― 指定農業機械作業従事者編 ―
農業労災の特別加入制度には、加入区分によって補償される作業の範囲に違いがあります。
前回の第6章では「特定農作業従事者」の補償範囲についてお話ししました。
今回は、「指定農業機械作業従事者」について、具体的な事故例を交えながらご紹介します。
■ 農業機械による事故
農業機械は、農作業の効率を高める一方で、重大な事故につながる危険もあります。
例えば、次のような事故です。
🚜 トラクターの転倒・転落
畑で作業中、傾斜地や段差などでバランスを崩し、トラクターが転倒・転落する事故。
⚙️ 回転部分への巻き込まれ
コンバインのカッター部分に詰まったわらを取り除こうとして、手を巻き込まれる事故。
🌱 歩行用トラクターによる事故
畑を耕している途中、機体が急に後方へ動き、転倒した作業者の足がロータリー部分に挟まれる事故。
こうした事故は、実際に農作業の現場で起きています。
ただし、農業機械による事故であれば、すべて労災保険の補償対象になるわけではありません。
加入区分や使用していた機械、作業内容などによって判断されます。
■ 補償対象となる作業は?
指定農業機械作業従事者の補償範囲は、大きく2つに分けられます。
① 指定農業機械を使用する農作業
農作業場で、指定農業機械を使用して行う作業が対象です。
対象となる機械には、トラクターやコンバインのほか、動力草刈機、チェーンソーなども含まれます。
ただし、指定された機械を使用していることに加え、対象となる農作業に該当することが必要です。
対象となる機械については、厚生労働省の一覧表をご覧ください。
また、これらの作業に直接付帯する行為も補償範囲に含まれます。
ただし、機械の点検や整備などが、どのような場合でも対象になるわけではありません。
農作業との関係や、実際に行っていた作業の内容などによって判断されます。
② 指定農業機械の運転・運搬
指定農業機械を、農作業場と格納場所との間で運転・運搬する作業も対象になります。
例えば、
🚜 トラクターを格納場所から畑へ移動させる。
🚜 農作業を終え、トラクターを畑から格納場所へ戻す。
このような移動も、条件を満たせば補償対象になります。
また、苗・防除用薬剤・堆肥などを共同育苗施設等から農作業場へ運搬する作業についても、補償範囲に含まれる場合があります。
農業機械を使って作業している時間だけが、補償対象とは限らないのです。
■ 機械の点検・整備中にケガをしたら?
農業機械を使ううえで、点検や整備は欠かせません。
例えば、作業を終えて格納場所に戻り、機械の点検中に誤作動が起きて負傷した場合はどうでしょうか。
このような事故については、農作業に直接付帯する行為に該当するかどうかが重要になります。
機械の点検・整備というだけで、一律に補償対象になるとは限りません。
作業の目的や内容、点検・整備を行った場所、農作業との関係などを踏まえて、個別に判断されます。
■ 通勤災害は補償対象になる?
ここは、特に知っておきたいポイントです。
指定農業機械作業従事者の特別加入では、通勤災害は補償対象となっていません。
ただし、農業用トラクターやコンバインなどを運転し、格納場所から農作業場へ向かう途中の事故については、業務災害として補償対象になる場合があります。
つまり、
「移動中の事故だから補償されない」とは限らないのです。
移動の目的や使用していた機械、作業内容などによって判断されます。
■ 最後に
農業機械による事故は、日常の農作業の中で起こることがあります。
指定農業機械作業従事者の特別加入では、機械を使った農作業だけでなく、その作業に直接付帯する行為や、一定の運転・運搬作業も補償範囲に含まれます。
ただし、特別加入していることと、実際の事故が労災として認められることは別です。
事故が起きた場合は、加入している団体などに相談し、作業内容や事故の状況を確認しましょう。
そして何より、農業機械を使用するときは、安全確認を忘れずに。
農家さんが安心して農作業を続けられるよう、制度を知っておくことも大切です。
🌷 このブログを書いた人
Sato_coco
JA職員として農業労災の事務組合業務に従事し、特別加入の手続きや農作業中の事故対応などを経験。その後、社会保険労務士法人で労災申請業務に携わりました。これまでの実務経験をもとに、労災保険の制度や手続きを、できるだけわかりやすくお伝えしています。
参考資料
厚生労働省「農業者のための特別加入制度」
農研機構(NARO)農作業事故事例資料
※補償対象となるかどうかは、加入状況や個別の事故の状況などによって判断されます。