【第6章】農作業中のケガ、どこまで労災になるの?

【第6章】農作業中のケガ、どこまで労災になるの?

記事
コラム

― 特定農作業従事者の補償範囲 ―


農作業中にケガをしたら、どんな事故でも労災保険で補償されるのでしょうか?

「農業労災に特別加入しているから、農作業中の事故なら大丈夫!」

そう思っている農家さんもいらっしゃるかもしれません。

実は、農業労災の特別加入には、補償対象となる作業の範囲が決められています。

今回は、第3章でご紹介した「特定農作業従事者」について、実際の事故例を交えながらお話します。

また、2018年(平成30年)に行われた補償範囲の拡大についてもご紹介します。

昔の制度をご存じの農家さんにも、ぜひ読んでいただきたい内容です。


🌾 農作業中には、さまざまな事故があります


農業労災の事務を担当していた頃、さまざまな事故の連絡を受けました。

例えば……

① リンゴの剪定作業中の事故

脚立から転落してケガをしたり、剪定ばさみで指を切ってしまったり。
果樹栽培では、高い場所での作業も少なくありません。

② 牛の出荷作業中の事故

市場へ運んだ牛と柵の間に挟まれ、胸部を骨折してしまった農家さんもいらっしゃいました。
大きな家畜を扱う作業には、思いがけない危険が伴います。

③ 農産物を運搬中の交通事故

農家さんから交通事故の連絡を受けたとき、私はこんなことを確認していました。
「おケガはありませんか?」
「トラックには何を積んでいましたか?」
「どちらへ向かうところでしたか?」

一見すると、交通事故と積荷の内容は関係がないように思えますよね。

でも、当時の農業労災では、この確認がとても重要だったのです。

なぜでしょうか?後ほどお話しします。


🌾 特別加入していれば、どんな事故でも補償されるの?


特定農作業従事者の場合、補償対象となる農作業には一定の条件があります。

主な対象は、次の5種類の作業です。

① 動力機械を使用する作業

② 高さ2メートル以上の場所で行う作業

③ 牛・馬・豚に接触する、または接触するおそれのある作業

④ 酸素欠乏の危険がある場所での作業

⑤ 農薬を散布する作業

これらに直接付帯する行為も、補償対象となる場合があります。

例えば、リンゴの剪定作業中に脚立から転落した場合でも、作業していた高さや状況などを確認する必要があります。

また、農作業中にケガをしたという事実だけで、必ず補償されるわけではありません。

どのような作業をしていたときに、どのような事故が起きたのか。

ここが大切なポイントになります。


🌾 昔と今では、補償される作業の範囲が違います


ここで、少し昔のお話をしましょう。

農業労災の事務を担当していた頃、農産物の「集荷」と「出荷」の違いについて、労働基準監督署の担当者と何度も話し合ったことがあります。

例えば、野菜農家さんの場合。

① 畑で野菜を収穫する

② 作業場で洗浄・包装する

③ 出荷用の箱に詰めて集荷場へ運ぶ

以前は、農産物を運ぶ目的や、商品としての状態などによって、補償対象となる作業かどうかが区別されていました。

そのため、農産物を運搬中に事故が起きた場合には、何を積んでいたのか、どこへ向かっていたのかを詳しく確認する必要があったのです。

私自身、農作業と販売に関わる作業を区別することに、疑問を感じることもありました。

農家さんにとって、農産物を育て、収穫し、出荷することは、一連の仕事だからです。


🌸 2018年4月から補償範囲が拡大!


2018年(平成30年)4月から、農業者の特別加入制度では、農産物を市場などへ運ぶ出荷作業や、出荷後に行われる販売作業も補償対象に加わりました。

これは、農家さんにとって大切な制度の変更です。

以前の取扱いを覚えている方もいらっしゃると思います。

そこで、昔と今の違いを図解にまとめました。

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出荷・販売作業が補償対象に加わった後も、加入区分や作業内容、事故の状況などによって判断されます。


🌾 事故が起きたときに大切なこと


農作業中に事故が起きた場合、まずはケガをした方の安全と治療が最優先です。

そのうえで、労災保険の手続きを進める際には、次のような情報が重要になります。

「いつ、どこで事故が起きたのか」

「どのような作業をしていたのか」

「何が原因でケガをしたのか」


農業は、一般的な会社勤めとは働き方が大きく異なります。

決まった始業時間や終業時間がなく、天候や季節によって作業内容も変わります。

だからこそ、事故が起きたときの状況を正確に伝えることが大切です。

最終的に補償対象になるかどうかは、労働基準監督署が個別の事情を確認して判断します。

判断に迷う場合は、ご自身だけで「対象外だろう」と決めつけず、加入している団体や労働基準監督署へ相談してみてください。


🌸 おわりに

🌾 日本の農業を支える皆さんへ。

私たちの食卓に並ぶ野菜やお米、果物。

その一つひとつの向こうには、農家さんの日々の仕事があります。

農業は、自然を相手にする仕事です。

天候に左右されることもあれば、思いがけない事故が起きることもあります。

農業労災の事務を担当していた頃、私は多くの農家さんの事故に接してきました。

その経験を通して、農家さんが安心して働き続けられるよう、制度を知っていただくことの大切さを感じています。

一人でも多くの農家さんに、農業労災という制度を知っていただきたい。

そんな思いで、このシリーズを書いています。

これからも、農業労災についてわかりやすくお伝えしていきます。

🌾 次回予告

次回は「指定農業機械作業従事者」の補償範囲についてご紹介します。
トラクターや草刈機など、農業機械を使用しているときの事故。
どのような作業が補償対象となるのでしょうか?
次回も、実際の事故例を交えながらお話しします。😊



🌷 このブログを書いた人
Sato_coco
JA職員として農業労災の事務組合業務に従事し、特別加入の手続きや農作業中の事故対応などを経験。その後、社会保険労務士法人で労災申請業務に携わりました。これまでの実務経験をもとに、労災保険の制度や手続きを、できるだけわかりやすくお伝えしています。

📚 参考資料
・農林水産省「農業者のための労災保険の特別加入制度」
・厚生労働省「農業者のための特別加入制度について」
・厚生労働省「特定農作業従事者に係る特別加入」に関する通達

※本記事は2026年10月21日時点で確認した公的資料と、筆者の過去の実務経験をもとに作成しています。個別の事故について、労災保険の給付を保証するものではありません。

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