「利益は出ているのに、なぜか銀行口座の残高が減っている。」
事業をしていると、こんな状況が起こることがあります。
売上もある。
損益上は黒字。
それなのに、支払いが近づくとCashが足りない。
これは珍しいことではありません。
理由はシンプルです。
利益とCashは、同じものではないからです。
■ 黒字でもCashが減る理由
損益では、
売上 − 費用 = 利益
を見ます。
一方、実際の資金繰りでは、
「いつ入金されるか」
「いつ支払うか」
が重要になります。
たとえば、
・売上は今月計上した
・入金は翌月末
・仕入、人件費、家賃は今月支払う
という場合があります。
帳簿上では利益が出ていても、
現金はまだ入っていません。
その間にも支払いは発生します。
この「時間差」が、
黒字なのにCashが不足する大きな原因の一つです。
■ 具体的に数字で考えてみる
たとえば、ある月の事業が次の状態だったとします。
・売上:1,200,000円
・原価、固定費など:900,000円
損益だけを見ると、
1,200,000円 − 900,000円
= 300,000円
なので、300,000円の黒字です。
しかし、売上1,200,000円のうち、
今月実際に入金されるのが400,000円だけだったとします。
一方、900,000円の支払いは今月発生します。
すると、その月のCash増減は、
400,000円 − 900,000円
= ▲500,000円
です。
損益は300,000円の黒字でも、
Cashは500,000円減ります。
これが、
「利益は出ているのにお金がない」
という状態です。
■ 初期投資や設備購入でもCashは減る
もう一つ注意したいのが、
設備投資や初期投資です。
たとえば、
・厨房設備
・パソコン
・内装
・什器
・システム導入
・広告開始時の先行投資
などです。
会計上の費用計上と、
実際に口座から出ていくCashのタイミングが一致しない場合があります。
そのため、
「利益が出ているから大丈夫」
だけでは資金安全性を判断できません。
■ 在庫もCashを使う
物販事業では、在庫も重要です。
商品を仕入れた時点でCashは出ていきます。
しかし、その商品が売れて入金されるまで、
Cashは在庫という形で拘束されています。
売上が伸びるほど在庫を多く持つ必要がある事業では、
「成長しているのにCashが苦しくなる」
ことさえあります。
売上が増えていることと、
Cashが増えていることは別の話です。
■ 借入返済もCashを見る必要がある
借入金の返済も同様です。
返済した元本は、
損益上の費用とCashの動きが同じとは限りません。
そのため、
利益だけを見て資金余力を判断すると、
実際の口座残高とのズレが大きくなることがあります。
■ 大切なのは「今月末のCash」だけではない
資金繰りを見るとき、
「今いくらあるか」
だけを確認しても十分ではありません。
本当に知りたいのは、
「この条件のまま進んだとき、最もCashが減るのは何月か」
です。
たとえば今月の口座残高が1,000,000円あっても、
3か月後に大きな支払いがあり、
その時点でCashが▲200,000円になるのであれば、
現在の1,000,000円だけを見て
「資金は十分」と判断することはできません。
■ 12か月先まで見ると、最低Cashが見えてくる
そこで有効なのが、
月ごとにCashを並べることです。
たとえば、
Month 1
Month 2
Month 3
…
Month 12
まで、
・期初Cash
・入金
・固定費
・変動費
・臨時支出
・投資
・返済
などを反映します。
すると、
「12か月の中で、最もCashが少なくなる月」
が見えてきます。
この金額を、
最低Cash
として確認します。
■ 最低Cashがマイナスなら何を意味する?
たとえば12か月シミュレーションの結果、
最低Cashが
▲300,000円
だったとします。
これは、
現在の条件のまま進むと、
どこかの月で300,000円分の資金が不足する可能性がある
という意味です。
ここで初めて、
「何となく資金が不安」
ではなく、
「最低でも300,000円以上の対策余地が必要」
という具体的な判断に変わります。
■ 必要期初資金という考え方
さらに、
「最初にいくらCashを持っていれば安全ラインを下回らないか」
を考えることもできます。
たとえば、
最低Cashが▲300,000円で、
さらに安全余力として200,000円を残したい場合、
単純化すると、
500,000円分の追加余力
が必要になります。
このように、
現在のCash
↓
将来の最低Cash
↓
安全ラインとの差
↓
必要な期初資金
という順番で考えると、
資金繰りがかなり具体的になります。
■ 売上だけではなく「入金タイミング」も重要
同じ売上でも、
・現金決済
・カード決済
・請求書払い
・月末締め翌月末入金
・翌々月入金
ではCashの動きが変わります。
売上高が同じでも、
入金が遅くなるだけで資金不足が起きることがあります。
そのため、資金繰りを見る場合は、
「売れたかどうか」
だけではなく、
「いつ現金になるか」
まで確認する必要があります。
■ 3つのScenarioで見る
将来は予測通りになるとは限りません。
そのため、1つの計画だけを見るより、
・保守Scenario
・基準Scenario
・強気Scenario
のように複数条件で確認すると、
資金安全性を判断しやすくなります。
たとえば、
売上が10%下がったらどうなるか。
入金が1か月遅れたらどうなるか。
固定費が増えたらどうなるか。
このような条件を変えながら、
最低Cashがどう変わるか
を確認します。
■ 資金不足が分かったら、次は「何を動かすか」
資金不足を発見するだけでは、
経営改善にはつながりません。
次に必要なのは、
「何をいくら動かせば回復できるか」
です。
代表的な選択肢としては、
・売掛金回収を早める
・追加売上を作る
・固定費を削減する
・変動費を改善する
・在庫資金を減らす
・投資時期を調整する
などがあります。
たとえば、
資金不足額が500,000円
と分かった場合でも、
500,000円をすべて売上で補う必要があるとは限りません。
回収前倒し200,000円
固定費削減100,000円
追加売上によるCash改善200,000円
のように、
複数の対策を組み合わせることもできます。
■ 「資金が足りない」をActionに変える
ここまで整理すると、
単なる
「Cashが足りない」
という状態から、
・いつ不足するのか
・いくら不足するのか
・どの対策を使うのか
・何円動かす必要があるのか
まで具体化できます。
ここが資金繰り管理の重要なポイントです。
■ Excelで12か月先まで確認する
毎月のCashを手作業で計算することもできます。
ただし、
・売上
・入金タイミング
・固定費
・変動費
・初期投資
・臨時支出
・Scenario
を12か月分管理すると、
計算量が増えていきます。
そこで私は、
期初Cashや売上、費用などを入力すると、
・12か月Cash推移
・最低Cash
・最低必要期初資金
・安全余力不足額
・生存売上ライン
・入金遅延の影響
・複数Scenario
を確認できるExcelツールとして整理しています。
Coconalaの出品一覧では、
「12か月 資金生存Excel」
として公開しています。
さらに、
CashとKPIを一つの経営判断につなげたい場合には、
「経営判断Starter Excel」
があります。
また、
すでに資金不足が見えていて、
「回収をいくら早めるか」
「追加売上をいくら作るか」
「固定費をいくら下げるか」
まで回復Actionに落としたい場合には、
「資金回復Excel」
という形で整理しています。
用途に応じて、
プロフィールの出品一覧から確認できます。
■ 最後に
黒字であることは重要です。
しかし、
黒字 = Cashが安全
ではありません。
資金繰りで重要なのは、
「現在いくらあるか」
だけではなく、
「12か月の中で、いつCashが最も少なくなるか」
を見ることです。
そして不足が見つかったら、
「いくら足りないか」
で終わらせず、
「何をいくら動かすか」
まで具体化する。
利益とCashを分けて考えるだけでも、
経営の見え方は大きく変わります。