがあります。
そのため実務では、
「何円値上げするか」
だけではなく、
「どの商品から見直すか」
まで考える必要があります。
■ 値上げ判断で最低限確認したい数字
価格改定を考えるときは、最低でも次の項目を確認すると判断しやすくなります。
・現在価格
・原価
・現在販売数
・現在の月間粗利
・候補価格
・候補価格での1食あたり粗利
・現在粗利を維持するために必要な販売数
・許容できる販売数減少率
基本となる計算式は、
現在の月間粗利
=(現在価格 − 原価)× 現在販売数
粗利維持に必要な販売数
= 現在の月間粗利 ÷(候補価格 − 原価)
です。
さらに、
許容できる販売数減少率
= 1 −(粗利維持に必要な販売数 ÷ 現在販売数)
と考えることができます。
■ 値上げは「販売数減少を当てること」ではない
値上げ後に販売数が何%減るのかを、事前に正確に予測することはできません。
実際には、
・競合店の価格
・商品の魅力
・立地
・顧客層
・ブランド力
・値上げの伝え方
・周辺の物価
など、さまざまな要因が影響します。
だからこそ重要なのは、
「販売数が何%減るかを当てること」
ではなく、
「どこまで販売数が減っても現在の粗利を維持できるか」
という自店側の許容範囲を先に把握することです。
■ 数字にすると、値上げ判断が変わる
感覚だけで考えると、
「お客様が離れそうだから値上げできない」
という結論になりやすくなります。
しかし数字に置き換えると、
「この価格なら、販売数が約○%減るまで現在の粗利を維持できる」
という形で考えられます。
これは値上げそのものを推奨するという意味ではありません。
値上げするかどうかを決める前に、
「自店にはどれくらいの安全余地があるのか」
を把握するための数字です。
■ Excelで判断できる形にする
1商品だけなら、この計算は電卓でもできます。
しかし、10品、20品、50品とメニューが増えてくると、
・候補価格を複数比較する
・販売数減少の許容範囲を確認する
・メニューごとの改善余地を比較する
・どの商品から価格を見直すか決める
といった作業を毎回手計算するのは大変です。
そこで私は、
価格・原価・販売数を入力すると、複数の候補価格について、
・想定月間粗利
・現在粗利との差
・粗利維持に必要な販売数
・販売数減少に対する余地
・メニューごとの改善優先順位
を確認できるExcelツールとして整理しています。
Coconalaの出品一覧には、
「飲食店 値上げ判断Excel」
を掲載しています。
さらに、価格改定だけではなく、
FL
営業利益
12か月Cash
Action
Monthly Review
まで店舗全体で確認したい方向けには、
「飲食店 経営判断Excel」
も用意しています。
改善施策を実行した後のBefore / Afterや継続改善まで管理したい場合は、
「飲食店 利益改善Excel」
という選択肢もあります。
用途に応じて、プロフィールの出品一覧から確認できます。
■ 最後に
値上げで重要なのは、
「何%上げるか」
だけではありません。
重要なのは、
「その価格に変更した場合、販売数がどこまで減っても現在の粗利を維持できるのか」
を把握することです。
価格改定を検討するときは、
現在価格
原価
販売数
を並べて、まず自店の数字で一度計算してみてください。
感覚だけだった値上げ判断が、
「どこまでなら耐えられるか」
という具体的な経営判断に変わります。